151.第三試合・起
3/12タイトル変更
本編には変更ありません
「ようし、そいじゃあちょっくら行ってくるぜ?」
「ふざけたことしたら許さないから」
「わかってるってよ?そんためにそれ預けたんだろ?」
控室へと向かう夢現を呼び止め釘をさす。
嫌な予感が拭えない今、出来る布石は全部打つ。
私は夢現から預かった、豊穣神の恵みを強く握りしめた。
「それにしても、まだあんたが持ってたなんて」
「それは誤解だぜ?夢幻が持ってたやつは運営に回収されちまったからなぁ?そいつはあくまで夢現として手に入れたもんだぜ?」
くっくっく、と人を食ったような笑いを浮かべながらそう嘯く。
「ゴッドランクのアイテムがそう簡単に手に入るっていうの?」
「まぁ一度は手に入れてたもんだからなぁ、取得方法は分かってるってもんよ?
そっから先は、は企業秘密だけどなあ?」
出来るってことは教えるが、やり方までは教えないってことか。
流石に私もそこまで聞くつもりはないが、どうせろくでもない方法に決まっている。
「ま、俺が勝ったらきっちり返してもらうぜ?」
「わかってる。別にあんたから奪い取りたい訳じゃないから」
「そーかいそーかい、んじゃ行ってくるからよぉ?」
後ろ手に手を振り、夢現は控室へ続く廊下へと消えていった。
その姿が見えなくなったころ、クレスが私に近づいてきて小さい声で囁いた。
「本当に大丈夫?」
「わかんないけど。まぁこれで裏切りなりスパイなりしてたら、これも戻らない訳だし、安い代償とは思わないけど」
クレスの心配も確かだ。
夢現の考えは正直、理解できないことが多い。
今回は担保として夢幻の持っていた持ち物で一番価値のある、ゴッドランクアイテム、豊穣神の恵みを預かった。
何事もなく勝てば返すし、負けたら返さなくていいと夢現が言うので預かったが、何事もなくただ負けただけなら返すつもりではいる。
もし、ろくでもないことを考えていて、こっちに不利になるようなことをしていたとしたら、それは。
「まぁ、とりあえず結果を待つしかないね」
「そうですね」
先輩も不安そうな面持ちだ。
私たちはまだ誰も現れていない闘技場を映す画面の前で、その時が来るのを待つことしかできない。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
いいねぇ、いいねぇ?
いやあ、本当にいいもんだなあ?
顔を隠しているずた袋の下で、顔がにやけるのが抑えきれない。
誰にも見られていないというのに、その表情を隠すように口元を手で押さえた。
がさり、というずた袋の感触ごしに、その下にあるアバターの顔に触れ、思わず手を離した。
ふぅ、ちょっと油断してるなぁ、俺よぉ?もうちょっと冷静にならねぇとなあ?
出場者控室は、聞いていた話の通り簡素な作りだ。
必要最低限の物しかないし、余計なスペースもない。
俺はその部屋で、中継画面を出し、最終確認を行う。
出場選手がまだ登場しない闘技場は、がらんとした印象だが、その周りを取り囲む観客席は騒々しい。
観客相手に飲み物や食べ物を売る者。
誰が登場するか話している者。
非公式の高レートトトカルチョを仕掛ける者。
会場にいる全ての者が、次の試合が始まるのを今か今かと待っていた。
さて、改めて確認するが、今回用意された試合会場は、元々が大規模戦争が行われるはずだった荒野を改造したものだ。
平坦で草木の一本も生えていない平野。
だだっ広いその平野は今は観客席で区切られ、円形の闘技場と言える状態となっている。
それでも陸上競技場よりさらに広いほどの大きさなので、広いという印象は変わらないが。
観客席は、製作に時間がなかったんだろう、簡素な作りで段々状に上へと席が連なっているが、よく見れば一区画が扇状になっていて、それが連なって巨大な円形を成している。
時間がない中で製作物を最低限まで減らすように工夫したんだろう。これなら一区画を作っておけばあとはコピペで数を増やせばいいだけだ。
観客席は最前列から、後列までそれぞれ値段でランク分けされている。
最前線のS席から、最上段のE席まで。S席でも戦闘している選手までは百メートル近くの距離があるだろうが、そこはイベント用のアイテムで解決している。
遠視のオペラグラス。
このアイテムを装備していれば、まさに目の前で戦闘をしているような視界となるらしい。
ちなみにS席にあるものは拡大倍率も高く鮮明で、ランクが低い席になるほど倍率は下がりぼやけて見えるようになる。
まぁこのあたりは運営の涙ぐましい集金手段ってところだろうな。
さてと。
闘技場の再確認が終わり、戦闘準備も終わったところで、コンソールを操作。
ウィンドウを開く。
『首尾は?』
『上々?』
先ほど届いていたメッセージ。
主語はなく、それだけでは到底意味は通じない。
しかし俺は迷いなく、返信する。
口元がにやけるのを抑えきれない。
メッセージの送り主は、アラハバキ。
俺の、対戦相手だ。
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「さて、まもなく第三試合が始まるますが、いかがでしょうか解説のシューベルトさん」
「いやいや、なんでまた僕が解説に呼ばれてるんですか!?さっきのは百歩譲ってメアリの試合だったのでわかるんですけど、今度の選手は僕もあまりよく知らないですよ!?」
「先ほどの解説が評判良かったそうなので」
「ちょっと、私の許可なくシュウに話しかけないで」
「し、失礼しました。メアリ選手。ええっと、今回はメアリ選手も一緒に解説ということで同席をお願いしております」
「解説とか言われてもよくわかんないけど」
「いていただけるだけで結構です!なのでその刺すような視線は止めていただければ…」
「メアリ、クチナシさんが困ってるだろ?あんまり迷惑掛けないでよ?」
「シュウ、この女の肩を持つの?」
「ひえっ」
「肩を持つとかじゃなくて。メアリはプラムさんとかともすぐに揉めようとするんだから」
「シュウの口から次々と女の名前…これは、浮気?」
「なに意味わかんないこと言ってんの?すいません、クチナシさん。本題に戻ってもらって結構なので」
「すいませんすいませんこれ以上近づかないので勘弁してくださ───え?
あ、あぁはい!すいません。ちょっと取り乱してしまいました。
えっと、それではまずは第三試合の出場選手からご紹介いたしましょう!」
「今回から、事前に発表するスタイルにしたんですね」
「選手本人にはこの中継も、メッセージの受け取りも出来ないようになってるそうです!
ですので、視聴者に向けてのみ発表いたしますね。
まずは天使族軍より、『進化する土偶』アラハバキ選手ーーーっ!!!」
「これはまた有名な方が出てこられましたね。
天使族の中でも珍しいセイクリッドゴーレムで、闘技場でもよくお見掛けする対人戦にも精通した有力な選手ですね」
「丁寧な捕捉ありがとうございます。
ご存じない方のために、セイクリッドゴーレムという種族について簡単に説明していただけますか?」
「ベースとなるのは聖属性のゴーレムになるのですが、その拡張性は他のゴーレム種より多いと言われていますね」
「拡張性、ですか?」
「セイクリッドゴーレムは身体を構成するパーツを自由に組み替えることが出来るんです。それにより、基本的には聖属性の身体を、闇属性や他の属性に変更することも可能なんです」
「それは凄いですね!なるほど、それで進化する土偶、という訳ですか…って、土偶ってどういうことですか!?」
「それはまぁ…その姿そのままといいますか、先ほども言った通り自由に身体を組み替えることができるので、作り込む方によってはかなり細かなメイキングが出来るんです。
アラハバキ選手は、それはもう完璧な土偶ですよ」
「完璧な土偶、ですか」
「アラハバキ、という名前は日本の神様の名前ですね。みなさんが想像する土偶のモデルともいわれています。アラハバキ選手はまさにその土偶の形を取っているんです」
「はぁ~、なるほどぉ~、シューベルトさんはそういう雑学にもお詳しいんですね!」
「オタクっぽくてすいません…」
「いえ、そんなことは!謝らないでください、メアリ選手の視線が痛いので…」
「シュウはものしり。私の知らないことをよく知ってる」
「メアリがすぐに、あれはなにって聞いてくるからだよ。その所為でわからないものはすぐに調べる癖が付いちゃったんだ」
「つまりシュウの性格の一部は私によるものってこと?」
「?そう、なのかな?」
「シュウの一部は私…ふふ、良い」
「ええっと、すいません!また脱線したようなので本筋に戻らせていただきますね!
続いて悪魔族軍より、『農民』夢現選手ーーーっ!!!
ってすいません、私この方よく存じ上げなくて…似たような名前の方は聞いたことありますが…」
「えぇ…僕も詳しくは知らないんですけど、その、言っていいのかな?あ、いいんですか?
運営さんからも許可を得たので言ってしまいますが、以前まで夢幻という名前でPKクランを率いていた方です」
「え、それってもしかしてChaos Gigantのことですか!?何やら規約に抵触することをしたとかで、クランは解散、首脳陣は処罰を受けたって聞きましたが!?」
「そのようですね。ただ、どういう訳か彼は今回選手として出場するようです。
以前の夢幻というキャラクターとは別の、夢現というキャラクターではあるようですね」
「あ、運営さんから補足がありますね…この夢現というキャラクターについては規約の範囲内での行動であり、違反やチートではないとのことです。
といっても、あの悪名高い夢幻ですか…」
「今回はあくまで夢現選手ですけどね。
僕も今日知ったのでかなり驚いたんですけど、強さは折り紙付きだそうで、今回のためにスカウトしてきたようですよ」
「そうですか…これは楽しみな試合になりそうですね!
それではまもなく第三試合が開始になります!今しばらくお待ちください!」
「ふふ、シュウの一部が私。私の一部がシュウ。ふふ、ふふふ」




