第340話 交換時期ですから
「さて、そろそろ防護魔法を掛け直さなきゃね」
私はミズーナ王女から魔石を受け取って、ベジタリウス王城へとやって来た。
以前にクラーケンの魔石を使って防護魔法をかけたはいいものの、結局その効果が持続している間に進展はなかった。正直残念で仕方がない。
「まっ、次の半年に賭けましょうかね」
私は足早に王妃の部屋へと向かっていった。
「お久しぶりです。王妃様にお会いしに来ました」
部屋の前で立っている衛兵に声を掛ける。すると衛兵は私の事を覚えているらしく、すぐに部屋の中の王妃に声を掛けていた。
「まあ、アンマリアですか。お通し下さい」
無事に王妃から許可が下りたので、衛兵が扉を開けてくれる。私はお礼のために頭を下げて部屋の中へと入っていく。
王妃の部屋の中には、前回仕掛けておいたクラーケンの魔石が煌めいている。ただ、魔力が少なくなってきているのか、その輝きが結構鈍ってきていた。
「お久しぶりです、王妃様」
ちゃんとカーテシーをする。さすがに王妃様に無礼を働くわけにはいかないものね。
その私の姿に、くすくすと笑顔を見せる王妃だった。
「さすがは次期王妃候補、しっかりとできていますね」
毎度ながら、この挨拶の瞬間だけは緊張してしまう。褒められた事でホッとした私は、とりあえず本題へと移る。
「王妃様、今回伺いましたのは……」
「ええ、この魔石の交換ですよね。ところで、この交換した後の魔石はどうなさるおつもりですか?」
王妃に先に言われてしまった上に、質問までされてしまった。
確かにクラーケンの魔石はかなり大きい。
でも、中の魔力を消耗しきってしまえば、魔石はただの石になってしまう。小さければ石のまま形を保てるのだけど、大きい場合は魔力による結合を失って形を保てなくなり、ほぼ確実に崩れてしまうのだ。大きいがゆえに不安定というわけよ。
「そのまま魔力を放出させて、砂に返します」
「まあ、もったいない」
「いえ、その大きさの魔石は魔力を使い切ってしまうと、形を保てずに崩れてしまうのです。こちらでお預かりして、然るべき処分を致します」
私が真剣に言うものだから、王妃も諦めたようである。
「分かりました。それでは、処分はアンマリアにお任せしますね」
「はい、お任せ下さい」
私は返事をすると、すぐに魔石を交換して防護魔法の張り直しを行う。
この展開のやり直しの間だけ一時的に防護魔法が無くなるけれど、まあ近くに不穏なのが居なければ問題にはならないはず。
まずは、以前のクラーケンの魔石の隣に、新しい魔石を設置する。今回の方が少し不格好ではあるものの、効果事態は変わらないので問題はない。問題は魔石の大きさだもの。
そんなわけで、まずは魔法を解除する。
私は古い方のクラーケンの魔石に手を添えると、防護魔法の解除を行う。
この解除の方法だけど、防護魔法にもう一度防護魔法をぶつけて相殺させるっていうものすごく強引なものよ。これが一番手っ取り早いのよ。
ひとつ深呼吸した私は、魔法をぶつけて防護魔法を解除する。
続けざまに隣の魔石に移動して、同じ魔法をもう一度使う。増幅させるための魔法も同時にこめながらなので、ちょっと面倒だけれどね。でも、もう何度もやってきた事なので慣れたものよ。
「これでよしっと」
防護魔法を張り直した次の瞬間、バタンという大きな音が外で響き渡る。
何事かと思って外へ出てみると、そこには少女が一人床に倒れ込んでいた。
「一体何があったのですか?」
王妃が外に出てくる。
「これは王妃殿下。いえ、治癒魔法が使えるという少女が来たというので案内していたのですが、今突然倒れてしまいまして……」
男性が抱える少女の顔色は確かに悪い。
「分かりました。とりあえず私の部屋でよろしいので休ませなさい」
「しかし……」
「一刻を争うかも知れません。早くなさい」
「……承知致しました。それではお部屋に失礼致します」
男性は王妃の圧力に屈して、少女を王妃の部屋へと運び入れていた。
少女をとりあえずソファーに寝かせる。
「治癒魔法を使っていたという事は、治癒術士ですか。しかし、なぜ急に現れたのでしょうかね」
「本人が言うには旅をしているという事です。しかし、治癒術士というのは貴重な存在です。ですからこうやって招き入れたのですが、急に倒れるとは一体何があったのでしょうか」
王妃と男性が何やら話をしている。私はその様子を黙って見守っている。
「うーん……」
しばらくすると、少女が目を覚ます。
「あ、目が覚めましたか?」
声に気が付いた王妃が真っ先に声を掛ける。
「わ、私……。一体ここはどこなのでしょう」
頭を押さえながら、ゆっくりと周りを見回す少女。そして、私と目が合うとぴたりを動きを止める。そして、口をパクパクさせて驚いている。
「えっと? 私が一体どうしたというのかしら」
「えっ……、ここベジタリウス王城内……ですよね? なんで、アンマリアが居るのかしら……」
私の声に対する反応に、思わず私は顔を近付ける。
「なんで私の事を知っているのでしょうか。初対面ですよね?」
「うっ……」
私の事を知っているとは、この少女は一体何者だというのかしらね。
あまりにも不可解な事に、部屋の中には不穏な空気が流れ始めていた。




