第十語話 ナヨ・タケノカグヤ2 閑話 さぬきの造り
周囲には青い空も覆いつくす様な緑の樹木が立っている。その樹木の幹や枝はか細く、いとも簡単に折れそうに見える。だが風に煽られる幹や枝はしなやかに揺れつつ、水の中を泳ぐ様に優美に揺れていた。
風が吹く度さらさらと葉擦れの音が聞こえ、一つの音を奏でていく。それはその場所自体が楽器の一つで、まるで別の世界――異世界のようだ。
「よいっせっと、今日はいい天気だ。これなら具合の良い竹も取れそうだ」
そんな異世界のような空間に、空を仰ぎながら足を踏み入れる男がいる。年の頃は五十半ばといったところか、黒い髪と黒い瞳が特徴的な老爺だ。
その老爺は粗末な服装を身に纏っており、片手に鉈を持ちながら背には籠のような物を背負っている。そしてキョロキョロと周囲の様子を窺いながら、ときおり地面にしゃがみ込んで、何かの確認をしているようだ。
この一見、怪しそうに見える老爺の名は『さぬき』と言う。『さぬき』はこの異世界のような空間――竹林に毎日入り、竹を刈って生活している。その仕事の内容はたまに筍を掘るような事も稀にはあるが、基本刈り取った竹を様々な物に加工して売り歩いている。
そんな『さぬき』が今日も良い竹はあるだろうか、良い品物を作るにはどんな竹が良いだろうかと、考えながら歩いていた。
老爺はこうして一日中、竹林の中を歩き回り、日が沈めば刈り取った竹を持って家に駆る。そして家に帰った後は、その竹を使って様々な日用品や農具を作るのが『さぬき』の日常であった。
だが何の因果か偶然か――『さぬき』が竹林に入ってから数刻後、いとも不思議な出会いをする。
「ん? なんじゃろう? 変わった音……いや、声、じゃろか?」
『さぬき』が今日も今日とて良い竹を得ようと、その足を竹林の奥に向けた時だった。
「―――――――ミー! ――――プ!」
『さぬき』が足を向けたその先、竹林の奥の方から、何かか騒ぐ声が聞こえてくる。誰かがこの竹林に迷い込んでもしたのか、それとも熊でも出たのか。
もしも誰かが迷っているならば、何にしても助けた方が良いだろうと、その足を竹林の奥に向け始める。だがそれでも『さぬき』は、いざ熊に会っても背中だけは見せぬようにと警戒する。
「……なんじゃあ、こりゃぁ?」
しかし『さぬき』のそんな警戒は杞憂だった。老爺の目に入るは奇々怪々と、緑と銀に輝く竹の棹。
竹の真ん中部分が眩く光っており、見る者は思わず目を細めてしまう。もちろん『さぬき』もその例に漏れず、少しでも光から逃れれようと、細い目を更に細めながらその輝く竹に近づいて行く。
「…………これは、赤子か?」
そうして目に出来るだけ光を入れないよう近づいてみれば、その光り輝く部分に、誰かがちょこんと座っているのが見えた。
背の大きさは三寸ほどで、その気になれば指先でも摘まめそうだ。ちょこまかと動くその姿は、子猫か子犬を思い出させる様で『さぬき』の頬が自然と緩んでいく。
だがそれに気づいた赤子は急に慌て始め、その小さな腕や手をバタバタさせ、不思議な響きのする声で喚き始める。
「プリーズ! ヘルプミー! プリーズ、ヘルプミー!!」
『さぬき』は「なんと変わった泣き方をする赤子じゃのう?」と首を傾げながら、その小さな存在を片手で抱き上げる。
髪と瞳は夜空のような綺麗な黒。赤子の肌は透明な雪のように白く肌理細やかだ。今は赤ん坊らしく泣き喚いてはいるが、笑えば天女の様に可愛だろうと『さぬき』は更に頬を緩めてしまう。
そうして、この老爺は思いつく――きっとこの子は子供の居ない自分たち夫婦に、天が授けてくれた赤子なのだと。
こうして超宇宙的技術移民船ツッキーから地球へ逃避行したナヨ・タケノカグヤは、子供の居ない『さぬき夫婦』の老爺に拾われ、二人の子供として大事に育てられる事になるのだった。




