第398話 戦いの合間の息抜き
順当に勝ち上がり、3回戦はタンと当たることになった私。しかし、剣術大会の初日はここで終えることになってしまった。
今年は参加人数が増えており、試合が消化しきれなかったというわけよ。
まっ、楽しみは後に取っておくというわけで、クラスの出し物の方へとやって来た。
「まあ、お姉様。どうされたのですか」
部屋に入るなり、モモが声を出しながら私に駆け寄ってきた。よくすぐ気が付いたわね。さすがは可愛い妹だわ。
「お姉様?」
私が笑い始めたものだから、モモが面食らっているようだった。
「ごめんなさい。モモが可愛いものだから、つい嬉しくなっちゃってね」
「もう、お姉様ったら……」
赤くなりながら顔を逸らすモモである。
「まったく、姉妹で何をしているのですか」
「あっ、ラム様」
そこへ、ラムがやって来た。私たちが姉妹愛を発動しているものだから、様子を見に来たようだ。
「アンマリア様、わざわざいらして下さったのですね。剣術大会、3回戦進出おめでとうございます」
「ありがとうございます。結果、ご存じでしたのですね」
お祝いの声を掛けられて、思わず照れてしまう私。
「ええ、サキ様が観戦に出向かれていたようですわ」
「えっ、サキ様が?!」
私は部屋の中をきょろきょろと見回す。すると、恥ずかしそうに手を挙げるサキの姿が見えた。あんな奥の方に居たんだ。
「それはそうとして、お店の方はうまくいきましたか?」
私はサキの姿を確認すると、ラムに状況を確認した。
実はこの時、クラスのみんなは使用人の服装に身を包んでいた。いわゆるメイド喫茶、執事喫茶というやつかしらね。まあ、男女混合なんで使用人喫茶なんだけどね。
みんな貴族なんで最初は嫌がった子もいたけど、ラムが興味を示した事でみんな従うことになったのよ。
ライバル令嬢三人だけでかなり権力があるから、そうなるとクラスの誰も逆らえなかったというわけ。まあ、剣術大会で敗退すれば私も参加することにはなるけどね。
いやぁ、正直言って心が揺らいだわね。前世でメイド喫茶には憧れたものだから。うん、実に残念だわ。
私がうーんと唸っていると、ラムが声を掛けてくる。
「明日はいきなりタン様との試合ですわね、アンマリア様」
その声に反応して振り向くと、ラムはとても心配そうに私の事を見ていた。
無理もないというものだ。学園一の剣の腕前を持っているともいわれるタン・ミノレバー男爵令息が相手なんだからね。
でも、私は知っている。そんなタンでも実はサクラとの戦いでは負け越している事を。
私はそのサクラともそれなりに剣を交えてきたし、その伯母であるミスミ・バッサーシ教官とも稽古をした経験がある。
つまり、タン相手にはもしかしたら十分あり得る状態なのよね。バッサーシ辺境伯の血筋って脳筋の戦闘狂が多いからね。
まあ、サクラは普段は令嬢らしく振る舞ってはいるけれど、ひとたび剣を握れば普段のお淑やかさからは想像もできない腕前を見せてくれるからね。
「タン様は確かに強敵ですけれど、こちらとてサクラ様とはよく剣を交えていますから、簡単に負けるとは思っていませんよ」
ラムの心配に、私はにこりと笑って答えておく。これ以上心配させるわけにはいかないからね。
「でも、お姉様。魔法の類は一切使えませんよ。鍛えてらっしゃるタン様相手に、立ち向かえるのでしょうか」
モモの心配ももっともというものね。剣術大会の行われる訓練場内の中では、一切の魔法が使えなくなる。なので、通常は使っている事もある身体能力強化の類もまったく使えなくなるということ。
生物学的には私たちくらいの年齢になれば、男女の間で身体能力に大きな差が生まれてくる。
魔法を使えばそれはある程度埋められる差ではあるんだけど、それがないと基本的に男性に敵わないということになる。
「まぁ、見てて下さいませ。ラム様とモモのその不安、全部吹き飛ばして差し上げますから」
人差し指を立ててにこやかに私は笑う。
ラムたちはその自信はどこから来るのか、呆れたように私の事を見つめていた。
ひとまず剣術大会の話を打ち切って、初日の出し物の片付けを手伝う私だった。
翌日、気合いを入れた私はモモと一緒に家を出る。ちなみにエスカは既に家を出ていた。クラスの出し物の手伝いだとは言っていたけれど、一体何をしているのやら。
気にはなるけれども、私は今日の剣術大会に集中することにする。
(学園に着いたらトーナメント表を確認しておきたいけれど、それはモモに任せておきましょうか。目の前の戦いにまずは集中しましょう)
3回戦がタンとの試合だという以外、まったく把握していない。
誰と当たるかは気になるところだけれども、ひとまずは目の前の3回戦のタンとの戦いに集中しなきゃいけない。その後はボスラッシュかもしれないけれど、次に勝てなければ確認するだけ無駄だものね。
学園に到着した私はテールを見つけたので、彼女にモモを任せる。そして、一人で控室へと向かっていったのだった。




