第301話 王族の書庫
「それでだが、イスンセが絡んだ話というのをもう少し詳しく聞かせてもらおうか?」
「承知致しました」
パセラ国王に言われた私は、ロートント男爵事件の話を詳しくする。
養女であるテールの件と合わせての話なので、結構長いしめちゃくちゃな話だ。
当然ながら、パセラ国王は信じられないといった顔をしていた。
「しかし、呪具か……。魔王の力を秘めたという道具、そんなものが存在していたのか」
「パセラ国王陛下は、魔王についてご存じでございますか?」
「いや、詳しくは知らぬ。伝承程度にはベジタリウス王国には伝わってはいるが……」
パセラ国王によれば、伝承はあるけれども詳しくはないとの事。だが、呪具が存在している以上はしっかり伝わっている場所はありそうね。ただ、国王はその場所については知らないっぽい。
「こうなれば一度伝承に関する書物を片っ端から調べるしかあるまいな。ついて参れ」
突然立ち上がるパセラ国王。驚いたものの、私とサクラはその後ろをついて行った。
やって来たのはベジタリウス王城内の書庫だった。かなり大きな扉を備えた立派な場所のようである。
パセラ国王が扉に手を掛けると、魔力的な反応が起きて扉がゆっくりと開いていく。
「ここの書庫は我々ベジタリウスの王家の者だけが入れる書庫だ。二人は特別に入室の許可を出そう」
「ありがとう存じます」
私とサクラは深々と頭を下げると、国王の後について書庫の中へと入っていく。
中に完全に入った瞬間、書庫の扉がゆっくりと閉まっていく。どうやら機密保持のために他人が入れないようになっているようだった。
「魔王の伝承についての書庫はあの辺だな。一応一般にも出回っている伝承の本があるが、ここにあるものに比べればその記述の内容はかなりぼかされている」
説明をしながら、パセラ国王は私たちを目的の本棚へと連れて行く。
「ベジタリウス王国の建国はかなり古い。この書庫はその時から外界とは隔離された空間で、その時に集められた当時の本がそのまま残っている。言ってしまえば古文書というわけだな」
「なるほどです」
こくりと頷いて理解する私。サクラはよく分からないといった顔をしている。
「サクラ様、とりあえず本を集めるのを手伝って頂けませんか?」
「分かりました」
「入るには私の許可が必要だが、出る時は私の許可は要らない。ただあらぬ疑いを掛けられるようにこれを渡しておこう」
パセラ国王は私たちにブローチを渡してきた。
だけど、私はそのブローチに対して警戒してしまう。
「アンマリア様?」
「ごめん、テール様の件で使われた呪具がブローチだったものですから、ちょっと警戒をしてしまいました」
「おお、それはすまなかったな。これは許可証代わりに大量に作らせたただのブローチだから安心してくれ」
私の躊躇した理由を聞いて、パセラ国王は納得したようだった。その上でブローチの説明をして私たちに渡してきた。鑑定をしてみたものの、確かに普通のブローチだった。
「ちなみにその装飾の形がベジタリウス王家の紋章だ。だから、見せれば誰もが納得してくれるぞ」
「ありがたくお借り致します」
私とサクラが礼を言うと、パセラ国王は優しい顔をしていた。
「さて、私は残りの公務に向かう。どうせ数日泊っていくのだろう? 夕食の時間には人を向かわせるから、それまで好きなだけ読んでいるといい」
パセラ国王はそう言うと、とっとと書庫を出て行ってしまった。
私たちは早速書庫の中の本を調べ始める。
まずはパセラ国王の示した魔王に関する書庫の辺りからだ。鑑定魔法を駆使しながら的確に本を選んでいく。
だけど、いざ読み始めるとサクラはさっさとお手上げになっていた。ここで脳筋ぶりを発揮しないでもらいたいものね。
「難しくて読めないですね!」
「サクラ様、まだ1行目ですよ!」
あまりの早さに、思わずツッコミを入れる私である。
「学園の教科書はどうにか我慢して読みますけれど、私は本を読むのは苦手ですし嫌いなんですよ」
「知ってます」
サクラが愚痴をこぼすと、私はすかさずこくりと頷く。
「ひどいです」
嘆くような顔をするサクラだけど、私だって本当は本なんて読みたくはない。でも、いろいろと知っておかなきゃいけない事があるから読まざるをえないのよ。
「今後の呪具体策の事とかありますからね。国を守るためだと思って我慢して下さい。テール様の事件を繰り返させるつもりですか?」
「うっ……」
私が強く言うと、サクラは渋々本を持って読み始めた。
とにかく私は、ベジタリウス王城の書庫の本をできる限り読み漁った。今は圧倒的な魔力量の差に苦戦しているけれど、相手を知れば効率的に魔王の力に対抗できるかも知れないからね。
どれくらい時間が経っただろうか。部屋の外からノックの音が聞こえてくる。
「アンマリア様、サクラ様。国王陛下の命により呼びに参りました。お食事の準備が整っております」
女性の声だった。どうやら国王が話していた使いが来たようである。
「サクラ様、今はここまでにしましょうか」
「そうですね」
私たちは手を止めて、呼び掛けに応じて書庫から出たのだった。




