153.第三試合・転
「ひゅう、いいねぇいいねぇ?」
俺たちの立っていた周辺に生えていた芝生が一気に成長し、俺とアラハバキを取り囲むように緑で視界を埋めた。
二人の身長よりも高く伸びたそれは、その後いくつかの束を作り縄のようになっていく。
そしてしめ縄のように太くなった芝の束が何本も俺の周囲でうねうねと蠢き、一方でアラハバキの方はというと。
「おい、夢現!どういうこった!?」
しめ縄までとはいかないが、綱ほどの太さを保って、足から腰、そして胴体、腕へと巻き付いてアラハバキを拘束していた。
しかもそれは徐々に拘束を強めているので、アラハバキがどうにか身動きを取ろうとしていても、尚きつく締めあげていく。
「どうもこうも、言った通りだぜ?勝つのは俺たち、悪魔族だってなあ?」
「天使族に協力するって言ってたのはどうした!?」
「あぁ、もちろんそうだぜ?だから協力したろ?こっちの情報どんだけ流してやったと思ってんだ?」
プラムから今回の試合参加の了承を得て、真っ先に俺がやったとこがアラハバキに情報をリークすることだった。
元々このアラハバキとは、前からの付き合いがあった。
というのもこのアラハバキ、元々闘技場でランカー張る前は生粋のPKだったからだ。
手を組んでPKなんてことはなかったが、お互いのテリトリーを侵食しないようにそれなりに情報交換なんかはやっていた。
それがいつの間にかPKからは足を洗い、闘技場でランカーと呼ばれる上位選手となり、その腕を買われて聖夜騎士団にスカウトされたってんだから、ゲームっつーのは何があるかわかんないもんだよなぁ?
まぁ、根っからのPK気質っぷりは、相変わらずなようだけど。
「いやあ、俺も絶対勝つって約束してっからよぉ?やれることはやったって訳な?」
「てめぇ裏切ったのか」
「二重スパイ、って言ってくれよな?まぁこっちの奴らにも何も言ってねぇけどな?」
やっぱサプライズって大事だろ?
あー、この状況見て驚いた顔してるあいつの顔を想像して思わずにやついてしまう。直接見られないのが本当に残念だ。
あくまで『俺が勝つ』ってのを最優先に考えた結果がこれだ。
悪魔族側の情報を流して信用させ、アラハバキが油断した所で一気に叩く。
俺が勝つために最も確実で、最も効率がいい方法。
その所為で他の悪魔族の試合結果がどうなるかなんて知ったこっちゃねぇがな。
「つーかせっかく情報流してやっても勝てねぇんじゃ、流してやった甲斐がねぇよなあ?」
「うるせぇよ!大体ハルキの方は情報出し渋ってただろ!?」
「俺もあんなことになってるとは知らなかったからなぁ?まぁ、知ってたとしても結果は変わんなさそうだったけどなぁ?」
PKにしろ対人戦にしろ、一番大事なのは情報だ。
その情報を与えてやったってのに、この結果ってのはまったくどうしちまったんだかなあ?
PK辞めて、上位クランに浸りきって感覚が鈍ってんじゃねぇのか。
「ま、別になんでもいいわな?
これで俺が勝って、悪魔族三勝でこのイベントも終わりってな?」
俺は周囲でうねうねと動いているストリングスプランツを操り、その先端をアイスピックのように尖らせた。
「辞世の句聞いてやろうか?」
「うるせえよ、お前ゼッタイゆるさねぇ」
「いいお手前で?それは茶か?」
まぁどっちでもいいか、とストリングスプランツの刺突がアラハバキに一斉に迫る。
しかし、それと同時にアラハバキの全身が藍色の薄い膜で覆われ、次の瞬間。
バゴウっ!!!
アラハバキはまさに射出されるようにその身を空中へと放り出した。
全身を絡めとっていたストリングスプランツも全て引きちぎり、上空は二十メートルほど、夢現の視界からは豆粒ほどの大きさにしか見えないほどの高所へと飛んで行った。
「ちっ」
ちっと時間を掛けすぎた。
あんだけアラハバキのことをぬるくなったとか言ってたくせに、俺の方が詰めが甘い結果になるとは人のこと言えねぇな。
だが、別に負けたわけじゃねぇ。
ストリングスプランツは周囲に展開させたまま、腰だめの袋に手を突っ込み、そこから赤色の種を取り出す。
それを地面に叩きつけ、インベントリから取り出した如雨露で種に水を撒く。
次の瞬間にはその種は発芽し、一気にハート形の葉を三枚開かせ、さらにその上には大きく細長い緑色のつぼみがついた。
全長一メートル、五十センチがつぼみのアンバランスな植物。それが六株。
「種まきの時間だぜ?」
カタバミシューター。
つぼみからその種子を拘束で射出する、射撃用植物。
射出される種子は、植物でありながら強固で頑丈。直撃を受けたらたとえ防御姿勢を取っていてもただでは済まない。
六株が一斉に種子を放出する。
向かうは空中のアラハバキ。
勢いよく空中へと飛んで行ったアラハバキだったが、今は重力に任せて自由落下しているだけだ。
であれば、狙い撃つのは簡単。
で、あるはずだった。
「いつ、どんなタイミングでも換装可能ってのが、セイグリットゴーレムの売りなんだよ!」
アラハバキは両足に濃い藍色の光を集めて、空中でその姿勢を変えた。
頭から落ちるはずだったアラハバキは、気付けば空中で頭を上に起立の姿勢を取り、そして落下スピードが落ち、しまいには空中で静止した。
「はっ、重力制御か?」
「ご明察。重力使いは強キャラってとこ、魅せてやんよ」
そのまま空中をジグザグと移動を始め、カタバミシューターが飛ばした種子を全て避ける。
ジェットやプロペラ動力とは違う、慣性を感じさせないぬるっとした動きで空中を縦横無尽に飛び回る。
さらには。
「カタバミって雑草だろ?除草が必要だな」
量の腕を前に突き出し、いつの間にかこちらも乾燥したのか、ラッパ状になった手が青緑に発光する。
そしてそこから射出されたのは、水流だ。
水流は地面から種を射出するカタバミシューターに当たると、その花を茶色くしおれさせ、水を掛けられているというのにどんどんと萎びて干からびていった。
「ったくよぉ、随分と俺対策してんじゃねぇか、なぁ?」
「あったり前だろ、お前のことなんてよくわかってんだよ」
「それ男に言われても嬉しくねぇなあ?」
動けないカタバミシューターは、アラハバキの射出する除草剤に成すすべなく潰されていく。
大した時間も掛からず、六株すべてが除草され、対空手段がなくなった。
「悪ぃが、こっから先はワンサイドゲームだ」
アラハバキの目、伽藍の土偶の目が金色に光る。
そのままその光は収束し、果たして光線となった。
音もなく発射された光のレーザーは、さっきまで俺がいたところを壁代わりに使ったストリングスプランツごと焼き払って小さなクレーターを作っていた。
避けるのが間に合っていなければ、俺の腹にも大きなトンネルが出来てたことだろう。
アラハバキのレーザーは、一射で止まることはなくその後も連続して、俺を狙って発射された。
それを俺は残っているストリングスプランツや、即芽製の盾植物でどうにかやり過ごしていく。
「おいおい、良くもまぁ光の速さで飛んでくるもんをそんだけ避けられるもんだなぁ?
まぁ避けてるだけじゃ俺の勝ちは変わんねぇけどさ」
「地に足つけねぇと農業ってのはできねぇんだぜ?そろそろ降りてきたらどうだ?」
「悪いが高みの見物を辞める気はねぇよ」
「そんじゃ、降りてもらうしかねぇな?」
と俺が告げ、その言葉にアラハバキが対応する前に、アラハバキの背中に爆発が起こった。
「なっ!?」
最初の爆発で姿勢を崩したアラハバキは、さらに爆発は二度三度の爆発を浴び空中をよたつく。
それでもなお止まない爆発は、よく見ればアラハバキの周囲を何かが弾幕のごとく飛び交っていたからだった。
「だから地に足つけろって言ったろ?」
それはカタバミシューターの種子弾。
それがアラハバキの背後から、銃弾の雨となって襲い掛かったのだった。
まさに弾幕となった種子弾は、もはや避けるスペースを与えず、アラハバキを地面まで叩き落した。
「なっ、どうしてだ!?さっき全部処分したっつーのに!」
「なんもわかってねぇじゃねぇか、なぁ?こいつが撃ってんのは種なんだっつーの、つまり?」
カタバミシューターの種子、それはただの弾丸ではない。
種であるがゆえに、地面へと着弾すればそれは発芽し、また新たなカタバミシューターを作る。当たればただでは済まないその威力、しかし避けてもそれが地面に落ちれば発芽し、追加の砲塔を作り出す。
それこそが、このカタバミシューターの本当の真価。
「まぁ、この如雨露で水やんねぇと発芽まで時間が掛かるのがちぃとネックだがな?
おっと、そういやお前、さっきカタバミのこと雑草って言ってたな?」
「だから、どうした」
地に落ちたアラハバキを、再びストリングスプランツが絡めとる。
今度こそ完全に地面へと縫い付けられたアラハバキは、憎々し気に俺を見上げて睨む。
「雑草って名前の草は、ないんだぜ?」




