第461話 真夜中の回収劇
「まったくですよ。私たちに黙って出ていくとか、何を考えてるのよ」
「それはこっちのセリフだ。なんでお前らまで居るんだ」
魔王が頭を抱えている。
それもそうだろう。アンマリアだけならまだしも、エスカとミズーナ王女まで立っていたからだ。なんで全員揃っているのか。
「ちょっと、転生者勢ぞろいじゃないですか」
メチルまでツッコミを入れている。これには思わずミズーナ王女たちは顔を見合わせて笑っていた。
「最初に気が付いたのはエスカですけれどね。よっぽど魔王にぞっこんなのね」
「うるさいわね。とにかく、勝手にこそこそするような真似はさせないわよ」
アンマリアに言われて顔を真っ赤にするエスカ。夜で真っ暗なおかげで助かった。
「それよりも、呪具に動きがあったのですね」
エスカとアンマリアの睨み合いを無視して、ミズーナ王女は魔王たちに声を掛ける。
「ああ、あそこの小屋だ」
「あれ、あそこは……」
魔王が指差した先を見たミズーナ王女が、こてんと首を傾げている。何かを思い出そうとしているようだ。
「あそこって、おととしの食堂騒ぎの容疑者の家じゃなかったかしら」
ひょこっと横から顔を出すアンマリアである。
「食堂騒ぎとは何だ?」
魔王が気にかけている。
だが、小屋ががたがたと震え始めており、どうやら話をしている状況ではなくなったようだ。
「ちっ、どうやらもう余裕はなさそうだな。終わったら話を聞かせてもらうぞ」
魔王がどっしりと構えて小屋へと集中する。
「アルー!」
「ほいきた」
メチルもアルーを召喚して準備万端だ。
準備が整うと同時に、小屋が激しく崩れ落ちていく。
「ぢゅううううっ!!」
ものすごい大きな鳴き声が響き渡る。声から察するにどうやらネズミのようである。
「ちっ、ドブネズミごときが。呪具を飲み込んで暴走しているようだな」
魔王が険しい顔をしている。
呪具というのはそもそも魔王の持ち物だ。それを適当に扱われてかなり頭に来ているようである。
「魔王様。ここで本気を出すと周りの建物も全部吹き飛んでしまいます。せめて周辺を隔離してからでないと……」
メチルがいらつく魔王を諫める。
「それだったら、私に任せてちょうだい。ミズーナ王女殿下もいいかしら」
「いいわよ」
アンマリアの呼び掛けにミズーナ王女はすぐさま了承する。
「あと、エスカはあのネズミの動きを抑えて」
「はいはーい」
一人だけ別の事を頼まれたエスカは、ちょっと投げやりな返事である。
「グラヴィティ・プレス」
抑揚のない声で魔法を発動させるエスカ。やる気はなさそうな魔法の発動だが、呪具で膨れ上がった大ネズミの体を一瞬で地面に押さえつけていた。
「どう聞いても適当なのに、なんだこの威力は……」
思わず後退ってしまう魔王である。自分もやられた魔法だったがために、ちょっとトラウマが蘇ったようである。
「見た目だけですよ、適当なのは。エスカ王女殿下ってば、やる時はやりますからね」
魔王の反応に、メチルは淡々と話している。
「二人ともさっさと防御壁張っちゃってよ」
「なんでやる気のない人が仕切ってるのかしらね。まあ張りますけど」
エスカの投げやりな呼び掛けに反応するアンマリアとミズーナ王女。小屋の周りを取り囲む光の壁があっという間に完成する。
「魔王、さっさと呪具を回収して下さい」
「あ、ああ……」
エスカに言われて戸惑い気味の魔王である。
だが、その時だった。
「ぢゅううううっ!!」
ネズミが大声を上げる。
すると、どこからともなくざざざざという不気味な足音が聞こえてくる。そう、ネズミは仲間を呼んだのだ。
「メチル。あいつ、仲間を呼んだわよ」
「そういうこと。なら、私に任せてちょうだい。頼むわよ、アルー」
「メチルって治癒系と浄化だけだものね。しょうがない、私が頑張りますか」
アルーはメチルの頭の上からふわりと浮き上がる。
「まったく、妖精なんて姿になったせいでいろいろ不満が溜まってるのよね。ちょうどいい機会だわ。まとめて吹き飛んでしまいなさい」
両手を胸に前に構えて、魔法を使うために力を集中させるアルー。
「汚物は消毒よ。燃え上がれ、バーニングフレイム!」
「なに、物騒なことを言っているのよ……」
アルーが魔法を使うと同時に、メチルがツッコミを入れている。
そんな事はお構いなしに、一瞬でネズミたちが派手に燃え上がる。
「ちょっと、火力強すぎない? 周りの家大丈夫?」
あまりの威力に、心配になるメチル。
「大丈夫よ。私だって元貴族令嬢なんだから、そのくらいの配慮はできるわよ」
にっこりと笑うアルーだが、とても信用できない火力が出ているのでメチルの心配は消えなかった。
「さぁ、魔王。とっとと呪具を回収しちゃって下さい」
「言われなくとも」
魔王は地面に這いつくばる大ネズミに手を向ける。
「よくも我が宝物に手を出してくれたな。命をもって償え」
「ぢゅううっ!!」
魔王が魔法を放つと同時に、大ネズミの断末魔が夜の王都に響き渡る。
これだけの大騒ぎな回収劇だったというのに、夜の王都は何事もなかったかのように静かなままなのだった。




