第409話 壮絶なる戦い
「まったく何をしておったんだ、お前たちは」
話し合いからミスミ教官が戻ってきた。
その目の前には明らかに疲弊した私と、まだ余裕のあるフィレン王子の姿があった。
「ミスミ教官、戻られましたか」
呼吸は荒いものの、対応するフィレン王子。私は息が上がってしまっていてすぐには言葉が出ない状態だった。
それにしても10分くらい戦っていたけど、その間まったく戻ってこないとは驚きだったわよ。
「まったく、決勝戦だというのに、こんなに放り出してしまって……。場つなぎ、大変でしたよ」
どうにか声を出して愚痴る私。少し休んだおかげで回復したわね。
「そうか、それはすまなかったな。なにせ前代未聞過ぎて誰も対応した事がなかったのだ。過去の記録をひっくり返してまで確認したのにな」
ミスミ教官は腕を組んで唸っていた。
「それだったら、十分休めましたから再開させたいと思います。な、サクラ嬢」
「そうですね。幸い模擬剣は、殿下たちがお使いになっていたものがございますし」
くるりとサクラを見ながら提案するタン。サクラもサクラでそれにしっかり乗っかる。
ミスミ教官もさすがに面食らってはいたが、決勝を戦った二人が同意しているのならそれでいいかと納得する。
「よし、ならば真の決着をつけるべく延長戦だな。フィレン殿下、アンマリア、剣を渡してやってくれ」
ミスミ教官の言葉を受けて、私たちはそれぞれに剣を渡す。
模擬剣が折れるというアクシデントがあった決勝戦は、私とフィレン王子の余興を挟んで再開される事となった。
私たちは会場の壁際に寄って、二人の戦いを見守ることになった。
「まったく、最初からこうすればよかったのでは?」
「仕方ないさ。今までに起きた事がないのなら、誰だって慎重になるものだよ」
私が呆れていると、フィレン王子はそういってミスミ教官たちの対応を擁護していた。
ちなみに会場は、私たちが余興で戦ったこともあって盛り上がっていた。おかげで、サクラたちも楽しそうに戦っている。
いや、楽しそうにという時点で何かおかしいわね。さすが脳筋の民だわ。
会場内は二人の白熱した戦いに大興奮。二人の戦いもかなり本気な感じで、迫力があった。
素早い剣の打ち合いをしていたかと思うと、時折繰り出される大振りの強力な攻撃。そして、それを躱して反撃をするという、息つく暇のない激しい戦い。これで興奮するなという方が無理かしらね。
……これって乙女ゲームだよね?
思わず本気で首を傾げてしまう私だった。
サクラとタンの決勝戦に話を戻しましょうか。
さすが3年生となった今年は今までの集大成というべき激戦で、10分少々の休憩があったとはいえど、合わせて20分以上を戦ってもまだ平気なくらいの体力お化け同士の戦いとなっていた。
それでいてお互いの攻撃の激しさもあって、時間がかかっているというのに退出する観客はほとんどいなかった。
ところが、さすがに戦いが長くなってきてしまった。これ以上時間をかけるのはよろしくないと、二人の表情に焦りのようなものが浮かび始めていた。
「タン様」
「何かな、サクラ」
剣を構えた状態でタンに話し掛けるサクラ。タンもそれに反応する。
「そろそろ決着をつけましょうか。いささか飽きてきました」
「同感だな。なら、次の一撃で勝負をつけようか」
言葉を交わしたサクラとタンは、ぐっと一段と低く剣を構える。
「あの姿勢を見せたということは、いよいよ決着をつけるおつもりのようですよ」
「そうね、明らかに雰囲気が変わったわ」
テールとエスカはその動きを見て察したようだった。
深く沈み込んだ体勢から放たれるオーラに、今まで盛り上がっていたのが嘘のように静まり返る会場。あまりにも鬼気迫る雰囲気に飲まれてしまったのだ。
会場の壁際で見守る私たちも、つい息を飲んでしまう。
どのくらい静まり返っているかというと、踏み込みの際に足が擦れた時に立てる砂利の音がはっきりと聞こえるくらいだった。
剣術大会の決勝戦、その決定的瞬間に、会場中が固唾を飲んで見守っているのだ。
ざりっという音が響き渡ると、サクラとタンが決着をつけるために動き出す。緊張の一瞬がために、誰もが声を発する事ができないまま、その瞬間を迎える。
剣がぶつかり合う。誰もがそう思った。
だが、実際は二人はすれ違っていた。
このわずかな間に一体何が起きたのか。その姿を捉えられたのはごく一部の人間だけだった。
「……お互いの攻撃が、命中していますね」
「そのようだね。魔法の使えないこの環境、無事で済むのか気になるところだよ」
当然ながら、私たちもその攻撃はしっかりと捉えていた。
互いに剣を振り抜いた状態でぴくりとも動かない。その様子に会場からどよめきが起きている。
二人へとゆっくりと近付いていくミスミ教官。あまりにも動かないために、状態を確認しに行ったようだ。
まずはサクラに近付く。そして、確認が終わると今度はタンへと近付く。
双方の確認を終えたミスミ教官は、その状態に思わず首を横に振ってしまう。
そして、高らかにこう宣言した。
「双方気絶により試合続行不可能と判断。よって、引き分けにより双方の優勝とする」
最後の最後まで、想像を超える決勝戦となったのだった。




