154.第三試合・結
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「まぁ、そろそろ終わっとけな?」
今度こそ止めをさそうと、アラハバキを縛り付けるストリングスプランツに全力で締め上げるように命令を出す。
カタバミシューターでハチの巣にするかとも考えたが、万が一それで拘束が外れて逃げられたら事だ。
地味な結果で、見てる側には悪いがな?
「ちぃっ!仕方ねぇ…ふんっ!」
しかしアラハバキも、ただ黙ってやられるのを待っている訳ではなかった。
拘束された両腕を、最大限の力を持って振り回そうとする。
しかし拘束された両腕は、アラハバキの膂力を持っても簡単には外れない。
拘束が外れないまま、それでも尚動かそうと続ければ、結果はもちろん。
「っしゃあーっ!外れたな!?換装、展開!」
アラハバキの土偶の両腕は拘束と膂力に耐えられずに、砕け散った。
バラバラの欠片となった腕は肩口から外れ、縛り付けていた拘束も外れた。
そしてアラハバキの発した声に呼応するように、次の瞬間には新しい腕が装填される。
もちろん、拘束されていない自由な状態で。
「万物は等しく縛られる!その楔は幾倍にもなりて、何人も解き放たれることなし!
加重縛!」
アラハバキの詠唱により、その新しく換装された両腕が濃い藍色の光を発し、その呪文が唱え終わるころには拘束していたストリングスプランツはその動きを鈍くしていた。
それどころかその状態を保つことすら難しくなってきたのか、拘束を解き、地面に突っ伏すようにしだれかかる。
しかしそれでも尚、体勢を保てないようで、もはや地面にめり込むようにその身体を横たえた。
その隙を逃さず、するりと拘束から離れたアラハバキは、夢現から距離を取るようにバックステップ。
ただ、そこにはひまわりの花のような黄色く丸い花が、天を仰いで咲いていた。
「向日葵は太陽を仰ぐ、ひまわりの日光浴を邪魔しちゃいけねぇなあ?」
向日葵の真ん中の部分、筒状花から特大の黄色いレーザーが天に向けて発射された。
アラハバキがそのひまわりの上部に立ち、太陽を遮ったことで、邪魔な障害物を排除するように反射的に射出されるレーザー。
それがアラハバキに直撃する。
はずが。
「歪光!」
一瞬早くアラハバキのスキルが発動し、レーザーは藍色のレンズのようなものに屈折させられ、直撃は避けられた。
彼方へと飛んでいくひまわりレーザーの行く末までは確認できない。
その間にも、次の攻撃は迫っていたのだから。
「全方位からの攻撃は、どう避けるよ?」
いつの間にか闘技場を囲う観客席の最前列の壁全てにカタバミシューターが張り付くように咲き誇っていた。アラハバキは三百六十度展開されたカタバミシューターによって、集中砲火を浴びることとなった。
爆炎と共に、砂塵が舞い、煙幕が立ち、アラハバキの姿が確認できなくなった。
その光景に、やりすぎた、と若干の後悔を滲ませ、しかしこれで決着が付けば問題ないかと淡い期待を抱いていたが。
「あっぶねぇなあ、俺じゃなかったら死んでるところだぜ」
風によって煙幕が去ったそこには、無傷のアラハバキが立っていた。
周囲の地面にはカタバミシューターの種が穿たれた跡があったが、アラハバキには衝突の痕跡はない。
それどころか、足元には無傷のまま転がる、巨大なカタバミの種子が落ちていた。
「ちっと舐めすぎてたか?」
「俺もやっとエンジン掛かってきたところだ。今度はこっちから行かせてもらうぜ」
アラハバキが右手を天へと掲げる。
すると落ちていたカタバミの種子が宙に浮いた。それらはアラハバキの周囲へと展開すると、その弾頭を夢現へと向けた。
アラハバキが天へと上げた手を振り下ろす。
それに呼応するように、カタバミの種子が夢現へと襲い掛かった。
数十という数の種が、夢現のいた場所へと降り注ぎ、そして一瞬の間を開けて、夢現が避けると予想された場所へとさらに降り注いだ。
そのあまりの数、あまりの範囲に、さすがに避けきれずにいくつかが夢現の身体を襲った。
「っ───やってくれるじゃねぇの?」
「まだこんなもんじゃ終わんねぇよ」
その言葉通り、次の瞬間にはアラハバキは射出されたカタバミの種子と同じスピードに加速し夢現まで接近していた。
その距離一メートル。それは、アラハバキの距離。
「圧し掛かるは重圧!自然の摂理に屈服せよ!摂理の鉄槌!」
詠唱と共に、アラハバキの両腕に握られるように現れた藍色の巨大なハンマー。
それが横殴りに振りかぶられ、夢現の腹を完全に捉えた。
ぐおん、という重量物が風を切る音と、ぼぐう、という重量物が肉体にめり込む音が、闘技場に響く。
しかし、その音とは裏腹に、相当な勢いで殴りつけられた夢現の身体は、吹き飛ばされることなくその場に留まり続けた。
「この重力の檻から、そう簡単に逃げ出せると思うなよ」
見れば夢現の背中には、藍色に光るフェンスが出現していた。
そのフェンスが夢現の身体を吹き飛ばさないよう、押さえつけている。
ぐったいとした夢現は、その場で身動きが取れない。スタンの症状だ。
その隙を見逃すようなアラハバキではない。
再度その藍色の巨大ハンマーを振りかぶると、今度は夢現の顔に向かってそれを振りかぶった。
「拉げろ」
摂理の鉄槌が、夢現の顔を圧砕した。
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「負けたわね」
「負けたね」
「あんだけ大口叩いた上に裏切ったくせに負けるって」
クレスと先輩、そして私と、口々に落胆の声が漏れた。
あれほど勝ってくるとか言っておいて、しかも天使族側に情報をリークするなんてことまでしておいて、負けるって。
さすがに呆れてものも言えない。
ってか、この結果でここに戻ってくるとか、ありえる?いやいや、さすがの夢現もそんなプライドないこと出来ないよね。
天使族の方にも行けないだろうし、試合が終わったらそのまま雲隠れかな?
私的には顔も見たくないから、それでも構わないんだけど。
「まだ終わってないみたいだけど?」
「え?」
ランカの指摘に、中継画面をもう一度見直す。
すると、そこに映っていたのは。
「はあ?」
「あれ?」
「………え?」
その第三試合の光景を映しているはずのその画面がアップで映していたのは、オーバーオールに身を包んだ、プラムの顔だった。
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「ちっ、良くもやってくれたなあ、おい!?」
「おうおう、珍しくマジギレじゃねぇか。そんなにその顔晒したくなかったのか、あぁん?」
アラハバキの摂理の鉄槌が捕らえたのは、夢現が顔を隠すために被っていたずた袋だけだった。
寸での所で、ずた袋を身代わりに避けることが出来た夢幻は、重力の檻から逃げ出すように距離を取った。
しかし、その代償は、安くない。
「うるせえなぁ?せっかくこっそりやってたもんをよぉ!?」
そのずた袋の下に隠されていた素顔、それはまさしくプラムのそれと同じだった。
もちろんそれは偶然などではなく、夢現がそうなるようにリメイクしたから。
今回の大型アップデートのうちの一つ、課金によるキャラリメイキング機能を使っての顔面整形。
たっぷりと時間を掛けた甲斐もあり、その出来は百パーセント本人と同じといっても過言ではない。
───ただし、あまりにもよくできたが故に、弊害もあったが。
「あーもういい、もう止めだ、出し惜しみはしねぇよ?
次で決める」
「はっ、望むところだぜ」
アラハバキが藍色の巨大ハンマーを両手で腰だめに構える。
夢現はいつの間にやら取り出していた白銀の鍬を上段に構える。
彼我の距離は、奇しくも試合開始時と同じ三十メートル。
開始の合図は、なかった。
「走れ疾れ奔れ!この身は摂理の呪縛から解き放たれん!」
「地を讃えよ!天を讃えよ!自然の恵みはこの世の全てのものに平等に!」
「この身はさらに軽く、鉄槌はさらに重く!自然の摂理を超越した力をこの手に!」
「礼賛せよ!神が与えし真なる恵みは、今ここに発現せり!」
「グラビトンクラッシュ!!」
「価値創造:夢現、【晴ル弥】!!」
アラハバキの鉄槌が振りまわされ、夢現の鍬が振り下ろされる。
その二つの力の衝突が、闘技場全体を揺るがすほどの衝撃と、閃光を生じさせた。
閃光により視界が遮られ、衝撃音に耳がやられる。
そして自身もその衝撃波に巻き込まれ、数十メートルを吹き飛ばされた。
そのまま闘技場を囲う観客席の壁まで吹き飛ばされ、受け身も取れずしたたかに背中を打ち付けた。
残りのHPは、もはや一桁。
しかし、それだけあれば十分。
何故なら。
『第三試合、決着ーーーっ!!!
勝者、悪魔族、夢現選手っ!!!』
ようやく聞こえるようになったその耳に、そのアナウンスが聞こえてきた。
やれやれ、と息を吐く。
そして突如として闘技場の中心に表れた、直径三十メートル高さ百メートルは下らない、巨大な大樹を見上げる。
「自然の摂理は超越しても、神の摂理は超越できなかったみてえだなあ?」
人為的に創った神聖樹に飲み込まれたアラハバキの姿は、もはやこの闘技場にはなかった。




