第378話 一進一退の攻防
「なんなのよぉ、頭の中まで筋肉なのぉ?」
テリアはサクラが打ち返してくる魔法弾の処理に苦しんでいた。自分が放つ魔法弾の一部が打ち返され、魔法弾を相殺したり、最悪自分に跳ね返ってきている。
得意とする魔法弾による攻撃を想定外の方法で潰されて、テリアはものすごく冷静さを失おうとしている。
「あたしの弾幕を、こんな方法で潰されるなんてありえな~い。全力で、潰してあげるわ!」
テリアの頭に、完全に血が上っている。不意を突くなら今しかない。
「てーいっ!」
私は持っている柑橘魔石を2つ放り投げる。
しかし、声を出したのがまずかった。
「そこ? いつの間に回り込んでいたのよ」
振り返ったテリアが私に攻撃を仕掛けようとする。
「あらあら。よそ見だなんて、ずいぶんと余裕ですね」
攻撃が止んだのをいいことに、サクラは休まずテリアへ魔法弾を打ち返していた。すごいわね、あれなら三冠王獲れるんじゃないかしら。
自分から距離のある魔法弾すらも、鍛え抜かれた足で追いついて打ち返している。
「あたたた。何すんのよ、この筋肉が」
再びテリアの注意がサクラに向く。そこで私は投げ上げた柑橘魔石へと魔法を放つ。
ボンボンと炸裂し、テリアの周りが柑橘の香りで満たされる。
「げほっげほっ、またこのにおい……。気持ち悪~い」
注意が逸れたテリアに、サクラが打ち返した魔法弾が襲い掛かる。
「げっ、ヤバ……」
完全に柑橘魔石に気を取られたテリアは、自分の放った魔法弾をまともに食らってしまった。
「よしっ」
思わずガッツポーズをしてしまう私。
ところが、何か様子が変だった。
あれだけ直撃を食らってしまったのであるなら、柑橘魔石のダメージで体勢を崩すはず。しかし、テリアは落ちてこなかった。
「はあはあ……。サンカリーのやつ、今回だけは感謝するわよ……」
テリアは空中で耐えていた。それでも、さすがにダメージは大きかったようで、服のあちこちが破けている。
しかし、弱点である柑橘によって呼吸は乱れているし、疲弊しているように見える。早めにたたみ掛けないと復活しそうな感じだった。
「レイ!」
光魔法を放つ私。
「なめんじゃないわよ!」
テリアは血管を浮かべながら叫ぶと、私の放った魔法を躱していた。甘く見ていたつもりはないけれど、まさかここまでやるとは思ってもみなかった。
そして、魔法を躱しきると、私に向かって飛び込んできた。
「死にさらせ、小娘が!」
ブチ切れているのか言葉遣いが汚い。とっさに反撃の構えを取ろうとするけど、思った以上にテリアの動きが速かった。
「させません!」
間に合わないかと思ったその瞬間だった。光の壁がテリアを弾く。
「ぷぎゃっ」
変な声を上げて、テリアは鼻を擦っている。顔から思い切りぶつかったようだ。
「やってくれたわ……ぶへっ」
次の瞬間、今度は地面に叩きつけられるように這いつくばっていた。よく見るとエスカが魔法を使っている。
「あなたは地べたが似合っているわよ」
どうやら闇魔法で重力を操って、テリアを地面に叩きつけたようだ。
「こんのクソガキどもめ~っ!」
すっかりブチ切れモードのテリアである。素だとこんな感じなのね。
しかし、そんなのんきな事を言っていられたのも一瞬だった。
ブチ切れた瞬間、テリアから今までにない魔力の渦が巻き起こる。
「きゃあっ」
私たちはその魔力の突風によって吹き飛ばされてしまった。
「あはははは、あたしをばかにした報いよ。虫けらのごとく消し飛びなさい」
今までに見た事のない表情をして、強力な魔法弾を頭上に生み出すテリア。
一方の私たちは、魔力の突風の衝撃で動けずにいる。
これはもう、絶体絶命の大ピンチだった。
「こんなところで、死ねるわけ、ないじゃないのよ」
私はどうにか抵抗しようと試みる。しかし、さっきの突風のダメージが大きくて思ったように集中できない。
よく見れば頑丈なはずのサクラですら、痛みで動けない様子。
万事休す。
もはや諦めるしかない状況だった。ああ、短い人生だったわね……。
ところが、そんな時だった。
「嫌よ、私は諦めない。死にたくない。死ぬ運命から逃れたい……」
メチルがゆらりと立ち上がったのだ。
「はーん? この死にぞこないの役立たずが。いいわ、そんなに死にたいんだったら、あんたからとどめを刺したげる」
当然ながらテリアの目に留まって、攻撃対象にされてしまう。このままでは、メチルがテリアの魔法弾の餌食にされてしまう。
どうにか阻止したいのに、全身が痛い。このまま見殺しにするなんて嫌よ。
私が心の中で叫ぶ。
「アルー!」
それと同時にメチルが叫ぶ。
「ほいな、任せなさい」
飛び出してきたアルーは、魔法をテリアに向かって使う。すると、生み出された魔法弾がカチンと結界のようなものに包まれてしまった。
「はあ?! わけわかんないし~」
テリアが混乱している。
「見ましたか、コール家直伝の結界魔法。ご主人様、いえ、私自身。いつまでも寝てる時じゃないですよ!」
絶望と混乱が渦巻く中、更なる混沌がアルーから飛び出したのだった。




