第413話 鐘は鳴り響く
収穫祭の夜、王都に凄まじい鐘の音が鳴り響く。
襲撃を知らせる鐘の音だ。
あまりにけたたましい音に、さすがに私も目が覚めてしまう。
王都に住んでいると一応の知識として周知されているので、私はすぐに状況を察知する。
「スーラ、私はちょっと様子を見に行きますので、家の事をよろしくお願いします」
「畏まりました。気を付けていってらっしゃいませ」
すぐ近くに待機していたスーラに告げると、私は短距離転移で王都の外壁の上へと瞬間移動する。
(あの鐘の音が鳴るということは、何かしらが王都に近付いてきているということ……。一体どこから?)
夜が深くてよく見えない。しかし、光を照らすと的になりかねないので、風魔法を使って周囲の音を拾う。
(いたわ。11時の方角、……魔物の群れ?)
目を凝らすと、かろうじて土煙らしきものが見える。目視でようやく見えるということは、思った以上に接近している。時間がないわね。
私は再び短距離転移で移動すると、まずはサキの家に跳んでサキを回収。それから城へ跳んでミズーナ王女と合流する。
「アンマリア、サキ。どうしてここに」
城へ跳んでミズーナ王女の部屋に行こうとしたら、フィレン王子とリブロ王子に出くわしてしまう。
「王都の外で魔物の群れを発見致しました。立てる土煙がこの闇の中でもはっきりと見えましたので、一刻の猶予もなりません」
私の報告を聞いて、フィレン王子の顔色が変わる。
「分かった。私たちもすぐに出る。リブロ、一緒に来るんだ」
「はい、兄上」
フィレン王子はリブロ王子を連れて慌てて走り去っていく。
「さて、私たちも移動するわ。ミズーナ王女殿下、魔力を借ります」
「借りるって?」
びっくりするミズーナ王女だけど、今は説明している時間がない。
「魔物の侵入を防ぐために、外壁の上に飛びます。三人で移動するには魔力が足りないんです」
「なるほど……。エスカも使えているのだから、私だって使える可能性はあるものね」
こくりと頷いたミズーナ王女は私とサキの手を取る。私もサキと手をつないで短距離転移を発動させる。
次の瞬間、予定通りの場所に瞬間移動していた。
「さっきより土煙が大きくなっているわ。でも、思ったよりまだ遠い」
くるりとサキとミズーナ王女を見る私。
「一緒に防壁を張りましょう。王都に近付けさせないのが先決です」
「そうね。魔法で絨毯爆撃をしてもいいでしょうけど、数が居るならすり抜ける可能性があるものね」
「そうです。警備兵は居ますが、援軍が来るまで耐えられるか分かりませんからね」
「分かりました。頑張ります」
むんと気合いを入れるサキ。お互いに頷き合うと、手をつないで外壁の外側に魔法の壁を作るために意識を集中させる。
次の瞬間、王都の外壁の外側に立派な光の壁が出現する。
「さあ、これで魔物は簡単に王都に侵入できないはず。高さもある壁ですからね」
「サキは壁の維持をお願いします。いきますよ、アンマリア。空の魔物から優先的に狙いましょう」
「了解」
サキが両手を前に突き出して壁を維持するけれど、高さは思ったよりもない。それでも外壁より高い壁が左右に何キロと続いているので、回り込むにしても時間稼ぎができる。
それにしても、これだけ多くの魔物が気付かれずに揃って王都に押し寄せるなんて、まったく不可解な話だわね。
「おそらく操られているのでしょう。でも、検証は後回しですよ、アンマリア」
「っと、そうでしたわね!」
私とミズーナ王女は同時に魔法を使うために、手のひらに魔力を集中させる。さあ、Wヒロインによる魔法攻撃を受けてみなさい。
「ストームカッター!」
「エアロツイスト!」
ただ魔法を放つだけじゃ面白くないから、適当な魔法名を叫ぶ私たち。
ミズーナ王女の魔法は空中に居る魔物たちを風の刃で斬り刻み、私の魔法は地上の魔物ごと巻き込むように捻じっていく。そして、巻き上がった魔物の一部はミズーナ王女の風の刃に巻き込まれていった。
魔物の数が多すぎるし、真っ暗で何も見えないからご丁寧に倒すのは面倒だものね。ど派手に魔法をぶっ放す私たちに、結界を維持するサキは言葉を失っていた。
「グラヴィティプレス!」
そんな中、突如として別の魔法が魔物たちに放たれる。すると、空中に居た魔物も含めて、べしゃんと地面に押しつぶされていた。地面にぶつかる時の音が辺りに響き渡っている。
「まったく、ずいぶんと荒々しい倒し方をしてるわね、二人とも」
「エスカ、あなたも来たのね」
「アンマリアが向かったというのに、私だけ蚊帳の外は嫌ですからね」
ずいぶんと不機嫌そうな表情をするエスカだわね。私に置いていかれたのがよっぽど悔しかったと思われる。
「置いていって悪かったわね。なにせ緊急事態だったから」
「ええ、そうね」
「じゃ、転生者三人で派手にぶっ飛ばしますか」
「あの……、私を無視して盛り上がらないで下さい!」
私たちが気合いを入れている中、一人で結界を維持するサキが叫ぶ。
あまりに必死に訴えるものだから、私たちはつい鼻で笑ってしまう。
「お待たせしたわね、サキ様」
「私たちが揃ったからには」
「もう安心ですよ」
私が両手、エスカが右手、ミズーナ王女が左手を腰に当てて、魔物の群れをじっと見据える。
「予想外の魔物の氾濫だけど、ばっちり被害0で済ましちゃいましょう」
私がそう宣言すると、揃って手を前へと突き出したのだった。




