第312話 2年目の冬休みを前に
後期末試験が終わり、モモとエスカが燃え尽きていた。この二人は筆記試験でめちゃくちゃギリギリで、実技試験でどうにか突破したわけだからこうなるのも仕方はない。普段から勉強をしてないからこうなるのよ。二人の落ち込む姿を、私は呆れて見つめていた。
「アンマリア様、夕食の支度ができています。そろそろ向かいましょう」
テールが私を呼びに来た。だけど、私の目の前で繰り広げられている光景に、ものすごく驚いて後退っていた。
「えっと……、アンマリア様、これは一体?」
「気にしないで、試験後の恒例ですので」
私はさらりと流しておいた。だって、説明するのも面倒なんですもの。
「二人は夕食が要らないみたいだし、タミールを呼んでさっさと食堂に参りましょう」
「ちょっと待ちなさいよ、アンマリア。誰が要らないなんて言ったのよ」
あっ、エスカが元気になった。思わずぎょっとしてしまう。
「モモ、今は食べて気分転換よ。いつまでも落ち込んでなんかいられないわ」
「はい、エスカ王女殿下」
エスカにつられるようにしてモモも復活する。この切り替えの早さは感心できるわね。
そんなわけで、別の部屋に一人居るタミールを呼んでから、私たちは食堂へと向かった。
食堂には両親と私たちで合計七人が集まる。
最初のうちこそ黙々と食べていたものの、父親が私に話を振ってきた。
「アンマリアはこの冬はどうするつもりだい?」
「うぐ?」
口に物を含んだまま反応する私。もう少しで思わず詰まらせてしまうところだった。いや、危うく洒落にならないところだったわね。
私は口の中を空にしてから、改めて反応を返す。
「どうするとはどういう事でしょうか、お父様」
質問の意図が汲み取れなかったので、私は父親に尋ね返す。すると、父親は私に対して笑い返してきた。
「そのままの意味だよ。事業の方も今は安定しているし、調査も王国に任せている。久しぶりに暇な長期休暇だろう? 何かしたい事はないのかと思ったんだが?」
父親が真面目に説明してくれる。ああ、単純な興味からの質問だったのね。
確かにこの冬は何もやる事がない。これ以上前世知識を引っ張り出してあーだこーだするつもりもないし、のんびり休みたいところだわね。
そこで、私はふと思いついた。
「でしたら、領地の方へ行ってみたいと思います。タミールも半年ほどこちらで過ごしてますし、里帰りを兼ねて行ってみたいですね」
「ふむ……、それはいいかもな」
私の発言に、父親がかなり考え込んでいる。予想外な反応をされたので、どうしていいのか分からずに思わず挙動不審になってしまう。
「兄上とも長く会っていないしな。これを機会に顔を合わせてみるのもいいかも知れないな」
父親はファッティ領に赴く事に前向きである。
父親は一国の大臣であると同時に領主でもあるのだ。私の言葉を真に受けて、自分も里帰りしてみる気満々のようである。
「お父様」
とりあえず懸念があるので、私は思わず声を出す。
「大臣職の方はどうなさるおつもりですか?」
「なに、私の代わりを務められる者は居るし、たまには経験させてみるのもいいだろう。年末は王国主催のパーティーや来年の学園の事があるとはいっても、私は最終的な確認をするだけだ。問題ないだろう」
父親はものすごくどっしりと構えているようだった。これが大人の貫禄というものだろうか。この余裕は見習いたいわね。
「よし、そうと決まれば、学園が冬休みに入ると同時に領地に向かえるように手配しておこう。仕事はピゲルに任せておけば大丈夫だろう。元々は大臣の座を私と争った奴だからな」
「私のお父様って、そんなにすごかったんだ……」
テールが驚いたように呟いていた。義理とはいえ、自分の父親が褒められているのは、悪い気がしないというものなのだろう。
そのテールの引き取り主で義理の父親であるピゲル・ロートントは、現在も城の中で軟禁生活中だ。すっかり昔の状態に戻っているとはいえ、重要参考人だし、下手に外に出してベジタリウスの諜報部に命を狙われては困るというのが理由だ。数少ないイスンセという人物と直に接触した証人ですものね。王国としても簡単に失うわけにはいかないというわけだった。
そんなわけで冬の方針が固まった。父親はすぐに領地に戻れるように馬車の手配を始めていた。
タミールは半年ぶりに戻る事になるファッティ伯爵邸に、わくわくそわそわとして落ち着かない様子である。
学園での成績はそんなに良くはなかったようだけれども、魔力循環不全に陥っていた状態から、よくここまで回復できたものだ。それに、半年であそこまで追いついたその努力は評価していいと思う。そこには成績以上の頑張りがあったのだものね。
さて、それにしても久しぶりのファッティ伯爵領。年末パーティーまでには戻ってくるつもりだけど、ゆっくりくつろげるかしらね。
あの立派な伯父夫婦ならば、きっと大丈夫だろう。
私たちはいろいろな思いを胸中に秘めながら、学園2年生の冬休みを迎えようとしていたのだった。




