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直線659  作者: 伊野部俊
5R【"妹"、戦う】
60/61

【日本ダービー】赤、青、黄色、そして黒

お待たせいたしました。

次回は5/2頃を予定しています!


青葉賞を勝ったゴーイントゥスカイが武豊騎手とダービーに出るそうですね!ジンクスを破るのはやっぱりダービーを最も知るレジェンドなのでしょうか……




【元騎手・円山周二(まるやましゅうじ)が厳選!!最新版3歳クラシック番付】


番付   牡馬        厩舎   変動

横綱   マイティタックル  杉野森  ↑

大関   ニルヴァーナ    池波   ー

関脇   マジックキングダム 碇    ↓

小結   タグタグウマッコ  石橋   ↑  

前頭筆頭 ダグラスファイター 友近   ↑ 


【円山の本命馬】


◎マイティタックル

一瞬で馬群を突き抜ける末脚は世代トップと言える。ペースの緩急を問わず差しを決められ、自分の競馬に持ち込むのが上手い印象。鞍上の小森賢雄(けんゆう)騎手は3年前にファントムパレードでクラシック二冠を達成しており、実績は申し分なし。同牧場出身で先日ターフを去った桜花賞馬・ドンナモンジャイの想いも背負い、悲願の三冠へ期待がかかる。



◆◆◆


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

馬番 馬名        馬体重  騎手  単勝  

⑨  マイティタックル  512 (+4) 小森賢 3.5

⑦  ニルヴァーナ    484(-10) 伊吹聡 3.8

⑤  マジックキングダム 490 (+6) 金子  4.2

④  ダグラスファイター 458 (+8) ラミー 15.1

⑱  タグタグウマッコ  424 (+2) ジジグ 22.4

︙     ︙       ︙   ︙   ︙

︙     ︙       ︙   ︙   ︙

③  クロノドラクロワ  516 (+2) 柚木(ゆのき)  65.9

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



《全国の競馬ファンの皆さま、今年もこの日がやってまいりました。東京競馬場、本日のメインレースは第93回日本ダービー(G1)。芝2400m、コンディションは良。生涯一度の夢舞台を祝福するかのように、午前中の小雨が15時現在は完全に収まっております。実況は私三角(みすみ)、解説は元JRA騎手で2004年にダービージョッキーに輝きました円山周二(まるやましゅうじ)さんにお越しいただいています。円山さん、本日も宜しくお願いします》


《はい、宜しくお願いします》


《現在1番人気は黄枠・⑨マイティタックルです。先週のオークスで府中の魔物に襲われた兄の無念、そして志半ばでターフを去った桜花賞馬の想いを背負い、今週は弟と皐月賞馬が二冠に挑みます》


《いやぁ、何とも感動のドラマを期待してしまう人気ですね。ですがここに待ったをかけるのがライバル2頭》


《はい。僅差の2番人気には、ここまで全レース上がり最速をマークし皐月賞は2着、最強の敗者こと青枠・⑦ニルヴァーナ。そして3番人気は昨年の朝日杯勝ち馬で皐月賞3着、赤枠・⑤マジックキングダムが続いています》


《3強の枠が赤・青・黄ですか。そう言えば勝負服もそれぞれ赤・青・黄ですね。三角アナとしては実況しやすくて助かるでしょう(笑)》


《確かに(笑)。レースを沸かせるのがこの3強なことは間違いないですね。その他にも青葉賞組は黒枠・③クロノドラクロワに④ダグラスファイター。そして大外から逃げを打つか、⑱タグタグウマッコも見逃せません。さてここからはパドック解説に参りましょう……》



◆◆◆


東京に住む"もうひとつの黒木家"。

クロノドラクロワの兄・未勝利で失踪したクロノアトリエを引き取っている、高円寺の6人家族。


ドラクロワが生涯一度の夢舞台・日本ダービーに出走すると連絡を受け、今日は家族総出で府中に足を運んでいた。


両親と姉、それに三つ子の長男・(じょう)と三男・(りつ)は、調教師の栗林親子に案内され既にスタンドへ向かっている。だが次男の(がく)は、パドックで黒木牧場の2代目・黒木(わたる)と話し込んでいた。


「3強、3強って言ってますけど、誰もドラクロワについては触れないんですね……」

「悔しいけど、青葉賞組はダービー勝てないって昔から言われてるからね。皐月賞組より疲労は抜けてないし、出る馬のレベルも劣るから」

「でも、青葉賞1着のダグラスファイターは4番人気ですよ。なのに2着のドラクロワが10番人気って、僕には納得できないんですけど」


岳の声に熱がこもる。半年前の百日草特別の時と同じだった。あの時もドラクロワは10番人気で、「新馬戦を勝ったのに何で10番人気なのか」と理由を詰めていたものだ。


渉はその場にはいなかったが、後に岳の父親・黒木博から電話で話を聞いていた。実に理論派であの子らしい、と苦笑したのを今でも覚えている。


「まあ、上位はみんな早くに仕上がって"皐月賞に間に合ってた馬"だろ。ダグラスにしたって、トライアルの弥生賞には出たんだし。心房細動で本番に出られなかっただけで」

「それは……そうですね」

「ドラクロワも弥生賞を使ったから"間に合ってた側"ではあるんだけど、あとはもう馬の力と……鞍上の評価だな。ダービーともなればお客さんの目は厳しいのさ。何たって自分の夢を託すんだから」


「むぅ……」


岳は黙った。確かに3強には実力・実績ともに明らかに劣るし、ダグラスファイターには独トップジョッキーのラミーが乗っている。柚木は安定感こそあるが、先週のオークスでまたも銀メダル。そう考えると10番人気が妥当なのかもしれない……


「……僕の夢は、クロノドラクロワです。ドラクロワを応援します」


「おう、頼むよ。めいっぱい応援してやってくれ、何せ君はまだ馬券を買えないからね。損することはない、失うものは何にもない」

「いえ、馬券は買いました。単複5000円」

「ふぁっ!?」

「と言っても、買ったのは父ですけど。おっしゃる通り僕は買っちゃダメですから」


岳の手には、「がんばれ!!」とバッチリ印刷された応援馬券が握られていた。渉は危うく卒倒するところだったが、辛うじてその文字を見て意識を保つ。


と同時に、パドックを周回する愛馬へこれでもかと念を送った。どうか無事に駆け抜けられますように、この子の前で良い結果が出せますように——せめて一桁着順。いや、願わくば掲示板……



スタンドに岳を送り届けて馬主席へ向かうと、栗林親子と父の(いさむ)、息子の(とおる)が勢揃いしている。


「あのデカい中学生と話していたのか」

勇が座ったまま静かに問いかける。


「はい。ドラクロワの兄を引き取ってくれている家の子ですよ。三つ子の中でも特に競馬に入れ込んでる子で」

「そうか……」


勇は本馬場入場が始まっているスタンドに目を向けた。


「俺が牧場長だった頃——オドリコを生産した80年代の頃は、こんな大舞台に立つ馬が出るなんてこれっぽっちも思っちゃいなかったよ。それがオドリコの玄孫(やしゃご)の代になって、オークスとダービーに出走するとはな。久しぶりにホースマンに戻るのもいいもんだ」


1ヶ月前と比べて丸くなった父に、「それは良かったです」と返して渉は席に着いた。



◆◆◆


《東京競馬場、15時35分現在の来場者は何と13万人を突破しております。2023年生まれのサラブレッドの頂点に立つのはどの馬か、血とプライドと夢をぶつける最強決定戦が今——スタートしました!!》


大歓声の中、選ばれし18頭の優駿がスタンド前を駆けていく。ドラクロワも多少興奮してはいたが、何とかゲートから飛び出した。その瞬間に、陣営が皆頷くのがわかった。


先頭を単騎で飛ばしていくのはやはり大外18番、ピンクの帽子のタグタグウマッコだった。皐月賞で不利を受けた悔しさが残るのか、鞍上のジジグは仕切りに後方を確認しながら逃げている。


ドラクロワはもう、かつてのようにウマッコに競りかけることはしなかった。きっちり自分のペースを守り、1コーナーを過ぎると中団につけて脚を溜める。半年間で、自分とウマッコの強さが別ベクトルのものと気づいたのだろう。


(大丈夫だ。ドラクロワはちゃんと強くなっている)


渉は今までで一番安心して見ていた。

時をかけて、ゆっくりコツコツと——"Chrono(クロノ)"の冠名そのままに愛馬は力をつけている。ならば恐れることはない、この頂上決戦でどこまで通用するのか達観するのみ。


黒い馬体に黒の勝負服、ダービーの白いゼッケン、そして2枠の黒いジョッキーヘルメット——茶色い集団の中で愛馬だけが、モノクロ映画のように動いていた。


先頭を走る⑱タグタグウマッコが大欅の向こう側を無事に越えると、スタンドから大きな拍手が上がる。先週の惨事を受けて、誰もが全人馬完走を願っていた。


4コーナーに入る直前で、後方で固まっていた3強がするすると動き始める。内から赤枠・⑤マジックキングダムが脚を伸ばし、真ん中は青枠・⑦ニルヴァーナがペースを速める。黄枠・⑨マイティタックルは既に準備万端という様子で外から襲いかかってきた。


次の瞬間、スタンドの歓声は一気に色を変えた。先頭で逃げ粘るピンク帽も、中団からじわじわ伸びる黒帽も、3強の力強く目を引く華やかな走りには到底及ばなかった。走りのインパクトからして違っていた。


《——赤か!!青か!!黄色か!!》

《2歳王者か!!最強の敗者か!!皐月賞馬か!!》


《3強揃って抜けた抜けた!!三つ巴の大接戦!!》


《青粘る、黄迫る!!しかしここは赤!!赤のターン!!

赤先頭!!赤先頭!!皐月の惜敗キングの目覚め、舞台は——キングを待っていたッッ!!》


《マジックキングダム先頭、外からマイティタックル、その内ニルヴァーナ、しかし強い、王者の血は確かに確かに輝いた——!!マジック・キングダムぅぅぅ!!》


《日米ダービー馬の血を引くキング・オブ・ダービー馬!!夢叶えし最強の切り札、マジックキングダムです》


《そしてまたも2着は最強の敗者⑦ニルヴァーナ、二冠をかけた⑨マイティタックルは悔しい3着!!青と黄色は敗れた、勝ったのは赤!!赤枠⑤マジックキングダム!!》



◆◆◆


電光掲示板に着順が表示され、渉ははっとする。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

東京11R        確定

⑤マジックキングダム クビ   

⑦ニルヴァーナ    アタマ  

⑨マイティタックル  ハナ

④ダグラスファイター 2  

③クロノドラクロワ  1/2

芝             

良      タイム 2:22:1

ダート      4F  47:0

良        3F  35:2

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ドラクロワと柚木はよくやった。あのメンツで5着に入ったんだ、やっぱり左回りと長い直線が合ってるんだろう」


勇はすっくと立ち上がり、生涯一度の夢舞台を駆け抜けたオドリコの玄孫に鋭く視線を向けた。


「だが、今のあいつの力じゃ府中では勝てん。もっと……こう、がむしゃらに走れる道が必要だな。自由に真っ直ぐ走れる(みち)が。府中じゃまだ短いんだ」


「そうだな……直線が、あと100mちょっと欲しい」


その言葉を聞き、渉は全身の毛が逆立つのがわかった。体が本能的に危険を感じている。


たった今父が口にしたことは、開けてはならないパンドラの箱に手をかけたようなものである。38年前の"あの日"を一番思い出したくないはずの父が、まさかこんなことを言うとは。それほどドラクロワの走りに心を動かされているのだ。異常事態どころではない。


(落ち着け)

(今年の新潟大賞典は終わったんだ)


そう、因縁のレースは去る5月16日に終わっている。


それなのに渉の冷や汗は止まらない。ダービーの緊張かと思ったが、レースが終わってからドキドキしているとしたらタイムラグにも程がある。"あの舞台"が輝く季節がやってくることがもう、恐ろしくて仕方がないのだ。


(ああ、今年も新潟に夏が来る)


マジックキングダム(Magic Kingdom)

2023年生 牡3 鹿毛

父:Magic The Gathering

母:クイーンオブハーツ

母父:キングカメハメハ

生産牧場:ノーザンファーム(安平町)

馬主:ベンテンドー

勝負服:赤、白ディスク、黒袖

戦績:5戦3勝(3-1-1-0)

主な勝ち鞍:25'朝日杯フューチュリティS(G1)

      26'日本ダービー(G1)


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