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156.ジェネラリスト

「む~~~げ~~~ん~~~~~っ!!!???」


 クチナシさんから告げられた悪魔族の敗北、そして夢現のアイテム増殖(DUPE)行為。

 その知らせに私たちが理解が追い付かずあたふたとしている間に、夢現はこの控室から姿を消していた。


「やっぱり、悪い予感は当たるもんね」


 さっきまで夢現が座っていた丸椅子に呆れた視線を送りながら、ため息交じりにクレスが呟く。


「クレス、ごめんね。やっぱりあんなのに頼るんじゃなかった」

「ま、しょうがないでしょ。

 チートなんて悪魔族側の反則で戦争自体が強制終了させられても文句が言えなかったところを、あいつの失格だけで済ませてくれた運営の恩情に感謝しなきゃね。

 それよりも」

「うん?」


 さっきまで呆れた表情をしていたクレスの顔が、きりっと引きしまる。


「次の試合、大丈夫?アヤナもまだ戻ってないみたいだけど」

「うん、まぁ…大丈夫、ではないかもしれないけど、なんとかするよ」


 アヤナはまだ戻っていない。

 やはりこの調子では試合開始には間に合いそうにもない。

 ランカは一人でも大丈夫って言うけど、夢現によってこっちの情報が向こうにリークされている心配がある以上、どんな対策がされているかはわからない。


「まぁ後はそれこそアヤナの準備待ちってところだね。私とランカだけなら今すぐにでも行けるよ。逆に試合開始まで微妙に時間があってそわそわしてるくらい」

「あ、そうなんだ?そうしたら、さっきの続き、聞いてもいいかな?」

「そうですね、さっきは途中になっちゃったんで」


 夢現が使ったスキルについて、やはり先輩は気になるようで、時間があるならということで続きを説明することにした。


「えっと、即席神聖樹ってところまでは説明しましたよね?で、あれを生育するには信仰心が必要ってことも」

「そうだね、その信仰心をどこから持ってくるかって話だったけど」

「それを説明するにはまず、私と夢現が就いているジェネラリストについて説明するところから始めますね」

「ジェネラリスト?」


 先輩が小首を傾げながら聞き返す。

 あぁ、そんなあざとい表情もとっても素敵です!


「えぇ、ジェネラリストは複数の生産スキルを持った上で、独自性の高いアイテムを作ったりすると就くことが出来るようになる、新職業らしいです」

「へぇ、そんなのがあったんだ」

「私もたまたま成れたんですけどね。

 で、このジェネラリストなんですけど、基本的には汎用生産職って感じで、生産スキルの全体的な底上げが出来るんです」

「なるほどね。で、基本的には、と」

「えぇ、ジェネラリストには一つだけ、固有の生産スキルがあります」


 私はあえて、そこで一拍の間を開ける。

 先輩が視線で先を促すので、それを頷いて返してから。


価値創造(Branding)。ジェネラリストは物を作るんじゃなく、価値を創るんです」


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「ブランディングねぇ」


 先輩もものづくりに携わるものとして、ブランディングというものについてはよく理解しているはずだ。

 製造物や行為に付加価値を付けて、そのもの以上の価値とすること、それがブランディング。

 分かりやすい所でいえば、『あの美人女優が使っている化粧品!』などと銘打てばそこに信頼性が付与され価値が上がったりする訳だ。

 企業なんかは色々な方法でブランディングを行い、自社の製品に対する価値を高めようと鋭意努力している。


 しかし、このゲームの中でジェネラリストが行う価値創造(Branding)はまたそれとはちょっと違う。


「価値を創る、なんて大層なこと言っちゃいましたが、簡単に言えば製作物の効果とかを上げることが出来るんです。

 ただ、それは普通に作ったものじゃダメで、複数の生産スキルを使った、複合技術(コンポジッド)じゃないといけないんです」

「つまり、ジェネラリストは複合技術(コンポジッド)が出来ること前提って訳だね?」

「そうなんです。尚且つ、製作物については過去に作られたことがない新作じゃないといけないとか、細かい縛りはあるんですけど。

 ただその上で条件をクリアすれば、オリジナル製作物として登録できるんようになるんです」

「なるほどね、それで価値創造(Branding):夢現って訳か」


 得心いったという風に、大きく頷く先輩。

 私のつたない説明でもちゃんと理解してくれるあたり、先輩は頭の回転が速いなぁ。


「で、この価値創造(Branding)なんですけど、これを使うと効果が上がったり、普通じゃ付けられないようなスキルもつけることができるんです」

「それがさっきの神聖樹の謎ってこと?」

「そうなんです。本っ当にあの男は考えることが悪辣すぎて…。

 先輩は、錬金のコンバートってスキル知ってますか?」

「属性石の属性変更とかに使うスキルだよね?」

「そうです。付与されている属性とかを、等価交換で変更するスキルなんですけど、あいつはそれをあの神聖樹に使ったんです」


 昨日の夜の光景が、思い出される。

 あいつのやりきったという達成感に満ちた声と、その結果によって起こった悲劇を。



「あいつは神聖樹の生育に必要な栄養素を、信仰心から生命力に変えたんです」



 一瞬、ぽかんとした先輩は、なんとか言葉を紡ぎ出す。

「えっと…ごめん、ちょっと話が読めないかな?」

「多分ですけど、掲示板が大変なことになっていると思います」


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 336.名無しの観戦者

 ちょ、いきなりHP半分になったんだけど!?


 337.名無しの観戦者

 半分で済んでりゃいいほうだ!

 こっちはいきなり死に戻ったぞ、どうなってんだ!


 338.名無しの観戦者

 はは…おかげで試合終了見損なったんだけど…

 高い金払ってS席取ったってのに…


 339.名無しの観戦者

 なんか前の方は大変だったみたいだな?

 最後列の俺、高みの見物

 いや、二割ほど持ってかれたけどな


 340.名無しの観戦者

 いや、つーかなにあれ?

 いきなり何が起こったの?


 341.名無しの観戦者

 え?さっきのカタバミはチートで、こっちはチートじゃないの?

 どゆこと?


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


「───」


 先輩が、掲示板を覗いて絶句していた。

 確かに、中継画面をよく見れば、神聖樹に近い最前列の方から真ん中手前くらいに掛けて、随分と空席が目立つようになっている。

 何故ならそれは。


「あの神聖樹は、周囲にあるものから無作為に無差別に生命力を吸収して、自分の栄養として成長するんです。

 夢現は自分だけは対象にならないように調整したらしいですけど、それ以外の生き物にとっては、もはや害悪でしかないんです」


 昨日の夜、その効果を私に見せるために使用した時は、わざわざ街から離れて人気のいない平野で使ったにもかかわらず、周囲のモンスターや草花を吸収し、一気に数メートルまで成長した。

 そしてその栄養の一部に、もちろん私も含まれた訳だが。


 わざわざ高い即時復活アイテムまで使って私を起こして、「どうだすごいだろう?」とドヤってきた夢現には撃ち込んでおいた。避けられたけど。


「つまり夢現の価値創造(Branding)、【晴ル弥(ハレルヤ)】は生命力を栄養とする神聖樹を作り出すスキルなんです」


 未だ闘技場の真ん中で青々と茂っている神聖樹を見ながら、私は言った。


「じゃあ、あの神聖樹は近くに生命力がある限り、成長していくってこと?」

「いえ、流石にそこまではいかないようです。

 付与したコンバートにも限界があるらしく、ある程度のところまで成長するか、時間が経つと効果が元に戻るそうで、やっぱり信仰心がないと育たなくなるようです。それでもあそこまで大きく育つとは、私も思いもよらなかったですけど」


 夢現はどこまで想定していたのか知らないが、恐らく個人が出した被害としては過去最大のものとなったのは違いない。




 中継画面も、観客席も、掲示板も、落ち着くにはまだまだ時間が掛かりそうだった。

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