148.第一試合開始
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今回はハルキ視点。
「さてと、それじゃ行ってくるね」
「先輩、頑張ってください!」
「うん、精一杯頑張るよ。応援よろしくね」
「もちろんです!」
時刻は八時五十七分。
開始時刻まで三分となったところで、待機場所へと向かう。
このトンネルを抜けた先が、選手控室になっているらしい。
準備は万端。
気持ちの整理も万全。
楽しさ五割、嬉しさが三割、期待が二割弱、それとほんのちょっとの緊張感。
いい感じに心の平穏が保てていると思う。
クレスさんのため頑張るよ、なんて言ったけど本当は自分の好奇心を満たすためにやっているのだ。
それについてはちょっとだけ罪悪感。
嘘をついている、って訳ではないが、友人の状況を利用させてもらっているってことに違いはない。
ふふっ。
思わずにやけてしまった。
周りに人の目が無くてよかった。
自分の口から、自然に「友人」なんて言葉が出るとは思わなかった。
あまり上手に友人を作れた記憶はない。
いつもどこか距離を置いた付き合いになってしまうことが多いし、本当に友人となりたいと思った人からはなぜか距離を取られてしまっている。
そんなわたしが、友人と思える人がクレスさん。
だから、クレスさんのためにも、自分のためにも、今日は頑張ろう。
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トンネルを抜けた先にあるのは小さな部屋。
何も置かれていないその部屋の床には、部屋と同じサイズの魔法陣が書かれていた。
『出場選手は魔法陣の上に立ってください』
ポップアップが現れたので、その指示に従う。
青白く光っていた魔法陣は、わたしが乗ったことで赤へと色を変えた。
『転送まであと四十三秒』
このまま待っていれば開始時刻と同時に転送されるらしい。
余裕をもって来たつもりだけど、考え事をしながら歩いていたら結構ぎりぎりの時間だった。
遅刻で不戦敗なんて、冗談にもならないので、遅れずによかったと思った。
インベントリを操作し、装備の展開をする。
ただのエルフだった身体から、エルフ(マシーナリー)へと改造を行ったことで、わたしの装備は若干変わった。
その試運転も含めて、スプロさんとリーオンさんにはずいぶん遅くまで手伝ってもらってしまった。
ただ、向こうも向こうで、わたしの身体を実験台のごとつ扱っていたので、お互いさまかもしれないけど。
『転送まであと五秒、四、三、二、一』
ふっ、っと小さく息を吐いて、右足を後ろに大きく引いた。
『第一試合を開始します!』
ブオーーーンっ!
というサイレンが鳴り響き、わたしの視界が一瞬ホワイトアウトしたと思ったら、次の瞬間には、だだ広い平野へと変わっていた。
周囲の歓声が聞こえた、しかしそちらに視線は向けない。
目の前、三十メートルほど離れたところに一人の人。
白装束を纏った、ただの人ではありえないほど大きな巨人。多分四メートルくらいはありそうだ。
その姿を認めた瞬間、周囲の歓声が聞こえなくなった。
大丈夫、集中できている。
白巨人が、周囲の様子にあっけに取られている中、わたしは跳び出す。
「排気」
その一言で、右足のふくらはぎと背中の排気口から圧縮された空気が解放される。
その勢いは、駆けだしたわたしの身体をさらに一段加速させ、後押ししてくれる。
頬が風を切る感触。
地面を蹴った時の砂利の音が、もう遥か遠い。
一歩で二十メートルを詰める。
蹴り出した右足とは逆の、左足が地面を掴む。
「排気」
左足が地面に触れた瞬間、今度は左足のふくらはぎの排気口から空気が噴射する。
一歩目の右足の速度が乗ったまま、さらに加速する二歩目。
もはや視界は追い付いていないが、全身の感覚はまだまだ冴えわたっている。
白巨人が動かないのは、わたしを迎え撃とうとしているからか、それとも驚愕に身をすくめているだけなのか、加速する視界の中ではその表情までは読み取れないのでわからないが、わたしがやることは変わらない。
腰だめに吊るし下げていた三十センチほどの黒い棒を引き抜く。
「展開」
私の声に呼応するように、その黒い棒の先から、光が迸る。
その光は瞬時に収束し、そのまま一メートル二十センチほどの長さで半実体を持った光の刃となった。
光学式展開武装・甲型・二式。
スプロさんの機工技術と、リーオンさんの鍛冶技術によって製作されたまったく新しい武器種。
非展開時には小型で持ち運びが手軽であり、使用者の起動キーにより展開して使用する武装。
今回のために突貫で作って貰った、わたしのための専用武器。
その光学剣で、白巨人の右腿をすれ違いざまに流し斬り。
試運転で何度か試したが、この速度下でまともに斬りつけると通常の武器では、武器の方が先にダメになる。
そのための、この半実体型の光学剣。
斬りつけた感触はしっかりある。
通常であれば刃こぼれや武器の耐久度を気にしないといけないが、この光学剣であれば再展開すれば状態は元に戻る。
それでも流し斬りをするのは、自分の勢いを止めないためであり、次の攻撃に続けるため。
斬りつけすれ違い、その勢いのまま前転の要領で、剣を持たない左手で地面に手をつき、倒立の姿勢を取る。
無理矢理の前方向、百八十度ターン。
勢いが付きすぎているため、そのままでは背中から地面に叩きつけられる、が。
「三点排気」
身体が地面とほぼ平行になった状態で両腕と背中の排気口から圧縮空気を噴射。
空中でそのままわたしの身体を吹き飛ばし、一気に高度を上げる。
狙うは頭。
わたしの速度に追い付いてこれていない白巨人は、まだ正面を向いたままだ。
その後頭部に目掛けて今度は剣を振るう。
かぁん、という人体を叩きつけたにしてはあまりにも大きな音が響き渡り、白巨人はよろけて片膝をつく。
一方、空中へと身と投げただしわたしは、叩きつけた勢いを利用して体を回転、光学剣を左手に持ち替え、その握った拳を白巨人へと向けた。
「拡張《Extend》」
わたしの声を合図に、光学剣の柄、反対側からさらに光が迸る。
そしてそれは先ほどと同じように収束し、上下二メートル超まで伸長し、弧を描く。
そして描かれた弧の両端を繋ぐように、細い光の糸が繋がった。
瞬く間に光の弓へと変形した光学武装を手に持ち、照準を白巨人へと向ける。
これが、わたしがお願いし、リーオンさんとスプロさんが最後まで頭を悩ませてくれた、変形機構。
全身のマシニングにより、今までのように常に剣を下げ、弓を担いでいる訳にはいかなくなったわたしが、今までと同じように、いやそれ以上に戦うための、複合武装。
その光弓の弦を、最大限まで引き絞る。
するとそこに、最初からつがえてあったかのように、青白い、光の矢が出現した。
空中で、無理な体勢であっても、照準は一瞬。
今までとやることは変わらない。
ふっ、っとほんの少しだけ息を吐きながら、無理な力を入れずに弦を離す。
放たれた光の矢は、寸分違わず白巨人の脳天に直撃する。
わたしはその結果を見届ける前に、すでに次の矢を撃つ準備を整える。
二射、三射。
三射目がまったく同じ個所に当たったところで、膝をついていた白巨人が、完全に足をつき手をつき、うずくまる。
それでもわたしはさらに追い打ちの手を止めない。
四射、五射と矢継ぎ早に放つ、そのことごとくが白巨人へと命中する。
が。
しゅん、という音と共に、放った矢は白巨人へとダメージを与えることなく、その場に落ちた。
よく見れば、白巨人の周りには白い、六角形の幾何学模様が描かれたドームが展開されていた。
グロリアスドーム、かな。
確か聖光魔法の最上位防御魔法で、個人単体の防御性能では最高で、闇属性以外の攻撃はほぼ無効化する。
代わりに術者は身動きが取れなくなるデメリットがあるけれど。
ただ、もちろん向こうも熟練プレイヤー。
そのまま防御姿勢を続けているだけでは勝ちはないのは理解しているだろう。
となればどこかで攻勢に仕掛けてくるはずだ。
その瞬間を狙えば。
だけど。
最高にノッているわたしは、そんな悠長なことはしない。
恐らく、向こうの白巨人は、いや恐らく聖夜騎士団は、わたしたちのことをよく研究してきているのだろう。
少なくともわたしについては、今までの戦闘データや情報などで、いろいろ聞いてきているようだ。
つまりわたしの評価は、いろいろ出来るが、高威力に乏しく、硬い防御は抜くことが出来ない、だろう。
残念だけど。
その情報は、もう古いかな。
マシニングという手段で、生まれ変わったハルキは、今までのわたしとはちょっと違うよ。
「全力排気」
五点すべての排気口から、圧縮空気を射出する。
轟、という風を切る音が聞こえ、それ以外の音が掻き消される。
「───」
再展開と、告げた私の声は風に消されて、わたしの耳へも聞こえてこない。
しかし、光学式展開武装・甲型・二式はわたしの声に応えてくれた。
弓から剣へ。
そして先ほどよりも大きく光り、その密度を増す。
この光学式展開武装の光の素子は、わたしの魔力だ。
展開しているだけでMPを消費するし、込める魔力量によってその強度が変わってくる。
わたしは込められるだけの魔力を込め、リミッターギリギリの出力となった光学剣を強く握る。
「───」
風斬り。
やはり呟いたスキル名は風に消されて聞こえなかったが、刀身に纏った薄緑色の光が、スキルが間違いなく発動していることを示している。
そしてそのまま、グリップを両手に握り、風を斬る速さでその光の剣を全力で振りきった。
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『第一試合勝者、悪魔族、ハルキ!』
着地に若干失敗し、たたらを踏んだがぎりぎりのところで転ばずに体制を立て直して、ようやく止まった。
そして聞こえてきたのは、試合終了のアナウンス。
わたしが放った風斬りは、どうやらあの白巨人の防御を打ち破って、決定打を与えたようだ。
風斬りの効果は二つ。
一つは武器に風属性の効果を付与すること。
そしてもう一つは、使用者の速度が速いほど威力が増すということ。
マシニングを施したわたしの全力排気によるスピードは、あのグロリアスドームの防壁を打ち破るほどの威力を出せたようだ。
「ふぅ」
ようやく息を吐く。
勝てた。
そのことに安心する。
結果だけを見れば、被ダメージゼロの一方的な試合だったかもしれない。
でも、実際は結構ぎりぎりだった。
光学式展開武装・甲型・二式は使っているだけでMPをどんどん消費していく。
そしてわたしの排気も、やはり使用しているだけでMPを消費していく。
おかげで常にMPはかつかつの状態で、長期戦は厳しい状況だった。
でも、それはわたしがリーオンさんとスプロさんにお願いしたこと。
長期戦へのデメリットがあったとしても、短期でも高出力が出せるようにして欲しいと願ったから。
改善点はまだまだあると思う。
そこはまた二人にお願いしよう。
でもそれは後でいいや。
まずは。
この勝利を喜んでくれているはずの、友人の元へ帰ろう。
多忙によりちょっと間が開きそうです。
すいませんが何卒ご容赦ください。




