146.5人目のメンバー
丸投げされた五人目について、どうするか先輩と話、とりあえず先輩が何人かあたってみるというので、お任せすることにした。
私があと呼べそうな人と言えば、ケインさんにミナちゃんあたりかな?リリスさんは対人は絶対ムリそうだし、シューくんも考えたけど、メアリに余計な刺激を与えてやっぱやめたってなるのも怖いのでやめておいた。
「では操者、アヤナたちも準備を済ませてしまいましょう」
「そうだね。ディジィさんから出来たって連絡きてたし」
アヤナの言葉に頷いて答える。
ディジィさんにはこの前手に入れた素材やアップデート後に新たに手に入れた素材などを渡して、私たちの服の強化をお願いしていた。
素材の種類的にフルモデルチェンジよりはマイナーチェンジの方がいいでしょう、とのことだったので、そこは製作者であるディジィさんに完全にお任せした。
その完成の連絡が、中継が終わったころに来ていたのだった。
「アタシは帰って寝たいんだけど?」
「マニュファクトリイに新しくスイーツ屋さんが出来たらしいよ?」
「ほら、早く行くよ。ほらほら」
結局ランカに背中を押されて、私たちはマニュファクトリイへと向かった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「最近はスイーツ店などもマニュファクトリイに移ってきているのですね」
「そうみたいだね。前はレストランとかは街の方に出店するのがほとんどだったんだけど、最近はこっちで出す人も増えたみたい」
私が初めて来た頃は、専門職を極めたちょっと偏屈な人が集まっている生産の村って感じだったけど、最近は最先端の技術が集まる町ってイメージになりつつある。
それに伴い人も増え、以前は鍛冶や木工などのものづくり系が主だったところに、料理や醸造なんてものを専門にする人達もやってきた。
なので前よりも生産の幅も奥も深くなり、ある意味ではさらに混沌とした状況となっているともいえる。
ほら、そこを見ればピンクと蛍光グリーンのしましま模様のスイカとか育ててる人がいるし。
って。
「ちょ」
「いやさ、先に行っとくけどさ?いきなり通報とかはやめてくれよな?」
「夢幻―ーーっ!!??」
そこにはオーバーオール姿で鍬を肩に担いだ、夢幻がいた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
「まぁ落ち着けってな?そこの人形も武器構えるのやめね?」
見ればアヤナは臨戦態勢を取っており、今にも夢幻の首を切り落とそうとその刃を光らせている。
「どうしてあんたが」
「んー?まぁ話せば長くなるかもしれないけど案外早いかもな?
とりあえず立ち話もなんだから、ウチくる?」
ひょい、と親指で指さしたその先に合ったのは東屋。
それはこの怪しい作物がたくさん生る畑に隣接していることから、夢幻の所有物なのだろう。
「操者、罠では?」
「俺がなんの罠に掛けようって?まぁまぁ茶くらい出すよ?」
「変なことしたらGM通報するから」
「おーこわいこわい?」
東屋はそこそこの広さがあり、私たち四人が椅子を並べて座っても、まだ余裕があるくらいだった。
夢幻は自分で言った言葉の通り、東屋に置いてあった急須からお茶を入れて、私たちの前のテーブルに置く。
私はそれに手を付けずに、夢幻を問いただした。
「あんたBANになったはずでしょ?どうして普通にプレイしてるの」
「あぁもちろんBANになったよ、夢幻はな」
「夢幻は、ってあんたのことでしょ?」
「いやいや、俺は夢幻じゃないよ?夢現。そこんところ間違えないでな?」
「BANされたから作り直したっていうの?」
「いやいや、元からサブで持ってたんだよ?こっちはまっとうなプレイ用ってな?ほら、アバターの性別も違うだろ?」
と言って、その場で一周くるりと回る。
その遠心力に振られ、追従する二本のおさげが目に入った。
よくよく見れば、確かにあの夢幻とは違うアバターのようだ。
ただ同じようなオーバーオールに麦わら帽子、顔にはなぜかずた袋を被ってマジックで雑に顔が書かれている。人というよりカカシに近い。
「あっちはチート用、こっちは遊び用、な?だからこっちはBANされずに残ってんだよ?」
「でもゲーム機一台で一アカウントでしょ?それもチートなの?」
「いやいや、まっとうに本体二台持ってるだけよ?なんでもチートに結び付けんなよなぁ?」
「そんな言い分、GMが許すと思ってんの?」
「ざんねーん?これはシェインも知ってることなんだなぁ?
つーか、まぁ、別に言ってもいいのか?」
「なに、もったいぶらずに言えばいいじゃん」
「今の俺ちゃんは、GMと親しいの仲よ?」
「はぁああ?」
自分がしてきたことに悪びれもせず、しかもGMと繋がっていると宣う夢幻に、呆れた声を上げてしまう。
「なんでチーターでPKerのあんたとGMが繋がるのさ」
「だーかーらー、こっちはまともなプレイしかしてないっていってるっしょ?
まぁ、ハッカーみたいなもん?」
「なにそれ、結局チートみたいなことしてるってこと?」
「いやいや、それはクラッカーって奴だろ?
俺は正義のハッカーよ?ここの能無し運営じゃ見つけられないような不正行為の手口を見つけて報告してあげてんのよ?」
つまりは、今までやっていた不正を、今度は是正するために協力しているって事か。
もしかしてその不正や抜け道を見つける手腕を買われて、GMに協力する代わりにこっちのアカウントは見逃されているってこと?
「まぁ思ってる通りだと思うけど?特にこないだみたいな大型アップデートの後は、いろいろ見つかるからさぁ?ここの運営ももうちょいしっかりデバックして貰いたいもんだよなぁ?」
「そんな悪いこと考える人ばかりじゃないってことでしょ?」
「MMOで性善説は成り立たないって、学校で習わなかった?」
「悪いことをしたらちゃんと謝りましょうとは習ったけど?」
やっぱり夢幻とは話が合わない。
これ以上話をすることない、と私は席を立つ。
二人も一緒に席を立って、夢幻の元から立ち去ろう背を向ける。
しかし背後から、夢幻が声を掛けてくる。
「そうそう、どうせアンタ明日の相対戦っての出るんだろ?応援させてもらうよ?」
「あんたに応援されても嬉しくないし」
「悲しいこと言うねぇ?で、後は誰が出るんだ?ついでだから教えてくれよ?」
「なんであんたなんかに」
「知らない仲じゃないだろ?」
「知りたくなかった仲だけど」
「メンツ足らないなら、俺が出てやってもいいぜ?」
「なっ───」
思わず振り返る。
驚愕の顔を浮かべている私とは対照的に、夢幻はそのずた袋の上からでもわかるくらい、いやらしい笑みを浮かべていた。
「ったく、ちょいとカマ掛けただけじゃねぇか?もうちょい心理戦に強くなった方がいいぜ?
それにしても、まだメンバー決まってないのか?あと一人か?二人か?…その顔じゃ、あと一人ってとこだな?
よーし、俺が出てやるよ?」
「勝手なこといわないで。もうお願いしてるし」
嘘ではない。先輩が知り合いにお願いしているはずだ。ちゃんと信頼できる人に。
「そいつがどれだけ対人慣れてるってんだかなぁ?意外と対人戦ってのは奥が深いんだぜ?生粋の元PKerよりそこんところよくわかってる奴がどれだけいるかねぇ?」
「技術はあっても、信用がないんじゃ、一緒には戦えないでしょ」
「じゃあ、これならどうよ?」
ぴこん、と通知音と共に、視界にウィンドウが開いた。
『夢現さんからフレンド登録要請が届きました。 Y/N』
「友達なら問題ないだろ?」
私は即座に、NOを叩きつける。
『夢現さんからフレンド登録要請が届きました。 Y/N』
消した瞬間、再度通知が送られてきた。
「即答でNOは悲しくなっちゃうなぁ?ちょっとは悩んでくれてもいいんだぜ?」
なんと言われようと、私は受け入れられない。
どうしても最初の印象があるから、更生したって言っても信用できるもんじゃない。
それはアヤナも同じようで、いつも以上に冷たい視線を投げつけている。
しかし、そう思っていない者も、この場にいた。
「よくわかんないけど、別にいいじゃん。
とりあえずそのおばさん?おっさん?強いよ、多分アタシ達より」
ランカだ。
あの時直接対峙していないランカは、私たちより公平に見定めていたようで。
「こっちが三人掛かりでいって、どうにかってくらいじゃない?
タイマンじゃ、ちょっと勝てる気がしないんだけど」
「おねーさん、って言って欲しいね?ほら、一応女だから、さ?」
夢幻の軽口に、ランカが反射的に鐵塊樹芯の棍棒を振り下ろす。
ぐしゃりと、頭から潰された夢幻だったが、よくみればそれはただのカカシにすり替わっており、本物は、いつの間にか横に一メートルほどスライドして、同じように立っていた。
「おーこわいなぁ?おじさん反射神経衰えてきてるんだから、勘弁してほしいだけど?」
「その割に、完璧に避けられたけど?」
言葉とは裏腹に、まったく余裕そうな気配は、確かに対人慣れしている者のそれだ。
ランカの言う通り、強さと経験を考えれば、申し分ないかもしれない。
あとは自分が受け入れられるか、だ。
「ちょっと、相談、してくる」
「あぁ、どうぞどうぞ、俺はいくらでも待ってるぜ?」
どうぞ、と椅子に座って待つ姿勢の夢幻。
私は意見を聞きたくて、先輩に連絡を取った。
『先輩、五人目ってどうなりましたか?』
『うーん、実はちょっと難航してて。やっぱり目立ちすぎるのが、ちょっとネックみたい』
『あー、そうなんですね…それでですね、実は───』
先輩が、もう五人目のあてを見つけているようなら、相談しないと決めていた。
しかし先輩の方は、まだ見つけることが出来ていないらしい。
であれば。
私は先輩に、今の状況を伝えた。
ランカのお墨付きが貰えるくらいに戦力的には問題ないこと、しかし過去のいろいろなことから性格的には問題しかないこと。
『………』
先輩にしては珍しく、深く悩んでいるようだった。
しばらく、沈黙の時間が続く。
そして。
『うん、頼もう』
『…いいん、ですか、ね?』
『わたしも正直まだ悩んでるけど、色々考えて出来る最善は尽くした方がいいと思う。
負ける訳にはいかないし、この前の戦闘も見てたから、その強さはわたしも保証する。
でも、プラムさんが納得できないなら、やめておいたほうがいいと思う』
『いえ、先輩の意見で踏ん切りがつきました。
背に腹は代えられません。クレスのためにも、ベストメンバーを集めたいと思います』
『うん、じゃあ交渉はお願いするね。こっちも声掛けた人たちにメンバーが決まったって言っておくから』
『はい、ありがとうございます』
通話ウィンドウを閉じ、一つゆっくりと息を吐く。
それを見て、夢幻が声を掛けてきた。
「さぁ、決まったんだろう?答えは?」
「夢幻、明日、私たちのために、戦って」
「あぁ、もちろんさ?いやいや、楽しくなって気じゃないか?」
「言っとくけど、そこまで言って負けたらタダじゃおかないから」
「いいプレッシャーだねぇ?前より威圧感増したんじゃない?
おーけーおーけー、おじさん全力出しちゃうからね?
おっとそうだ、その前にちゃんとしとかないとなあ?」
『夢現さんからフレンド登録要請が届きました。 Y/N』
私はそのウィンドウを叩き割る勢いで、NOに拳を振り下ろした。




