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155.第三試合・余

「む~~~げ~~~ん~~~~~っ!!!」


 第三試合が終わり、夢現が私たちが待つ控室へと戻ってきた。

 その顔にはもうずた袋はなく、もはや隠そうともせず堂々と、私と同じ顔を晒していた。

 そしてその表情は私が絶対にしないような、なんとも厭らしい笑みを浮かべていて。


「うわあ、なんかキモい」

「同じ顔でも表情でこんなに印象変わるんだね」


 クレスと先輩が口々にその感想を口にするが、夢現は意に介した様子がない。

 私は眉尻が上がるのを抑えることもできずに、ぎりぎりと奥歯を噛み締める。

 真っ先に取っ組み掛からなかったところは評価していただきたい!


「いろいろ!言いたいことは!山っ!程っ!ある!………けどっ!!!」


 言葉を一つ一つ区切るようにくびり出し、精いっぱい我慢して、でもまずこれだけは言っておかないといけない。


「勝ってくれて、あり……う」

「うぴっ」

「なっ───っ!?」


 夢現が人の口から聞いたことがないような声を上げ、溶けるようにその場に崩れ落ちた。

 その様子にびっくりして、ドン引きして、そしてちょっとだけ、ほんのちょっとだけ心配したけど、夢現の表情を見てやっぱり思い直した。


 その表情は、今まで見たどんな表情より緩み切っていた。


「ちょっ!?その顔、私と同じなんだからそんなたるんだ顔しないでよ!?

 ってか、そう!そうだよ!その顔!ちゃんと説明してもらうからね!」


 ぬぴぴ、と未だに奇声を発して緩んだ顔を晒している夢幻の首根っこをむんずと捕まえて、無理矢理起き上がらせる。

 そのままだとやっぱり膝から崩れ落ちそうだったので、近くのソファに放り投げて座らせた。


「いやぁ、参ったな?あー、ちょっとやべえな?落ち着かねぇとな?

 はー、よっしゃ、いいぜ?この顔な?まぁバレちまったらしょうがねぇよなぁ?

 っと、その前に」


 なんとかその緩み切っただらしない顔を、さっきまでの厭らしい笑みの顔まで戻したところで、夢現が右手を私に差し出してきた。


「とりあえず、そいつ、返してもらってよい?」

「ん?あぁ、これね。約束だからね、はい」


 私は預かっていた、豊穣神の恵み(グレースオブフレイヤ)を夢現に手渡す。

 この試合に勝ったら返すって約束だったので、もちろん約束通り返却するまでだ。

 夢現はちょっと意外そうに、それを受け取ると一瞥してインベントリに仕舞った。


「何?」

「いや、随分素直に返してくれたなぁってな?」

「あんたじゃないんだから、人から奪うようなことはしないだけ。

 で、その顔について弁明は?一応聞くだけ聞いてあげる」

「興味本位」


 プラム(夢現)の髪の毛が、数本はらはらと落ちる。

 私が反射的に左手のボウガンから矢を射出したからだけど。

 …自分の顔じゃなかったら、完全に当ててた自信がある。


「ひゅう、その速さと正確さがあれば、対人でも食っていけるぜ?」

「そんなことやらないし、したくもない。

 で、興味本位ってことは、直すつもりは?」

「もちろんねぇよ?」

「…これ運営案件かな?同じ顔に整形してくるストーカーじみた奴がいるっていったら、ハラスメント対応してくれる…?」

「おいおいおい、この顔作るのにどれだけ時間掛ったと思ってんだ?そうそう簡単に変えるとか言ってくれんなよなぁ?」

「うるさい、変態に人権なし!

 うーん、これ課金案件なのかぁ…そしたら対応してくれないかなぁ…でもストーカー被害にあってるって言ったら大丈夫かな?返金からのロールバックって対応もワンチャンありえるかも…」


 アップデートで追加されたキャラリメイキング機能の説明欄を確認しながら独り言ちる。

 横で夢現がなにやら言っているが気にしない。変態は反応するから付け上がるのだ。無視するのが一番。


『えーっと、この後は勝者の夢現選手にインタビューの予定ですが…まだ運営さんの方の準備が済んでいないようですね…あぁ、なんかすごいバタバタしてる感じがします。

 運営さんの方もまさか悪魔族側の三連勝で終わるとは思ってなかったってことでしょうか…あぁああっ!すいません!別に天使族側を悪く言いたかった訳ではなく!すいません、いつも一言多くって…』


 点けっぱなしになっていた中継映像は、あたふたと慌てふためくクチナシさんが映し出されていた。

 まぁ、そうだよね。まさかの三連勝(3タテ)だもん。そりゃ準備とかまとめとか間に合わないよねぇ。

 とりあえずこの後の展開については、運営とクレスに任せればいいか。

 私は私の優先事項を片付けるまでだ。


「よしっ!とりあえず運営に要望メール送っといたから、追って沙汰が来るでしょ」

「ひっでぇなぁ?人のこと罪人みたいないいかたしてよぉ?」

「罪人でしょ。肖像権の侵害」

「純愛って言って欲しいなあ?───おおっと、っとっとぉ!?偏差射撃なんて器用なことも出来るようになったんだなあ?」


 またもふざけたことを言い出す夢現に容赦なく射撃を放つ。

 さっき避けられたので今度は偏差を入れてみたが、それもきっちり避けられて余計に癪だ。

 ジトーっと恨めしく睨みつけていると、その様子を伺っていた先輩がやってきた。


「おつかれ、夢現。まずは、おめでとう。

 で、最後の()()について、話聞いてもいい?」

「あぁ、いいぜ?」

「すとーっぷっ!夢現は先輩と話すの禁止」

「おうおうおう、なんだよなんだよ?俺のこと独占したいってかあ?」

「違うよ馬鹿。先輩のキラキラオーラが、あんたの所為で穢れるのが嫌なの。

 という訳で先輩、私から説明しますね」

「そう?ありがとう、プラムさん」


 あぁ!この爽やか清涼オーラ!どっかの誰かとは違って、近くにいるだけで癒されるーっ!

 とりあえず私は落ち着いて説明をするために、先輩を連れて近くのソファーへと横並びに座った。

 何故か夢現もついてきて、私たちの目の前に丸椅子を持ってきて座ってきたが、無視。


 とりあえず私は昨日の夜、夢現から聞かされ、そして見せられた光景を思い出しながら話し始める。


「えっと、どこから話したらいいのかな…」

「まず確認なんだけど、あれはもしかして、神聖樹なの?」

「そうみたいですよ。即席ですけど」


 夢現も頷いているので間違いないらしい。


 神聖樹。

 この世界に二本だけある、神の力が宿る樹。

 その一本は聖都シャルドネートにあり、もう一本は天使族の王都レイナルにある。

 そのどちらも夢現が作り出した人造神聖樹よりも大きく、その高さは数百メートルではきかないという。

 ただ、そのどちらも遥か昔から、長い年月を経てこの大きさまで成長したと言われているので、さっきみたいに急成長して聳え立ったという訳ではないようだ。


「神聖樹は信仰の力を養分にして成長していくって話だし、長い期間少しずつ信仰心を集めた結果が、あの大樹ってことだよね。

 だとすると夢現はそれを作ったってこと?ちょっと俄かには信じられないけど」

「まぁ、そうですよね」


 さっきシューくんにも聞いたんだけど、神聖樹を人工的に育ててみようって試みはあったらしい。しかしさっきも先輩が言ったように神聖樹は土からの栄養だけでは育たず、神聖樹に対する信仰心が必要になってくるので、ほとんど成長することなく失敗してきたそうだ。

 なんらかの方法で、その神聖樹に対する信仰を集めることが出来れば、生育の可能性はあるってところで検証は終了を余儀なくされたそうだ。


「なのでこいつは、ある方法で信仰心を代替するってことを考えたらしいんです。

 で、その説明をするにはまずジェネ───」


『え?えぇ!?ええええぇぇぇぇっぇえええええぇぇーーーーーーー!!!!』


 と、私が本格的な説明へと入ろうとしたところで、中継画面からクチナシさんの絶叫が響いてきた。

 控室の壁にはみんなが一緒に中継を見られるようにと、大きな画面が備え付けられていたが、その声に思わず控室にいたみんながそちらへと注目する。


 画面の向こうではなにやら運営らしき人から、紙を渡されたクチナシさんが、わなわなと体を震わせていた。

 そのただならぬ様子に、隣にいたシューくんも怪訝な顔をして心配そうだ。

 そしてそれを見たメアリは、またクチナシさんに剣呑な視線を向ける。

 しかし今度のクチナシさんはそれにも気付かないほど狼狽していた。


『え?ええ?え?ど、どういうことですか?

 でゅーぷ?デュープ?アイテム増殖(DUPE)って一体どういうことですかあ!?』


 運営から渡された紙をぐしゃっと潰して、叫びながら立ち上がるクチナシさん。

 え?デュープ?デュープってあれだよね?アイテムを無限増殖させたりするっていうチート。なんで急にそんな話が?

 ちらっと、夢現を見れば私から視線を逸らし天井を見上げながら口笛を吹いていた。


『あ、す、すいません!ちょっと取り乱してしまいました…ええっと、そう、ですね…視聴者の皆さんはなんのことやらですよね…えっと、とりあえず、今運営さんから渡されたのを読みますね』


 ごくり、とクチナシさんが唾を飲みこむ音が聞こえた気がした。それほどの緊張感だった。


『本第三試合に置いて、悪魔族所属夢現のDUPE行為を確認した。

 発生時刻は試合開始から二十三分後、夢現の召喚したカタバミシューターが種子を射出、それが闘技場観客席の前面の壁へと弾着。本来はそこから一株のカタバミシューターが現れるはずが、それは闘技場を囲う壁全体へと波及、総数は六十を数えた』


 理解が追い付かない、しかしクチナシさんからの説明はまだ続いた。


『本件についての運営としての見解は以下の通り。

 今回用意された闘技場観客席は、一区画が扇形状に作られており、それを六十区画分組み合わされて円形を作っている。しかし弊社の技術力不足により、元となる一区画を複製するという形を取って作成された。

 夢現は何らかの方法によりそれを看破、そして複製という手法で作られたことで内在した座標バグを使用し、カタバミシューターの増殖を行ったと考えられる』


 え、なに?コピペで観客席を作ったら、バグが残って夢現のカタバミシューターもコピペされちゃったってこと?


『偶然の可能性も否定できなかったが、複製するためには元データとなる区画へと撃ち込まなければならなかったこと、また座標バグ自体が壁面内にあり、今回はカタバミシューターの根がその座標を取得しなければ起こりえなかったことなどを踏まえて、今回の増殖行為についてはバグの不正利用、DUPE行為と認定した』


「ちょ、夢現!?一体ど───」


 意味が分からなくなり、夢現に説明を求めようとさっきまで座っていた丸椅子に視線を向けるが、もうそこには夢現の姿はなかった。


 その瞬間、全てを悟った。


『バグを内在してしまったことに対する運営的責任はもちろんある。運営としての道義的責任はもちろん取らせていただくとして。

 しかし今回のDUPE行為については悪質性があり、バグ利用チート行為を行った者を見逃すことはやはり出来ない。

 以上により運営から夢現についての処置を発表させていただく。

 本第三試合については悪魔族所属の夢現選手については失格、代わって勝者は天使族所属、アラハバキ選手とする。以上。


 ………と、と、という訳でええーーっ!第三試合勝者は、天使族、アラハバキ選手ーーーっ!!!』


 夢現は、逃げた。


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