第300話 ベジタリウス国王
目の前に立つはベジタリウス王国の国王。外から見えるようなこの場所に出てくるというのが驚きだった。
しかし、馬の話となればこうやって外までわざわざ出てくるらしい。そのくらいには馬が好きな御仁なのだそうだ。
「毎年すまないな。よく今年も来てくれた、感謝する」
国王が隊商に向けて声を掛けてくる。
「これはこれはベジタリウス国王陛下。今年もわざわざ陛下自らの品定め、感服致します」
隊商のリーダーが深々と頭を下げている。相手は国王なのだから、これくらいは普通なのだ。
「それと……、確かそちらの二人は……」
ベジタリウス国王が私たちの方を見てくる。どうして私たちの方を見てくるのか、まったく理由が分からない。隊商の一員に化けているのだから、気付かれるわけがないはずだった。
ところが、国王からは意外な言葉が出てきた。
「アンマリア・ファッティ伯爵令嬢とサクラ・バッサーシ辺境伯令嬢だな。娘のミズーナから聞かされているよ。サーロイン王国で気になる人物が居ると、留学前から話していたからね」
「……はい?」
ベジタリウス国王からとんでもない言葉が出てきた。なんと、ミズーナ王女は留学前から私たちの事を話していたらしい。そんなの聞いてないんだけど?!
「私の方から話はしたいと思っている。この商談が終わるまでは待っていてはもらえないか?」
「……承知致しました。私たちの事が分かっているのでしたら、話が早くて済みますから」
私とサクラは混乱のあまり顔を見合わせていたものの、とりあえずは納得してそのように返事をしておいた。
結局のところ、国王は今回の取引に出された馬はすべて気に入ったらしく、すべてお買い上げという事で落ち着いた。馬以外の取引は部下に任せ、私とサクラを連れて城の中へと移動する事となった。
国王の私室に連れてこられた私とサクラ。まさかこんな場所に連れてこられるとは思ってなかったので、緊張が半端なかった。
「さて、何から話をしたものか……。とりあえず掛けてくれ」
国王から促されるが、国王が座っていない状態で私たちが座れるわけもなかった。それに気が付いた国王は、先に自分が腰を掛ける。
「これでいいかな?」
確認するように言うものだから、私たちもようやく腰掛ける事ができた。
腰を落ち着けた私たちだけれど、どう話を切り出したらいいのか分からない。しばらく黙っていると、国王が口を開いた。
「アンマリア・ファッティ伯爵令嬢、サクラ・バッサーシ辺境伯令嬢、娘から聞いていた通りの容姿で驚いたな」
改めてそんな事を口にするので、ミズーナ王女は一体私たちの事をどう話していたのだろうか。かなり気になってしまう。
しかし、国王の前でいつまでもまごまごした態度は取ってはいられない。
「ご存じ頂いてとても光栄でございます、ベジタリウス国王陛下。ご指摘の通り、私はアンマリア・ファッティでございます」
「サクラ・バッサーシでございます」
私の自己紹介を受けて、サクラは慌てて私に続いて自己紹介をする。
「うむ、私はパセラ・ベジタリウスだ。息子と娘が世話になっている」
パセラ国王が頭を下げた。予想していない行動で、私たちの混乱はさらに加速していた。
「それで早速だが、子どもたちの様子を聞く前に二人がこちらに来た用件を聞かせてもらおうか」
パセラ国王は私たちの様子を見て何かしらを感じ取ったようだった。さすがは国王といったところだわ。
これだけ話が早いとなると、私たちは遠慮なくパセラ国王に今回の訪問の理由を話した。
私たちの話した内容を聞いていた、パセラ国王の表情はどんどんと険しくなっていた。
「それは本当なのか?」
「確証はありませんが、呪具に囚われていたロートント男爵からの証言の中で、イスンセという名前が出てきました。この名前にミズーナ王女が聞き覚えがあるような事を申されていましたので、念のためにこちらへ確認にやって来たわけでございます」
私の話を聞いて、パセラ国王は唸り始めてしまった。どうやら心当たりがあるようだ。
「イスンセというのは、確かに我が国の諜報員の名前だな。サーロイン王国の内情を探るために潜伏しているのは確かだが……、まさかそんなわけがな……」
「諜報員を送り込んでいたのは認めますのね」
「それは認めよう。とはいえ、今ではだいぶ形骸化しているのだがな。王子や王女を留学のために送り込んでいるのだぞ? わざわざ争いを起こすような真似をすると思うか?」
私が確認するように聞き返すと、パセラ国王は憤慨しながら返してきた。
「それは失礼致しました。お詫び申し上げます」
なので、私は謝罪をしておく。だが、パセラ国王の表情は晴れないままだった。
「となると、諜報部が暴走しているというわけか。なるほど、分からないようにしてやって来た理由に納得がいった」
国王は腕を組んで首を縦に振って納得したようだった。
「しかしだ、私のところにはそのような報告が上がってきておらぬ。となると、イスンセどもか、もしくは諜報部全体でか情報をわざと隠しておる事になるな。それに、呪具の存在も気になるしな」
国王の表情は依然として険しいままだった。
「危険を承知で来てもらって実にありがたい。早速調査団を結成して調べさせる事にしよう。相手が諜報部となれば骨は折れるがな……」
国王は私たちに感謝の意を述べると、調査の約束をしてくれたのだった。
ところがこの後、国王は指示を出して落ち着いたところで、自分の子どもたちの様子を私たちから聞き出す事に躍起になっていたのだった。親として心配になるのはいいのだけど、その勢いにはついつい引かざるを得なかったのだった。




