5.助けてハルえもん
エクストラダンジョン…確かハルキさんによればまだ一度しか見つかっていない超レアダンジョンだったはずだ。
それがなんでこんなところに?
私はもう一度鑑定をしてみる。やはりエクストラの表示は間違いなさそうだ。
それに推奨Lv.50。ここ初心者用フィールドだよ?50っていったら現状の最高レベルみたいなもんだよ?
あやしい。
きょろきょろと周りを見渡す。
周りに人影やモンスターはいないようだ。
今のところこのダンジョンを見つけたのは私だけかな?それとももう中に人が入ってるのかな。
なんかドキドキしてきた。
まだ一度しか見つかっていないというエクストラダンジョンが目の前にある。
しかもまだ私しか知らないっぽい。
これって昔のアニメで見た展開っぽくない?ちょっとご都合展開だけど、初心者がレアダンジョンクリアしてすごいアイテムとかスキルとかもらっちゃうってやつ。
きゃー私いま主人公してない?
私は恐る恐るダンジョンの中を覗き見る。
ダンジョン、工房?の中は薄暗く、遠くまでは見通せない。私の探知の範囲にはモンスターはいないようだ。
ダンジョンの中に一歩踏み入れる。スーッと冷たい風が中から吹いてくる。気温も数度下がったような気がする。
浮かれた頭に、一気に緊張感が走る。
カ………タカ…………カ…
ん?なにか音が聞こえる。
私はちょっとずつ奥に進む。
カタカ……タカタカタ……カタカタカタカタカタ!
暗闇の中からそれは飛び出てきた。
それは一言でいうならデッサン人形。それの人間大サイズ。
それが私に向かって飛びかかってきた。
「ひゃー!」
逃げる準備をしていたのがよかった。飛びかかってきたデッサン人形を紙一重で避けると、私は一目散にダンジョンの外へと走る。
後ろからカタカタと音を立てながらデッサン人形が追いかけてくる。速さはさっきのウルフより遅い。逃げ切れる。
私はダンジョンを出てそのまま木陰に身を潜めた。
しばらく身を潜めてダンジョンの入り口を観察するが、さきほどのデッサン人形が出てくる様子はない。
ダンジョンの外には出られないのかな?
とりあえず一息つく。
さて、どうしたものかなぁ。
思わず逃げちゃったけど、さっきのどのくらい強いのかな。
見た目デッサン人形だし、意外と強くない、とか?
アニメの主人公が入り口の雑魚的にやられるとかないもんね。
よし、もう一回行ってみよう。今度は戦って、倒す。できなくても最低鑑定くらいはしてみよう。
私はまたダンジョンの入り口前まで移動すると、今度は弓に矢をつがえながら洞窟へと入っていく。
入ってからほどなく、おそらく先ほどみたデッサン人形が見えた。
距離は5mほど。焦らない。焦らなければ弓で狙える距離だ。
私は焦らず、急いで、正確に矢を放つ。それはデッサン人形の胸のあたりに命中する。
しかしそれは刺さるどころか、傷もつけられずに跳ね返された。
矢に気付き、私に気付いたデッサン人形はまたしても私へと飛びかかってきた。
「ひゃー!」
一目散に逃げた。
逃げながらも、簡易鑑定をするのを忘れない。
傀儡遣いの木偶人形
ダンジョンから飛び出した私はふたたび一息つく。
私の攻撃はまったく歯が立たなかった。それどころか鑑定してもろくにわからなかった。
名前しかわからい。HPはわからないだろうとは思ったけど、種族すらわかならいとは。
しかしこれ本格的にムリゲーでは?
やっぱりアニメ的ご都合展開は無理があるよね。
ちょっとがっかり。でもここ見つけただけでもすごいことだよね。
私は早々にソロでのクリアを諦める。
仕方ない、B案に移行しよう!
『あの~ハルキさん、いま大丈夫ですか?』
フレンドリストでハルキさんがログインしていたのは分かっていたので、私はパーティ会話でハルキさんに話しかける。
B案とはそう、『助けてハルキさん作戦』だ!
『大丈夫だよー。いま西の森かな?また一緒にいこうか?』
『一緒に来てもらいたいのはそうなんですけど、そうじゃなくて、ちょっとみてもらいたいんですけど』
鑑定した結果はスクリーンショットのような形で残っているので、私はさっき鑑定したダンジョンの入り口と木偶人形の鑑定結果をハルキさんに送信した。
『これなんですけど、ハルキさん何か知ってますか?』
『え?これ…え?ちょっと待って。これって西の森じゃないの?』
『西の森なんです。ウルフに追われてきたところだから詳しい場所はちょっとわかんないんですけど、崖の下のところで枯れた大木があるところなんですけど』
『あのあたりか…でもダンジョンなんて聞いたことがない…それにエクストラ』
『そうなんです。それに敵もすごい強くて、私じゃ歯が立ちませんでした』
私の言葉にハルキさんは押し黙って、何か考えているようだった。
『あのさ…プラムさん。本っ当に勝手なことを言うんだけど、そのダンジョン、行ってみてもいいかな?』
『もちろんです!私じゃ絶対無理なんで。でも超レアダンジョンだっていうから、強い人たちに行ってもらえればと思って。だからハルキさんのフレンドとか、強い人連れてきてもらってクリアしちゃってください!』
そしてあわよくばおこぼれをください。
『いや、その…できればプラムさんと行きたいんだ。いいかな?』
『えっ!私とですか?私じゃ足手まといにしかなりませんよ』
ハルキさんが真剣な声で訴えてくる。
私としてはハルキさんに行ってもらえれば誰と行こうが別に構わないと思っている。
でも本当にいいのかなぁ。あ、そういえばハルキさん普段はソロだって言ってたような…もしかしてフレンド少ない、とか?まさか。
『プラムさんがいいんだ』
きゅーん!はい!わかりました!いきましょう!
程なくして、ハルキさんは私が待つダンジョン前にやってきた。
「わがまま言ってごめんね。どうしても、ちょっと、ね」
「いえいえいいんです。興味はもちろんあるんで!でも本当に足手まといにしかなりませんよ?何かお手伝いできることがあればしますけど。スキルポイントとか使ってないんで何か取ったほうがいいですか?」
ハルキさんを待つ間に、私のレベルはちょうど10になった。
Lv.10となった私のステータスはこうなっている。
プラム
種族:エルフ Lv.10
HP:65(+5) MP:145(+20) SP:105(+15)
STR(筋力):10(+4)
INT(知力):23(+7)
AGI(敏捷):15(+3)
VIT(耐久):7(+2)
TEC(器用):18(+5)
LUK(幸運):12(+2)
CRS(魅力):14(+1)
スキル
精霊魔法・風Lv.9、弓術Lv.8、木工Lv.1、探知Lv.4、錬金術Lv.1、疾走Lv.1、悪路適応Lv.1
スキルポイント18
魔法と弓が多いから、INTとTECの伸びがいい。エルフ補正もあるのかな。
STRが上がってるのはお察し。AGIはさっきのレベルアップで2も上がった。きっとさっきウルフから逃げたのが原因だろう。あとはまぁそれなりか。魅力ってどうしたらあがるんでしょうか誰か教えて。
「いや、そこまでしてもらうのは…いや、でもそのほうが死ににくくはなるか…」
「大丈夫ですよ!なんでも言ってください!」
スキルの取得に口を出すなんて思いっきりマナー違反なので、後ろめたいようなので、私の方から積極的に提案することにする。
「ちょっとでも弓が当たるように弓術上げたほうがいいですか?あ、さっき疾走っての取れたんです。逃げられるようにこれあげますか?」
「あー、うん。そうだね。わかった!それじゃあ…おっと、その前にダンジョン偵察してくるね」
言うや早いやハルキさんはダンジョンの中に入っていった。
数分の後、ハルキさんは無傷で帰ってくる。
「おまたせ。ダンジョンの偵察してきたよ。敵はあの木偶人形だけっぽいかな。そこまで強くはないけど、ちょっと奥に行ったら5体に囲まれたから数は多そうだね。これが木偶人形の鑑定結果」
そういってハルキさん鑑定した結果を見せてくれる。
傀儡遣いの木偶人形
種族:人形 Lv.38
HP:870
有効:火
HPだけじゃなく、弱点まで見えるのかぁ。やっぱりハルキさん相当レベル高い?
それにしてもLv.38の敵じゃ私は本当に役に立たないなぁ。
「作戦…ってほどじゃないけど、二人しかいないからね、最低限の敵だけ倒して突破を最優先。最奥にボス部屋があるはずだから、とにかくそこを目指そう。」
二人しかいないし、それしかないよね。
その作戦を基に、ハルキさんの指示に従いスキルを取得していく。
スキルポイントを7消費して、精霊魔法・風をLv.16まで上げる。
そこまで上げてると使えるようになるのが『エアロムーブ』。風を纏うことで移動速度が上昇する魔法。今回の作戦には必須だろう。
ちなみにそれまでに、Lv.4で回復魔法の『エアロヒール』、Lv.7で範囲弘魔法の『エアバースト』、Lv.10で前方に風属性の壁を作る『エアロスクリーン』、Lv.13でノックバック効果のある『エアシュート』も覚えた。
残ったスキルポイントを2ポイント消費し『投擲』を取得し、残りのポイントを使ってLv.7まで上げる。投擲はレベルによって投げられるものが増えていき、Lv.1だと石や玉などだけ、Lv.4で短刀などの投擲武器が投げられる。Lv.7まで上げるればポーションを投げられるようになる。
残ったポイントでさっき覚えた疾走をLv.4まで上げて完了だ。
「MPは出来るだけバフに使いたいから、回復は出来るだけポーションでお願い。被弾はできるだけ避けるけど、危なそうに見えたらポーション投げてもらえると助かるかな」
「了解です」
「あとバフは、『エアロムーブ』と『エアロスクリーン』で。エアロスクリーンには風抵抗を下げる効果もあるからね。魔法は重ね掛け出来るからお互いに掛けていこう」
「わかりました」
「人形系とか無機物の相手だと隠蔽関係のスキルは効かないから、狙われるとちょっとやっかいなんだ。できるだけヘイトは取るけど、やばそうならとにかく逃げてね」
「がんばります!」
「それと、はい、これ」
そういうとハルキさんはインベントリからアイテムを取り出して、私に渡してきた。
「お古で悪いんだけど、これ使ってもらえる?」
渡されたのは薄緑色のローブと灰色の靴。
浅緑のオリーブローブ+6
浅緑色の布で作られた非常に軽いローブ。風避けの効果がある。
防御+46
効果:移動時の抵抗軽減
灰色狼のショートブーツ+5
灰色狼の革で作られたショートブーツ。
防御+23
効果:移動速度+5%
「それは上げるからそのまま装備してていいよ。あと武器は…」
「え!そんな!ちゃんと終わったらお返ししますから…」
「いいのいいの。もう使ってない装備だしね。わがままに付き合ってもらってるし。それと武器はこれでいいかな」
陽明樹のクロスボウ+8
陽明樹の若木で作られたクロスボウ。軽く取り回しがしやすい。
攻撃+20
「このクロスボウなら移動しながらでも使えると思うよ。でも軽いだけあって威力はないから牽制くらいしかできないけどね」
それでも今のエルフの弓より強いですが。
このクロスボウも今の矢と同じものが使えるらしい。そこはゲーム的な処理なのかな。
クロスボウを持ってみる。軽いので片手で持つこともできる。狙って撃つなら両手でしっかり押さえないといけないけど、向かってくるのに撃つくらいなら走りながらでも片手でできそうだ。
「あとはポーション関係とかね」
ぞろぞろといろいろ渡してくれる。
回復ポーションに、MP用とSP用のポーション。あとは状態異常を回復できるポーションとかだ。投擲を取ったので、これを投げつければハルキさんの回復が出来るらしい。
「これはダンジョン入る前に飲むやつね」
移動速度を上げる薬だそうだ。あまり効果時間は長くないようなので、直前で飲むのがいいらしい。
「とりあえずこんな感じかな。プラムさん、大丈夫?」
「私は、大丈夫です」
こくんと頷く。ダンジョンを見つけてからいろいろあって処理が追い付いていない気もするが、こういうときは成り行きに任せるのが一番だ。
「ほんとわがままに付き合ってもらってごめん。たぶんクリアは難しいし、デスペナ受けることになると…」
「ハルキさん!いいんです。どっちにしろ私じゃクリアなんて無理ですし。ハルキさんならワンチャンあるかもしれないじゃないですか!それにゲームですよ。楽しみましょう!」
私はハルキさんと一緒にいるだけで楽しいのです。
「うん、ありがとう。よし!敵は任せて。道は確保するから、とにかく突破優先。ボス部屋の前にはセーフティエリアがあるはずだからそこまでノンストップで行くよ!」
「わかりました!」
「よし、行こう!」