第314話 帰省の発端
ソファーに座ってどうにか落ち着いた私たち。しばらく沈黙が続いていたものの、伯父が話を切り出した。
「ゼニーク、お前が来るとは思わなかったぞ。というより、まさかもうタミールまで戻ってくるとはな……」
伯父はタミールを見ながら残念そうな顔をしていた。何ゆえそんな顔をするのか、私にはちょっと分からなかった。
「アンマリア、いい加減に私の事を紹介してくれないかしら。仮にも王族よ、私は」
そのなんとも言えない空気の中、エスカが私に文句を言ってくる。いや、私に言われても困るわけで、私は父親へと視線を送る。すると、父親はそれに気が付いて、伯父へと声を掛ける。
「兄上、取込み中すまないが、紹介したい人物が居るんだ。ちょっといいだろうか」
「だがな、ゼニーク。私は父親として、タミールにはいろいろ言わなければならないんだ。後にしてもらっても構わないか?」
「いや、そういうわけにもいかない。マリーの隣に居る女性は、王族なんだからねえ」
「……なんだって?!」
父親がそう言うと、ようやく伯父の動きが止まった。
「初めまして。私、ミール王国王女、エスカ・ミールと申します。姪でいらっしゃるアンマリアとは、仲良くさせて頂いておりますわ」
そこへすかさずエスカが挨拶を挟み込む。エスカの自己紹介を聞いて、伯父の表情が一気に青ざめた。無理もない、王族をここまで完全に無視してきたのだから。
とはいえ、エスカの服装も普通の貴族と変わらない服装だし、気品とは程遠い人物だから仕方ないわね。
私がこんな事を思っていると、エスカがキッと睨み付けてきた。もしかして気付かれたかしらね。
「こ、これは失礼致しました。ミール王国の王女殿下とは露知らず、これはご無礼を働き、誠に申し訳ございません」
伯父は床の上で跪いて、必死にエスカに対して謝罪をしている。切り替えが早い。
「顔を上げて下さい。今の私は留学生ですし、ここへはお忍びで来ております。そこまで畏まらなくても問題ありません」
「で、ですが……」
エスカは許す方向で進めているみたいだけど、伯父の方はかなり気にしているようだった。
「くどいですね。私がいいといっているのですからいいのです。はい、この話これでおしまいです」
両手のひらを打って強引に話を終わらせるエスカだった。
「それとですね、今回の帰省に関しては持ちかけたのはアンマリアです。あまりご自身の息子さんを責めないで下さいませ」
一言付け加えるエスカ。って、事実だけど私にすべて押し付けるつもりなの?!
こんな流れにされてしまったので、私は伯父に問い質される前に観念する事にした。
「ええ、そうです。そもそも私がお父様に自分の領地をたまには見てみたらと持ちかけたのが始まりです。その中でファッティ領に向かうのなら、タミールも連れて行くべきだと考えまして、今回連れてきたというわけです」
私は正直に全部話した。先に私に言われてしまった事で、伯父は納得したかのように無言でソファーに座り直していた。
「まあそういうわけだ、兄上。せっかく戻ってきたからには、おおよそ一週間程度にはなるが、領地の事をしっかり確認させてもらうよ」
「ああ、構わない。とはいえ、経営から離れていたゼニークが領地の事をどこまで分かるかは、少々不安があるのだがな」
「ふっ、確かにそうだな」
父親と伯父は、にこやかに笑っていた。長らく会っていなくてもこうやって気が合ってしまうのが兄弟ってものなのかしらね。
ひとまず挨拶を終えた私たちは、部屋に荷物を置きに行く。とはいっても、私とエスカは収納魔法があるので、実質の荷物はモモとタミール、それと父親の三人分だった。
ちなみにだけど、私とエスカとモモは同じ部屋に放り込まれてしまった。部屋の管理を増やしたくないのだろう。私とエスカは前世の事もあるので狭い部屋でも別に問題はないけど、モモはどうなのかしらね。
ちらりとモモを見るけれど、エスカにもすっかり慣れているのか、別に問題なさそうな感じだった。
「改めて聞くけれど、今回こっちにやって来ようと思った理由は何なのかしら」
腰を落ち着けたところで、エスカが私に確認を取ってくる。どうにも腑に落ちていないところがあるみたい。
聞かれたからには答えてあげましょうかね。この帰省に付き合わせたわけだし。
「なんていうのかしらね。嫌な予感がしたのよ」
「嫌な予感?」
私の言葉にエスカが食いついてくる。モモも興味を示したらしく、じっと見つめてくる。
「そう、嫌な予感よ。このファッティ領に黒い気配が迫っている気がするのよね」
そう言いながら、私は右手の甲を差し出した。
「そっか、女神様の恩恵か……」
エスカはすぐに思い当たった。
「これが反応しているって事は、間違いなくファッティ領に災いが近付いているって事でしょうね」
チカチカと光がちらつく右手の甲を見ながら、私とエスカは唸っている。その後ろでは、ただ一人状況が分からないモモがひたすら首を傾げ続けていたのだった。




