147.決戦の朝
「で、そいつなの?」
「苦渋の決断だよ」
「背に腹は代えられないってね」
「俺の評価低すぎない?」
翌朝、相対戦当日。
早朝七時の集合となった私たちは、このイベントのために作られたという悪魔族用待機スペースに集合していた。
そこには、私たち五人のメンバーに加え、悪魔族の代表者としてあの三人衆と、メアリの保護者としてシューくんが来ていた。
この待機スペースは招待制なので勝手に知らない人間が勝手に入ってくることはないが、こちらから呼べば誰でも来れるので、試合開始前には観覧席として知り合いを呼ぶのもいいかもしれない。
そして集まったメンバーを前に、一番最後にやってきたクレスが呟いたのが、さっきのセリフ。
メンバー集めを私と先輩に丸投げたし手前、ダメとは言わないが、露骨に胡散臭そうな目で夢現を見やる。
「いやいや嬉しいねぇ?逆ハー状態って奴?まぁ与えられた仕事はちゃんとやるぜ?」
「そうして。そして余計なことはしないで」
「そんな連れないこと言うなよなぁ?同じジェネラリストのよしみだろぉ?」
「ちっ」
反射的に舌打ちをしてしまうが仕方のないことだと思う。
そうなのだ。
この夢現、なんとサブ職業を私と同じジェネラリストにしていたのだ。
「メンバーに選んでくれたお礼に一個情報をやるぜ?」って言うから何かと思えば、ジェネラリストの就職条件。
やはりというかなんというか、以前私が考えていた条件で合っていたようだ。
知っている、と答えたら珍しく驚いていたようだったが、さらにすでに就いていると言ったところ、狂喜乱舞し踊り始めた。
何事かとジト目で見ていると、「俺も」と語尾にハートでも付いているんじゃないかってくらいに甘く囁いてきたので、とりあえずゼロ距離で左手から矢を撃ち込んだけど避けられた。
苛立ちとムカつきで反射的にその場でジェネラリストを解除しようと思ったけど、夢現がさらに追加の情報を言って来たので手を止めた。
『ジェネラリストがただの汎用生産職だと思ってんのか?』
『違うっていうの?』
『違うって訳でもねぇが、それだけでもねぇって感じ?』
その後、夢現からもたらされた情報により、私はジェネラリストという職業を見直すことになったのだが。
「あんたの所為でろくに寝れなくなったし」
「なにそれあんたたちそういう関係?」
「やめてメアリ。冗談でもそれはキツイ」
メアリの言葉に即時否定する。
こいつとそういうことを想像しそうになって、全身に寒気が走る。絶対ムリ。
まぁ、夢現の所為で昨日はほとんど眠れなかったのは事実だ。
夢現から得た情報から、準備することが増えたので寝る時間がほとんどなくなってしまったのだ。
おかげでどうにか間に合うことが出来たからよかったけど、寝不足の恨みは忘れない。
「メアリもよろしくね」
「例の件、必ず」
クレスが、メアリに声を掛ける。
メアリの変更には並々ならぬ強い意志が感じられた。
「メアリ、例の件って?」
「シュウは気にしなくていい」
メアリの参戦条件を知らないシューくんが、何のことと聞いてくるけど、メアリは適当にはぐらかすだけだ。
そりゃ、シューくんを落とすための女子力講座を受けるために協力する、なんて本人にはとても言えないだろうけど。
ただ意気込みは十分なようで、こっちは放っておいても大丈夫だろう。むしろもうちょっと肩の力を抜いたほうがいいと思うけど。
「で、先輩?」
「どうかな?」
「いやいや、どうかな?じゃないですって!」
今回一番の問題、と言っても過言ではないと思う。
昨日はまだ準備中だから見せられないって言ってたけど、今日は準備が完了し、昨日のローブを脱いでいた。
その姿は。
「格好いいでしょ?」
「どういうことですか!?その身体、いったいどれだけマシニングしたんですか!?」
その身体は、四肢が私の左腕と同じ機械となっており、背中にも何やら機械が取り付けられている、機械の身体となっていた。
「スプロさんとリーオンさんに協力してもらって、可能な限りマシニングしてみたんだけど、どうかな?」
「どうかな?じゃないですよ!そんなことして大丈夫なんですか!?」
「大丈夫大丈夫。一応試運転もしてきたからね。結構理想的な出来だよ?」
シュッシュ、と身体の動きを見せるように動く先輩。
確かに、その動きを見る限りは、今までと遜色ないようだ。それどころかよりキレが増しているような気もする。
そして気になるのは、その機械の四肢と背中のそれ。
排気口にも見えるそれが、前腕とふくらはぎの所についており、背中の機械も下に向けて二つの口が開いている。
「ま、本番をお楽しみにってね?」
そう言ってウインクする先輩は、いたずらに成功した子どもみたいで、格好いいより可愛いと思ってしまった。
「二人とも、準備は大丈夫?」
「アタシ達の状態なら、操者が一番良く知ってるでしょ?」
「そうだね。二人とも、よく似合ってるよ」
ランカのアヤナの姿をもう一度下から上まで確認する。
昨日遅くなってしまったが、ディジィさんの元へ改良をお願いした服を取りに行き、今はそれを着ている。
デザイン的にはほとんど変わらず、単純に性能が上方修正された感じなので、着た感じの違和感も少ないだろう。
「ところで、アヤナたちは何回戦になるんでしょう」
「一応決めてるみたいだよ。ね、クレス?」
と、クレスの方に視線を向ければ、頷いて返してくる。
「先鋒はハルキね。とりあえずこれで一勝」
「最大限頑張るよ」
先輩が大きく頷く。
「次鋒はメアリお願い。二勝は確実」
「当然」
むしろメアリは試合後の女子力講座が気になって仕方ない様子だ。
「中堅は夢現。まぁ期待はしてないから」
「気楽にやらせてもらうよ?」
にやにやと何やら企んでいるような視線をこっちに送ってくる。
「副将はプラム。ま、ここで試合を決めてもらうつもりでいるから」
「プレッシャー!?」
だけどそれは信頼の裏返し。クレスの期待に応えられるよう全力で頑張ろう。
「で、大将はあたし。あたしまで回る前に終わって欲しいのがホンネ」
珍しく自信なさげにそう言うクレス。
いつもだったら、余裕余裕って雰囲気なのに、どうしたのかな?
「ちょっと体調がね。
それにクレスも制限掛かってるから、いつも通りって訳にはいかなそう」
「制限?」
「そう。アンゴールを魅了してる影響みたいだね。そっちにリソース割かれてるみたいで、今戦闘に出せるメンズは一体が限界、ってとこかも」
「えっ!?それって結構まずくない?」
「そう。だから、できればあたしの前で終わって欲しい感じなの」
なるほど。
体調が悪いって言うのは昨日も聞いていて心配だったけど、こっちの方でもそんな制限があったとは。
確かに重要NPCを魅了してなにもペナルティなしってのもおかしい気がしてたんだ。
これは本気でクレスの期待に応えるしかない。
なんとしても私が勝たないと。
「いやいや、俺が勝てばいい話だろ?」
って夢現が言うけれど。
なんか嫌な予感がするんだよねー。




