150.第二試合終了
『やぁ~らぁ~れぇ~たぁ~~~』
「第二試合終了!勝者、悪魔族、メアリNo.4!
いやぁ、またも見事な試合でしたね、解説のシューベルトさん」
「やめてくださいよ、クチナシさん。座ってるだけでいいからって言うので呼ばれて座ってるだけで、解説者なんてものじゃないですから」
「そこはもう諦めてください。私はもう諦めました。
で、メアリ選手の試合ですが、いかがでしたか?」
「ええっと、対戦相手の方には悪いですけど、いつも通りの一方的な展開でしたね」
「そうですか?一回戦のハルキ選手の時とは違い、今回は決着まで一時間も掛かってますよね。メアリ選手の今までの闘技イベントの試合結果を見ても、そこまで時間が掛かったものはなかったかと思いますが」
「試合時間については、まぁその…言いにくいんですけど、一回戦のハルキさんのインタビューを見て、やりたくないって言ってたんで…」
「ということは、あえて時間を掛けた、と?」
「まぁ、そうなりますね…なんかすいません…。
一回戦の方が、試合とインタビュー併せて一時間くらいだったので、試合だけで一時間かければインタビューしなくてもいいって思ったんじゃないでしょうか。
ほら、試合終了がちょうど六十分です」
「あ、本当ですね!秒単位で正確に六十分〇〇秒です!意外と几帳面なんですね!」
「自分ルールには厳しいんですよ。あと思い込みも結構激しい方で、六十分戦ったからってインタビューがなくなるなんて、誰も言ってないんですけどね…」
「あ、確かに…。運営からも、当たり前のようにインタビュー取るよう指示が来ましたよ…。
えぇ…私あのメアリ選手にコメント取りに行かないといけないんですか…?
シューベルトさんも一緒に来てもらえますか?」
「えぇ…そのほうが、いいかもしれませんね…」
「ははは…。
ではまだインタビューまで時間があるので、もう少し試合について振り返りたいんですけど、私ちょっと気になることがあったので、いいですか?」
「なんでしょう?」
「他の闘技イベントでもそうなんですけど、メアリ選手の対戦相手の方々って、負ける時あからさまな負け口上みたいなの言う方多くないですか?
さっきのイカ大根選手も、『やぁ~らぁ~れぇ~たぁ~~~』なんて言ってましたよね?
メアリ選手と戦う時はそうしないといけない、みたいな様式美があるんですか?」
「あぁ、それですか。
様式美、というか、まぁプライドの問題といいますか」
「? プライド、ですか?」
「みなさん、最初はメアリに本気で勝ちに来ようするんですけど、やっぱり勝てないなってなると、わざと負けた感を出してくるんですよね」
「わざと負けた感、とは?」
「本気でやれば勝てたけど、わざと負けてやったんだよ的な演出っていうんですかね」
「男のプライドって奴ですかぁ…」
「まぁそんなことをしても周りにはバレバレなので、どこまでメンツが保ててるかは疑問ですけどね」
「ハハハ…」
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メアリの試合はきっちり一時間かけて消化された。
それはもう相手が可哀想に思えるくらい一方的な試合展開。
対戦相手のイカ大根だっけ?途中でちょっと泣いてたよね…。
「リフティングされるサッカーボールみたいだったね…」
「あたしはジャグリングに見えたけど」
バットで空中にかち上げられ、落ちて来たところをさらにバットでまた空中に打ち返される。落下の勢いが加速するほどそれに比例して高度が上がっていく様は、傍から見ていてもちょっと怖い。
途中からバットも空中に放り投げ、新たに取り出したハンマーで打ち返して、落ちてきたバットを受け取って今度はハンマーを投げて、落ちてきたイカ大根を打ち返すっていうパフォーマンスまで入れてたし。
「空中で姿勢直せないほうが悪い」
「あ、メアリお疲れ」
「おつかれ、当然の勝利ね」
「当たり前でしょ?あんなのに負ける訳ないじゃん」
私たちが話していると、試合が終わったメアリが戻ってきた。
一時間の試合の後だというのに、疲れた様子もなく、ただただ面倒くさい作業が終わったかのような表情を浮かべていた。
「そういえば知り合いだったの?」
「んー、どうだったかな?昨日天使族側に協力しろって言ってきた奴に似てる気もするけど」
「いやいやいや、完全にその人じゃん?なんか最初にそんなこと言ってたし」
「『我ら天使族に与せず、悪魔族ごときに力を貸すとは、この屈辱決して許さんぞーっ!』とか言ってた割に、最後の方は『マジごめんなさい許してもう終わりにしてください』って泣いてたね」
「早く終わらせるとインタビューあるって言うから、出来るだけ延ばしただけじゃん。
ってか人の都合とかどうでもいいし」
多分もう対戦相手の顔も忘れているんだろうメアリは、きょろきょろと周りを見渡している。
しかし目当ての人物が見当たらず、一気に不機嫌な顔になった。
「シュウは?」
「運営に、解説役として引っ張って行かれたよ」
「は、なにそれ?」
シューくんが解説役に呼ばれて行ったのは、メアリが出場選手待機室へと行った後だった。だから知らないのも仕方ない。
「じゃあ私の試合はちゃんと見ててくれたんだ?」
「そうだよ。ほら、中継画面」
と言って見せたそこには、シューくんと楽しそうに話すクチナシさんが映っていた。
瞬間的に、マズっと思ったけど、もはや後の祭り。
「ふぅん、解説?随分楽しそうにしてるじゃん」
「いちおう大勢の視聴者に向けての放送だからね?つまんなそうとか面倒くさそうとかやる訳にもいかないんだよ」
「女子と、二人で、楽しそうに、ふぅ~ん」
さっきの対戦相手よりも、よっぽど敵意を向けてクチナシさんを睨むメアリ。
シューくんも、そこでそんなに楽しそうに会話してちゃダメだって!
「ん?インタビュー?せっかく試合引き伸ばしたのに、やるの?」
画面を食い入るように見つめていたメアリが、目の前に現れた表示に気付く。
どうやらメアリにもインタビューをさせて欲しいということのようだったが。
「ふーん、ふーん、この女がインタビュアー?へぇへぇへぇ、しかもシュウと二人でやるって?ほうほうほう、私が拒否した場合は二人のトークで場を繋ぐって?─────絶対に許さない」
運営からの通知を読み終わったメアリは、それはもう何とも言えない表情を浮かべて、静かにコンソールを操作した。
するとメアリの身体は転送の光に覆われて、この場から姿を消した。
さっきまであれほど嫌がっていたインタビューを、一も二もなく即答で了承し、戦地に向かうような顔で行ってしまった。
うん、荒れるね、これは。
中継映像を見れば、どこか青白く怯えた花弁になったクチナシさんが、シューくんに助けを求めているところだった。
それは悪手だよ、クチナシさん…。
クチナシさんに降りかかる過酷な未来を想像し、合掌した。
インタビューへと移るため、一旦中継が終了となったところで、クレスが神妙な顔をしていることに気付いた。
「どうしたの、クレス?」
「んー、ちょっと気になること、かな」
「気になること?」
私がそう聞き返すと、クレスは周囲を確認し、私と先輩だけに聞こえる声で切り出した。
「ちょっと、対戦相手が気になる」
「対戦相手?」
「メアリの相手って、昨日打診してきた奴なんでしょ?それってたまたま?」
「え、偶然でしょ?向こうも自分が出るから誘って来たんだろうし、五分の一くらいの確率なら、そういうこともあるんじゃないの?」
「それだけなら、ね。ただ気になるのは、ハルキの時も」
「わたしの時?」
「そう、ハルキは知らないみたいだったけど、あれって天使族では結構有名なタンクなの。
今回はハルキがいろいろやってたから大丈夫だったけど、もし前のハルキだったら」
「もしかしたら、タンクの装甲抜けてなかったかも?」
「相性は良くなかったかもね」
クレスのいう事は全部推測だけど、確かに言われてみるとちょっと変だ。
まるで一試合目に先輩が、二試合目にメアリが出場してくることを知っているかのような采配。
それは、まるで。
「裏切り?」
クレスの言葉に、思わず反射的に夢現を見やる。
夢現は次が自分の試合だという事で、準備に余念のない様子だが、それは果たして本当なのか?
「まぁ、はっきりはしないからね。
でも、一応注意だけはしといた方がいいかも」
「うん、わかったよクレス。ありがと」
先輩と一緒に頷いて、私は一層気を引き締める。
私やクレスが感じている嫌な予感は、このことなのだろうか?
メアリが勝利し、先行で二連勝を挙げた側の控室とは思えないほどの緊張感が、室内には漂っていた。
第三試合開始まで、あと五十五分。




