第379話 アルーの正体
「あ、アルー?」
思わず目を白黒とさせるメチル。
「やっと全部思い出せました。私はメチル・コール。ベジタリウス王国の子爵家の令嬢だったのです」
「はいいっ?!」
メチル自身がものすごく驚いていた。
「詳しい話は後ですよ。まずはあの魔族を倒してからです」
「ちんちくりんのくせに、生意気言うんじゃないわよ!」
自分の魔法弾を防がれてイラッときたテリアが、アルー目がけて魔法を使う。
「ふふん。今の私は自分の力を全部取り戻したんですから、今のあなたに勝ち目はないですよ」
「この矮小な妖精のくせに!」
テリアが小さなアルーに対して魔法を使う。しかし、アルーはその魔法のすべてを防いでいる。
私たちが苦戦していた相手に、小さな精霊であるアルーが対等に戦っているのだ。この光景に私たちは驚く事しかできなかった。
「魔力の多い人がたくさん居るから、私の力は無尽蔵だし、より強力になるんですよ。私の因縁を吹き飛ばすためにも、あなたは私の手で倒します」
「なによ、羽虫の分際で!」
アルーに押し負けるテリアが、怒りを露わにしている。
「アンマリア様でしたよね。あなたの中の魔法、お借りします」
アルーはそう言うと、両手を掲げて大きな光の槍を作り出していた。
「げげっ、何なのよ、それは」
テリアが思わず驚いて動きを止めてしまう。
「消えて、私の両親の過ちとともに!」
ぐっと状態を反らすアルー。そして、力いっぱいテリアへ向けて両手を振り下ろした。
「ホーリーランス!」
「羽虫の魔法ごとき、跳ね返してやるわよ」
魔力を全集中させて抗おうとするテリア。しかし、そんな彼女をあざ笑うかのように、光の槍がテリアに襲い掛かる。
「そ、そんなのって……。ま、魔王様ーっ!」
あえなく光の槍がテリアを貫く。その浄化の力によって、テリアはあえなく光の粒となって消え去ったのだった。
私たちがあれだけ必死に戦っていたのに、こんなあっさりな最期でいいのかしらね……。
あまりな光景に、私たちはぼーっとアルーの姿を見ていた。
しばらくすると、アルーがメチルに近付く。
「アルー……、あなたってば一体……」
呆然とその姿を見るメチル。すると、アルーはメチルの鼻先に指を押し当てて答えた。
「私はあなた。とはいっても、別の人間が入り込んじゃいましたから、私の元の体と言った方がいいのでしょうかね」
混乱を極める私たちである。
「ちょっと説明してもらってもいいかしらね」
頭を押さえながら、エスカがアルーに近付いていく。
「いいですよ。サンカリーが出てこないので、休憩がてらお話しましょう」
アルーはにっこりと微笑んでいた。
アルーが話し始めた内容は次の通りだった。
アルーは元々はベジタリウス王国北部地域を治めていた、コール子爵家の令嬢だった。
ところが、両親がどこからともなく見つけてきた書物にはまり、怪しい儀式をし始めた。
その儀式の贄にされたのが、メチル・コール子爵令嬢。つまり、今のメチルとアルーというわけである。
「眠りの魔法か薬を盛られたせいで、私は気付く事もなく両親の魔法の触媒にされてしまったんですよね。結果として、魔王の封印が揺らぎ、魔族の中の四天王だけが復活してしまったんです」
暗い表情をしながら語るアルー。
「それで、儀式が中途半端だったのか、私は魔力の部分とそれ以外に分離してしまったんですよ。魔力部分が魔族のメチルとして、それ以外が行使者たる精霊の私として」
「そうだったのね……。それで、空っぽだったこの体の人格として、転生者である私が入り込んだっていうわけなのね」
「おそらく、その解釈で合っていると思います。多分、私がこうやって元の記憶を取り戻したのは、その影響かもしれませんね」
アルーはにこりと笑っていた。
しかし、私は別の事を考えていた。
「ねえ、アルーの両親は、どうしてそんな儀式を行ったのかしら。魔王の封印を解くなんて、普通に考えればやろうとは考えないでしょう?」
「確かにそうですね。アンマリア様は書庫で読まれたのですよね、魔王に関する記述を」
サキの質問に、私はこくりと頷く。サクラも知っているはずだが、どうも覚えていないような反応をしている。この脳筋は……。
「あまりにも強大すぎて、倒せずにどうにか封印を施した。書物にはそう書かれていたわ」
「そんなものを甦らせようだなんて……。なんて大それたことを考えたのかしら」
エスカもさすがに険しい表情をしている。
そんな話で盛り上がっている時、突如として声が割り込んできた。
「そんなに知りたいかね?」
「この声は……サンカリー?!」
そう、魔王四天王の最強であるサンカリーだった。
「私に勝つ事ができれば、その辺りの話を聞かせてやろう。まぁ、運よくテリアに勝てたからといっても、それは無理だろうがな」
その声と同時に、目の前の屋敷の正面の扉が勢いよく開く。
「さあ、入ってくるがよい。そして、魔王様復活のための贄となるがよいわ。くはははは!」
その声が響くと、辺りから重苦しい魔力が消える。自身から離れてもこれだけの圧力を掛けられるとは、さすがはテリアですら恐れる四天王最強だわね。
しかし、ここまで来て私たちに退くという選択肢はない。
「みなさん、私たちはここから先に進みます。ですが、みなさんはもしもの時に備えてここで待機していて下さい」
「で、ですが……」
「私たちは全滅するわけにはいかないんです。どうか、堪えて下さい」
「……承知しました」
ついてきた騎士や兵士たちを説得して、私たちはついに屋敷の中へと踏み込んでいく。
横道にそれたRPG展開なんて、さっさと終わらせてやるんだから。




