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6.背中を追いかけて

 ダンジョン前でお互いにバフを掛け合い、ハルキさんから上級魔法の移動バフをさらに掛けてもらい、移動速度の上がる薬を飲む。

 よーく見れば周りに薄い緑色の膜が張ってあるように見える。

 さっきよりもずっと体が軽い。ちょっと地面を踏み込むとスーッと滑るように体が進んだ。

「おっとっと」

 急な体の動き方の変化に、思わず転びそうになる。しかしそれも数度繰り返すとすぐに慣れることができた。

 ハルキさんは左手に弓を持ち、腰には剣と矢を携え、準備は万端だ。

「大丈夫です。もう行けます」

 私は軽くジャンプして、大丈夫とアピールする。

 ハルキさんは、真剣な眼差しで軽く頷くとダンジョンに振りかえる。

 ハルキさんの緊張感が増した気がした。

「行こう!」


 ダンジョンの中は相変わらず少しひんやりとしていた。

 ハルキさんが先行し、私が後をついていく。

 今までの私では考えられないほど速いスピードでどんどんダンジョンの奥へと進んでいく。


 ハルキさんは前方に敵を見つけると弓を放ち、勢いそのまま剣を抜いてすれ違いざまに切り払っていく。ほとんど移動速度が落ちることなく、私はただ走っているだけなのについてくのに必死だ。

 薄暗いダンジョンの中、私の視界に入るよりも早く、おそらく探知か何かで敵を見つけてどんどんと道を切り開いてくれる。

 私にとってはとても強い敵だけど、ハルキさんにとってはそうでもないようで、大体矢を1、2本撃って、そのあと魔法か剣で止めをさしていた。

 そういえばハルキさんは魔法の杖は使っておらず、左手のグローブがそのまま魔法の杖の代わりのようだった。

 ハルキさんは弓と剣と魔法を器用に使い分けながら、時折私の方をちらりと見てついてきてるのを確認する。

 周りの敵を倒しながら、私に気を掛けて本当にすごい。

 私だって本当は、「右後方から敵が!」とか「上から来ます!しゃがんでください!」とかかっこよくサポートしたいが、出てくるのは「うわぁああ!」とか「危ない!」とか役に立たない叫び声だけである。かっこわるいなぁ。


 ダンジョンの奥へとさらに進んでいく。

 どうしたらあの古木の中にこんな広い空間があるのかと思ってしまうが、まだ終わりは見えない。

 一本道なのでルート選択の必要がないのはいいが、逃げ道もないのでとにかく突き進むしかない。

 出てくる木偶人形が増えてきた。

 入り口のあたりはまだ5体くらいだったが、今は10体を超える人形がハルキさんに襲い掛かってきている。

 さらに道幅もどんどんと狭くなっているので、密度はさらに濃くなっている。

 ハルキさんも最初より余裕がなくなっているようで、倒しきれずに残る木偶人形の数が増えてきた。

 それでも私が通る道はぎりぎり作ってくれている。

 敵の数が増え、ハルキさんも少しずつ被弾するようになっていた。若干進行ペースが遅くなったこともあり、私は走るだけでなく時折ハルキさんにポーションを投げるようになった。

 そうすると大体私は周囲の警戒が疎かになり、木偶人形が襲い掛かってきているのに気づかなくなる。

 するとハルキさんが後ろに目でもあるかのように、その襲い掛かってきた木偶人形に矢を放ち倒してくれる。

 本当に足を引っ張ってばっかりだなぁ私!


 さらに先へと進めば、もう木偶人形の壁といっていいほどの数に増えていった。

「くっ…」

 さすがにハルキさんも厳しい表情をしている。

 後ろからもさっき倒した木偶人形の群れの残りが、カタカタと音を立てながら迫ってきているのがわかる。

「ここで、使うか…ちょっと耳を塞いだほうがいいかも」

 インベントリから、今まで使っていた矢とは違うものを取り出す。

 長さは同じだが、先端が榴弾状になっている矢だった。

 ハルキさんはそれを壁と化している木偶人形の群れへと撃ち放った。

 私はとっさに耳を塞ぎ、木偶人形の群れに吸い込まれていった矢を結末を見届ける。


 一瞬の閃光から爆炎が通路全体を覆うように上がる。

 塞いだ耳には、それでもつんざくような轟音。

 あまりに威力と結果に私はあっけにとられてしまうが、ハルキさんはそこで動きを止めなかった。

 いまだ爆炎と煙がもうもうと広がるところに、風魔法を放ち煙を払う。

 そこにはぽっかりと開いた穴と、黒焦げになった木偶人形。ぷすぷすと燃えながらもいまだ動きを止めない木偶人形もまばらにいた。

 ハルキさんは熱気漂うその空間に向かって走る。

 私も一瞬遅れてその背中を追う。

 通り抜ける際に、黒焦げになった木偶人形を見えたが、三割程度は跡形も残らず木っ端みじんになっているようだった。


「さっきの、すごい、ですね!」

 私は走りながら、ハルキさんに話しかける。

 ハルキさんは前を向いて警戒を強めたまま、

「威力は強いんだけど、数に限りがあるんだ。本当はボス戦まで温存しときたかったんだけ、どっ!」

 走って話しながらも、進行方向上にいる木偶人形に矢を射るのを忘れない。

 私は邪魔しちゃ悪いと、黙ってハルキさんの背を追いかけた。


「見えた!あそこだ!」

 私にはまだ見えないが、ハルキさんがそういうってことはセーフティエリアが見えたのだろう。

 襲い掛かってくる木偶人形を風魔法で薙ぎ払い、セーフティエリアまでの道を確保する。

 後ろからはまだ木偶人形が大挙して押し寄せているので安心はできない。

 最後の気力を振り絞り、私たちは全力でセーフティエリアに滑り込んだ


「はぁ、はぁ、はぁ…ふぅ、これで安全なはずだよ」

「は、はは…それは、よかったです」

 ゲームの中だから全力疾走したってそんなに疲れることはないはずなのに、緊張感からか胸が苦しくなるくらい脈打っている。おもわず膝をついてしまう。

 セーフティエリアは、ボス部屋とみられる扉の前にあった。薄い光のカーテンで仕切られたスペースで10人くらいまでならなんとか入れそうだ。

 私たちがこのセーフティエリアに入ったことで、木偶人形たちの追跡がやんだ。さっきまではカタカタとうるさく追いかけてきていたのが、糸が切れたようにその場でだらんと棒立ちとなった。

 結局さっきの榴弾矢はあの後3発使った。とんでもない威力だったけどそれでもぎりぎりだった気がする。

「とりあえず回復と、作戦会議をしよう」

「そう、ですね」

 私たちはポーションを飲み、減っていたHPやMPを全快にする。

「正直ここまでこれるとは思ってなかった。途中かなり危なかったからね」

「そうですね。あの榴弾矢がなかったら絶対無理でした」

「プラムさんのサポートもあったからだよ。ポーション助かった」

 私へのフォローも忘れないハルキさんはやっぱり優しい。

「それでこの先なんだけど、プラムさんにもこれ持っててほしいんだ」

 そういってさっきハルキさんが使っていた榴弾矢を3本私に渡してくる。

「え!私よりハルキさんが使ったほうがいいんじゃ…」

「どんな敵かわからないしね。チャンスがあったら狙ってほしいんだ。爆破ダメージは固定だからプラムさんでも大丈夫だよ」

 榴弾矢は残り8本しかないらしい。そのうちの3本を私になんて、本当にいいんだろうか。


「ボスはどんなのでしょうか」

「どうかな、傀儡遣いの工房っていうくらいだからその傀儡遣いってのがいるのかもね。大体のパターンだと強化版の木偶人形か、巨大化した木偶人形が出てくる感じかな」

 どちらにしても道中より強い木偶人形が現れた時点で私にできることはほとんどない。

「プラムさんは後方から支援をお願い。余裕があればさっきの矢で攻撃を。大抵この手のボスは取り巻きは強いけど、本体はそんなに強くないってのが相場だから、きっと大丈夫だよ」

 笑ってそういうけど、多分ちょっと嘘だろう。

 超レアダンジョンであるエクストラダンジョンがそんな単純だとは思えないし、簡単だとも思えない。今までだって大分苦労したけど、きっとこれからのボス戦はもっと大変だろう。

 ハルキさん嘘がちょっと下手かな。亮ちゃんみたい。

 おっと、こんな時に元カレのことを思い出している場合じゃない。

 私は再び気を引き締める。


「よしっ!行こう!」

 私たちは覚悟を決め、その扉を開いて中に入った。

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