第458話 最後の合宿を終えて
魔王とミスミ教官の戦いが決着するとスレイプニルは姿を消し、辺りは普段の静かな景色を取り戻していた。
ミスミ教官は魔王に負けた事に歯を食いしばっていたが、ミズーナ王女たちに促されてみんなのところへ戻ってきた。
「くそっ!」
ミスミ教官は悔しさのあまり机に強く拳を打ち付ける。その様子をびくびくとした様子で見守る他の教官たちだった。
「ミスミ教官、だいぶ悔しそうですね」
ひょっこり顔を出すエスカ。あまりにも声が大きいものだから聞こえてしまったのである。
「なんだ、エスカ・ミールか。どうしたのだ」
落ち着いた口調で話しているミスミ教官だが、顔を見る限り悔しいのが丸分かりの表情だ。
「いえ、戦っている様子を見ていて絶対悔しがってるだろうなと思って、声を掛けに来ただけです。やっぱりでしたね」
「絶対的な自信とまではいわないが、自分の力には誇りがあったからな。あれだけ一方的にやられると、鼻っ面を折られた気分だ」
悔しそうではあるものの、どこか笑っているミスミ教官である。
「まったく、負けたというのに楽しそうですね。再戦でしたら私に言って頂ければ、いつでも連れてきますからね」
「ふっ、それは今年の卒業までの話かな」
エスカの発言に、ミスミ教官は念のために確認を取る。
「そうなりますね。ただ、卒業後はベジタリウス王国に住むことになりますけれどね」
それを肯定するエスカ。だが、同時に興味深い話が飛び出してくる。
「ほう……、興味深い話だな。祖国を出るのか」
ミスミ教官はエスカの話に食いついた。
「ええ、お兄様であるアーサリー殿下に不安を覚えるのは納得がいきますから、その声は理解できます」
エスカはこういいながら、立てた人差し指を左右に揺らしている。そして、にっこりと微笑みながらミスミ教官に告げる。
「だからこそ、メチルをお兄様にあてがおうと思うのです。なんといっても彼女は、聖女であり魔族ですからね、うふふふふ」
不気味に笑うエスカである。その姿を見て、ミスミ教官はため息まじりに笑っていた。
「そうかそうか、君もいろいろ考えているのだな。まったく、武術型だったらいろいろ鍛えてやれたというのに、魔法型がというのが惜しいな」
「私は頭脳派ですから、体を動かすのは苦手ですよ!」
獲物を狙うようなミスミ教官の目に、恐怖を感じながら身を引いているエスカである。
「でも、よかった。すっかり気分は戻ったみたいですね」
「まあそうだな。君の話を聞いていたら、ずいぶんと気が軽くなった」
にこやかに笑うミスミ教官だが、何かを思い出したように出かけようとして歩き始める。
「さて、私は兄上のところに行ってスレイプニルの話を報告してくることにするよ」
「そうですね。バッサーシ辺境伯領の大事な話ですからね。いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」
エスカはミスミ教官の姿を笑顔で見送っていた。
こうして、ミズーナ王女たちの追加コンテンツ組の三年目の夏合宿も無事に終えた。
しかし、そこもゲームなどでまったく触れられていなかった、現実世界となった今でしか知りえない情報がたくさん出てきて、ちょっとお疲れ気味のミズーナ王女たちである。
「いやまぁ、バッサーシ辺境伯領って、そんな場所だとは思いませんでしたね」
「まったくだわ。でも、これでアンマリアたちにできる自慢話ができたかと思うと嬉しいわよ」
「エスカ王女殿下ってば……。マウント取りなんてみっともないですよ」
エスカの発言に、頭が痛そうにツッコミを入れるメチルである。
その様子を見ながら、ミズーナ王女はくすくすと笑っている。
「まったく、アンマリアに対抗意識を燃やすのはそのくらいにしなさいって。将来的に王妃の立場が約束された相手に張り合うのは、不毛というものですよ、エスカ」
「むぅ、それはそうね……」
ミズーナ王女に言われて黙り込むエスカ。強引に魔王の妻という立場を手に入れたエスカでも、やはり王妃という立場は特別といった感じなのである。
「でもまぁ、ゲームみたいに変なイベントを大量に起こされても困りますからね。平和なのが一番なんですよ」
困惑した表情を浮かべながら、メチルは話している。
「まぁそうですね。ゲームはゲーム、現実は現実。現実なら何もないに越したことはないのです」
「確かにそうね」
メチルの意見にはミズーナ王女もエスカも同意のようである。
とりあえず、夏合宿が終われば学園も残すは半年だ。戻ればすぐにリブロ王子の誕生日パーティーが待っている。
それが終われば、残りの大きなイベントは学園祭と卒業パーティーくらいだ。
大きなイベントは大体ゲームだと問題が起きるものだ。しかし、大体その原因になるようなものはすべて握り潰していあるので、おそらく今年は何もなく終わってくれるだろう。
ミズーナ王女たちは平穏無事を願いながら、サーロイン王国の王都トーミへと戻っていく。
そして、王都に戻るとすぐさまリブロ王子の誕生日パーティーのための準備を始めたのだった。




