第414話 まさに炎上
「素材は欲しいから、なるべく傷付けない方向で倒しましょう」
「まあ、仕方ありませんね」
私たちは、手のひらに魔力を集中させる。
「サキ様、誰一人結界を通さないで下さいね。結界の向こう側は酷いことになりますので」
「えっ、ええ?」
サキが驚いているものの、すぐに表情を引き締めていた。
「分かりました、やってみます」
光魔法による結界をしっかりと維持するサキ。さすがは聖女の称号を持つだけの事はある。おかげで、直進してきた魔物は光の壁にぶち当たって進めないでいる。
サキが維持する結界の前でもたつく魔物たちを前に、私たちは安心したように魔法を放つ。
大部分は先程のエスカの魔法で押し潰されてしまっている。潰されているとはいってもまだ倒れてはいない。地面に這いつくばって踏ん張っているという状態だった。
ただし、この重力魔法もさすがにすべての魔物をカバーできているわけではない。周囲では結界を突破しようと試みているものがちらほら見える。
「私たちが集めますから、エスカは先程の魔法でもう一度押し潰して下さい」
「オッケー、任せなさいって」
私はミズーナ王女と顔を合わせると無言で頷き合う。そして、魔法を使って防壁の切れる辺りから風魔法で魔物を中心部分へと押し返していく。
どんな魔物が居るのか分からないから、出力は最大よ。取りこぼしがあったら後から来る王子たちに任せましょうかね。
中央に集められた魔物たちはじたばたと足搔いている様子がかろうじて見て取れる。私たちの目が暗闇に慣れたせいかしらね。
「それじゃ、とどめはお願いするわ、エスカ」
「おいしいところを寄こしてくれるなんて、嬉しいわね。さあ、潰れちゃいなさい、グラヴィティプレス!」
ズンという重苦しい音が聞こえて、魔物たちが地面に押し潰される。よくよく目を凝らすと、動けなくなっているだけで、まだ元気そうな姿が見える。
この状態でもまだまだ元気そうなあたり、さすがは魔物といったところだろうか。ここからどうしたものかしらね。
「ほとんどの魔物はこれで討伐できたと思うんだけど、よく見るとまだまだ元気そうね」
「本当ね。なかなかにしぶといわ」
よくよく見てみると、重力に潰されながらも必死にもがく姿が見受けられる。
「これじゃ討伐したんじゃなくて、動けなくしただけね。早くどうにかしないと、もがいて重力から抜け出しそうだわ」
私は状況を見ながらそのように分析していた。
なにせ、足元の土がじわじわと掘り返され始めているのが見えたのだから。
「だったら、これでどうかしら」
パチンと指を弾くミズーナ王女。すると、魔物たちを取り囲むように炎の壁が現れる。
「物が燃える時、周囲の酸素を奪います。このまま火を燃やし続ければ、どうなるか分かりますよね」
ずいぶんと恐ろしい方法を思いついたミズーナ王女である。とはいえ、こんな夜中に煌々と炎を燃やすと、王都の人たちに不安を与えないかしらね。
「大丈夫ですよ。今はサキさんが維持してくれている結界のおかげで、王都の中からはこの火は見えませんからね」
にっこりと笑うミズーナ王女。私たちの中では一番常識人かと思ったけど、やっぱり転生者ってどこかぶっ飛んでるわね……。
そうやって見ているうちに、炎に囲まれた場所に居る魔物たちが縁辺りからじわじわと倒れ始める。酸欠を起こしているのだ。
しかし、炎の壁の範囲はかなり広い。この広範囲で炎をこれだけの時間維持できるのは、さすが転生者チートだと思われる。
だって、結界を維持するサキがミズーナ王女の魔法に青ざめているくらいだもの。とはいえ、この結界はこれだけ維持し続けているあたり、サキも相当に魔力量が多いわね。さすが男爵家令嬢とはいえ王子の婚約者としての役割が与えられているだけあると思うわ。
「この分だと中央付近の魔物が倒れるまで時間がかかります。だったら……」
さすがにこの持久戦は欠点があると判断した私は、炎の壁の中央付近に火柱を発生させる。
これで、中央付近からも酸素を奪っていけるというわけである。
「さて、これでしばらく放っておけば魔物は倒れていくでしょう。私はちょっと様子を見てきますね」
私はこう言い残すと外壁の足元へと短距離転移をする。そろそろ王子たちが率いた軍勢が来るはずなので、事情を説明しないといけないからよ。
炎を燃やし続けること3時間、ようやく魔物たちがぴくりとも動かなくなっていた。
「えっと、鑑定鑑定っと……」
外壁の上に戻ってきていた私は、さっさと魔物たちに対して鑑定魔法を発動させる。大量の魔物が居るせいで情報量が多い。
「ふぅ、全部討伐できてるみたいね。持久戦は私たちの勝ちってわけか……」
延々と火を焚き続けた私たちは、外壁の上でへたりと座り込んだ。さすがに長い時間魔法を発動していたので、完全に疲労してしまっているからしょうがないわね。
「私たちができるのはここまで。あとは殿下たちにお任せしましょう」
「そうですね……」
私たちは魔物の死屍累々を眼下に見ながら、寄り添うように休むのだった。




