第342話 しょうがないな
事は急を要するということで、意外とすんなりと謁見が認められた。ただ、メチルは兵士による監視付きだ。
「その方、魔族というのは本当か?」
国王からもの鋭い視線を送られながら、事実確認をされるメチル。怖いのかその体が震えている。
「本当でございます。本来の姿をお見せします」
フードを取った状態で力を込めていくメチル。すると、肌の色に目の色、なんと髪の色までが変わっていく。すべてが人間に紛れるために変化させられていた。変わらなかったのは身長などの体型くらいだった。
黒めに薄い赤色の瞳孔を持つ姿は、周りの兵士たちが身構えるくらいに恐ろしいものだった。
「これが魔族の、魔王四天王たる私の姿でございます。名前はメチル、治癒の魔法を得意としております」
身分や能力を素直に明かすメチル。
「私の目的は治癒の能力を活かして人間たちを取り込み、内乱を起こして国を瓦解させる事でした。でも、私は知ってしまったのです。この先どう転んでも私は殺される身だという事を」
下を向きながら説明していたメチルだったが、最後に顔を上げて国王の方をしっかりを見ている。
それに対して、国王はいまだに疑いを持って厳しい視線を向けている。あれだけしっかりと目的を告げられたのだ。信用しろという方が難しい。
「本当に治癒の能力しか持っていないのだな?」
国王が確認するように問い掛ける。すると、メチルの頭上にアルーが現れる。
「本当ですよ。メチルは魔族の中でも特殊な、治癒特化の魔法しか使えない魔族なんです。戦闘能力なんて持っていない。それを担うのは精霊たる私なんですから」
メチルに代わって強く訴えるアルー。
しかし、このアルーの出現が事態を大きく変える事になる。
「なっ、精霊?」
国王をはじめとしたベジタリウスの人間が動揺を始める。私にはまったく何が起きているのか分からない。
「メチルは他の魔族の居場所が分かります。けど、他の魔族はメチルの居場所は分かりにくい。魔族の魔力っていうのは特殊なんだけど、メチルだけは人間寄りの魔力だから人間の中に紛れると分からなくなるんですよ」
必死にメチルの特色を訴えるアルー。
そのアルーの訴えだけど、私は確かに納得できると感じていた。
魔族の魔力というのは、おそらく夏合宿などで感じたあのおぞましいまでの魔力だろう。でも、メチルの魔力はどちらかというとサキに近い感じの暖かなものだった。治癒の魔法が得意というのは嘘とは思えないくらいだ。
魔族からすれば異質な聖女に近い魔力。彼女の殺されるという懸念はとても納得がいくものに思えた。
「そのくらいにメチルの魔力は異質。他の魔族のやつらからしたら、きっと煙たがっているはずです。だからメチルは、少しでも生き残れる方をと思って、こうやって正体を明かしたんです」
私が考え事をしている間も、アルーによる訴えは続いていた。
その必死の訴えは国王たちには着実に届いていた。なにせ国王の表情が先程までとは違って、悩んでいるように眉が曲がっているのだから。
「アルー、もうそれくらいにしておいて下さい。もう十分ですから」
メチルは頭の上に手を伸ばしてアルーを捕まえる。そして、すぐさま口を塞いだのだが、まだ喋り足りないのかもごもごと喋り続けていた。
「私の能力云々はとりあえずこれで終わりにします。それよりも大事な事がございますので」
バタバタと暴れるアルーを抱えながら、メチルは国王に訴える。
「ほう、それは何かな?」
国王も興味を惹かれたのか、メチルに質問する。
「アンマリアにはお話しましたが、魔族である私がこうやってこの場に居られる事です」
「むむ?」
「先程城に入る際に痛みを感じましたから、城には結界が張ってあると思うんです。ですが、私がこうやって侵入している事を考えると、魔族には通用しないと思われるんです」
メチルの考えを聞かされて、国王たちの間に衝撃が走っている。
「た、確かにそうだな……」
国王は大臣を呼んですぐに対策を練るように指示を出そうとする。だけど、それをメチルが声を上げて止めようとする。
「そこでです。私をこのままここに置いて頂けませんか? 先程もアルーが説明しました通り、私は他の魔族の位置を感じ取る事ができます。逆に私の魔力が感じ取りにくいのです。お役に立ってみせますので、どうかよろしくお願い致します」
そう発言したメチルは、そのまま深々と土下座をしていた。隣でずっと静かに成り行きを見守っていた私は、その土下座に思わず驚いてしまった。
しかし、その態度こそが、メチルが本気で生き延びたいと思っている証であった。だからこそ、私もなんだか同情じみた感情を抱いてしまった。
「国王陛下、メチルのこの気持ちは恐らく本物でしょう。私からもお願い致します」
ついつい国王にこんな進言をしてしまう。私の言葉を受けて、国王と王妃、それと大臣が顔を見合っている。しばらく考え込んだ後、国王が口を開く。
「……そうだな。先日の刺客の事といい、不安な状態にはある。手数は多い方がよいだろう。そなたの言い分を信じ、城に置いてやるとしよう」
「ありがとう存じます。このメチルおよびアルー、必ずお役に立ってみせます」
国王の表情を見るに、まだまだ疑っているのは間違いなさそうだった。しかし、国の状態を考えると、背に腹は代えられぬといったところかも知れない。
こうして、メチルはベジタリウス王城内で侍女として働く事になったのだった。




