第313話 冬のファッティ領へ
学園が終わったその日、父親は早速馬車を繰り出そうとする。さすがに辺りが真っ暗なので、私たちは必死に止めた。夜中から移動しようなんて、いくらなんでも気が逸りすぎだと思うのよ。
父親は私たちの反抗にすっかりしょげ返っていた。娘たちから反対されたら、まあそうなっちゃうかしらね。
とまぁ、そんな感じで父親をどうにか説得して、翌日明るくなってからファッティ領へと向かう事になった。
ちなみにファッティ領へと向かう面々は、私とモモ、それにタミールのファッティ家三人がメイン。それとエスカもついてくる。テールは母親と一緒にお留守番という事になった。油断はできないので家から出ない方がいいからね、こればかりは仕方がないかな。
従者に関しては最低限がついてくる感じで、スーラとネス、それとタミールとエスカの従者も付き添う事になる。エスカの従者は複数居るんだけど、ついて来るのはとりあえず一人だけ。残りは家に残る面々と城へ向かう面々とに分けていた。ミズーナ王女に連絡入れておかないとね。
「それでは、こちらの事は頼んだぞ」
「ええ、お任せ下さい。家令も居ますから、どうにかなるでしょうけれど」
父親の言葉に、母親はにこやかに笑顔を見せていた。
とりあえず、これから3週間ほど家を留守にする。大体10日ほどを領地の視察に充てる予定よ。
特に問題も王都の伯爵邸を出発する私たち。ただの里帰りで済めばいいのだけど、不思議な胸騒ぎが私を襲っていた。
「アンマリアお嬢様?」
私が急に青ざめた顔をするものだから、隣に座るスーラが心配して声を掛けてきてくれた。
「スーラ、ごめん、なんでもないわ」
「そうでございますか? 分かりました。でも、何かあったらすぐ仰って下さいね」
私がごまかしておくと、スーラはおとなしく引き下がってくれた。
久しぶりの国内の馬車移動を体験する私。瞬間移動魔法は便利だけど、こうやって景色を楽しむのも悪くはないわよね。
途中で3泊しながら、私たちはようやくファッティ伯爵領の領都に到着したのだった。
「ふむ、領内のここまでの雰囲気は特に問題はない感じだな」
領主邸に到着して、馬車から降りた父親は満足そうに話している。
「おお、領主様、お久しぶりでございます」
庭師のツラミが出てきた。
「ツラミか。まだまだだ元気そうだな」
父親もツラミの事をしっかり覚えていたようだ。前に来たの何年前かしらね。これが国政の大臣を務める人間の記憶力なのかしら……。
「ええ、元気ですとも。領主様からお預かりしたこの屋敷を立派に維持するのが私の役目ですからな」
「実に頼もしい限りだな。ところで、兄上、デバラ・ファッティはご在宅かな?」
「はい、ご在宅でございます。わたくしめでよければご案内致しましょうか?」
優しく笑った父親は、ツラミに伯父の事を確認している。どうやら屋敷の中に居るようだった。
「いや、お前は庭の手入れが仕事だろう。今の時間なら執務室でいいか?」
「はい。午前中は前日の残りなどをこなす事になっておりますゆえ、それで間違いないかと」
父親はツラミに手を上げて礼を示すと、私たちを連れて屋敷の中へと入っていった。
久しぶりにやって来た伯爵領のファッティ邸。しっかりと手が行き届いており、ほぼほぼきれいに保たれている。いくらきれい好きの主だとしても、ここまで徹底的にきれいに保つ事は難しい。それをしっかりやってのけているのだから、伯父というのは生真面目で細かい人間なのだろう。
領主邸に入り、屋敷の中心くらいにある執務室へと向かう。扉の前に立ち、父親が扉を叩く。すると中から反応があった。
「誰だ?」
間違いない、おじさんの声である。
「久しぶりだな、兄上。ちょっと休暇を貰って戻ってきたぞ」
父親が声を掛けると、中でものすごい音が響き渡る。その音を聞いてタミールが慌てているが、私がとりあえず落ち着かせる。サプライズ成功だけど、ちょっと大事になって私も慌ててるんだけどね。
「ゼニークか。ちょっと待て、今扉を開ける」
伯父の声が聞こえた後にバタバタという足音が響き、ガチャリと扉が開く。息を切らせて出迎えた伯父の姿に、私はつい笑いそうになってしまった。どうしてそこまで慌てて出てきたのだろうか。
「仕事人間のお前が休みを取るとは珍しいな。……しかも、ずいぶんと痩せてないか? アンマリアも」
「太りすぎると体に悪いとマリーに言われてな。食生活を改善したり、ちょっとした空き時間に運動したりしてな、どうにかここまで痩せたんだ」
「ほぉ……」
父親の言葉に、素直に感心している伯父だった。
「マリーたち以外は改めて紹介するから、とりあえず中へ入っても大丈夫かな? さっきすごい音がしてたようだが……」
「ああ、ゼニークの声が聞こえて驚いてな。そこのソファーに足を引っかけて転んだだけだ」
「大丈夫か、兄上」
「お前の顔を見て痛みなんか吹き飛んだ。だが、ちょっと片付けなきゃいけないから、少し待っててくれ」
そう言って、伯父は部屋の中に引っ込んでいそいそと片付け始めた。
その後、区切りがついた伯父が私たちに声を掛ける。それを合図に部屋の中に入った私たちは、応接用の机を囲んでソファーに腰掛けたのだった。




