145.説明を要求する!
「ちょっとクレス、一体どういうことなのっ!」
作戦会議の場として提供された、貸し切りヴォワ・ラクテ。
がらんとした店内で、クレスが優雅に紅茶を飲んで私たちを待っていた。
クレスの五対五の相対戦の提案、その議決、そしてその後のこまごまとしたルール決めが終わり、悠然と、そして颯爽と会議の場を後にしたクレスは、そのまま私たちに召集を掛けていた。
私は一も二もなくすぐさまヴォワ・ラクテへと向かい、ホームポータルから先に到着していたクレスに、怒鳴るように捲し立てる。
「どうもこうも、想像してる通りって感じ?」
「アンゴールだっけ?本当に魅了したんだね?」
「そ。結構ぎりぎりだったっぽいけどね」
「ぎりぎりだろうとなんだろうと、普通はそんなことしないし、考えないでしょ!」
「なんか面倒くさくなっちゃったから早く終わらそうと思って」
クレスの言葉に、がっくりと肩を落とす。
いやいや、面倒くさくってって、それ他のプレイヤーとか運営の人が聞いたら怒るんじゃない?
「外では言わないよ。あんたたちにだけ、ね。
ま、でも事前にバレちゃって、あそこまでしかできなかったけど」
「じゃあ本当はもっとやりたかったんだ?」
「本当はあの会議の場で勝敗決めるつもりだったんだけどね、直前で運営から横槍が入ったの」
「横槍?」
「シェイン出してくるのは卑怯だよなー。多分向こうは気付かずにやってるんだろうけど。
ま、頼まれたら仕方ないよね。譲歩ってことで、五対五の相対戦ってことで決着してあげたの」
「え、シェインさんが!?そんな大事だったの?」
見知ったGMの名に思わず声を上げ、事は思ったより大きかったんだと改めて認識する。
しかしクレスはどこか嬉しそうに。
「まぁこれも貸し一って感じ?ふふ、どうやって返してもらおうかなー?」
デートの日程でも決めるかのように楽しそうに笑うクレスに、私は呆れてしまう。
それは先輩も同じようで、苦笑を浮かべていた。
って。
「先輩!?いつからいたんですか!?」
「最初からいたよ?ちょっとこれの所為で気配が薄くなってるんだけど」
と、頭からすっぽり被るタイプのローブの裾を持ち上げる。
先輩はいつもの狩人装備ではないようで、頭から足首まで全身を隠すように深緑色の長いローブを被っていた。
そしてそれは確かに、先輩の言うように気配を薄くするようで、ともすれば目の前にいるのに見失ってしまいそうになる。
「って、ハルキ、それどうしたの?」
「ちょっと、ね。いろいろ準備中なんだ。明日になったらちゃんと見せられると思うよ」
「ふぅん、まぁ、明日に間に合うならいいや。
で、聞くまでもないけど、二人とも出てくれるでしょ?」
「勿論」
「も、もちろんだよ!」
急に言われてちょっとキョドってしまったが、会議の中継を見ている時からそれは覚悟を決めていた。
クレスが選んだ四人による五対五の相対戦。
そのうちの一人に私が選ばれるってのは、プレッシャーが半端ないけど、クランメンバーの、そして親友の頼みであるなら断る理由はない。
「じゃ、二人はオッケーってことで。あとの二人はどうしようかな?
誰か入れたい人いる?」
「カラオケ一緒に行く人決めるんじゃないんだから、そんな軽く言わないでよ…」
「そう?あたしとハルキとあんたが三勝すれば勝ちなんだから、あとは誰でもいいでしょ?」
「プレッシャー掛けないでよっ!?」
私が出ることになれば、アヤナとランカも出ることになるし、もちろんハチも使うつもりなので、そうそう負けることはないと思っているが、相手の情報もないし何が起こるかわからない。
やっぱり自分の保険の為にも、力強い味方がいてくれた方が安心だ。
「…不本意だけど、一人心当たりが、ある」
「誰?」
「このゲームで最強って言われてる人」
「なるほどね」
「でも、素直に協力してくれるの?あんたのいう事聞くかな?」
「そこは大丈夫だと思う。ちょっとクレスに協力してもらうけど」
「あたしが?」
そう。これはクレスがいなきゃ成立しない交渉。
そして私だからこそ思い当たった交換条件。
私は彼女の顔を思い浮かべ、そして一つ大きくため息を吐いた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
『嫌』
『メアリ、まだ何も言ってないんだけど』
『言わなくてもわかるし。どうせ明日のことでしょ?嫌、めんどくさい』
『一応知ってるんだね?相対戦になったって』
『シュウと一緒に見てたから。さっき天使のやつらからもお願いされたけど、断ったし』
『え!?向こうからも打診があったんだ?』
『なんか前の闘技イベントで戦った?とかいう人だったけど、覚えてないし、知らない人』
『向こうの人が可哀想に思えてくるね…』
『おばさんが相手なら、いっそ向こうに協力するのもよかったかもね?』
『やめてって。まぁ、こっちの条件聞いたらそんなこと言えなくなると思うけど』
『私が安い報酬でおばさんの協力なんてするとでも?』
『ドキドキっ!高女子力女子クレスの女子力講座 ~幼馴染編・距離が近くなりすぎちゃった幼馴染にもう一度女子として意識してもらおう・初級編~』
『………なんて?』
『女子力最強女子のクレス先生がお送りする女子力講座。今回は、距離が近すぎるがゆえに女子として認識してくれなくなった幼馴染男子に、もう一度女子として認識させるテクニックが盛りだくさんの特別編。あれ、あいつってあんなに可愛かったっけ?って思われること間違いなし。
参加してくれたら初級編までは受講できるけど、相対戦で勝ったら応用編付けちゃう。
さぁ、どうする?』
これこそが、私の秘策。
女子力の低い私だからこそ思いついた交換条件。
このAWOの世界において、最強の名を欲しいままにしているメアリNo.4。
しかしどれだけ対人スキルがあろうと、幼馴染で想い人であるシューくんにはいつまでも気持ちを伝えられずにいる。
それは今の関係を壊したくないって気持ちもあるんだろうけど、結局は自分の女子力に自信がないってところがあるんだろう。
そこで、もし自分の女子力を磨いてくれる人から助言が貰えるとしたら?
しかもピンポイントに幼馴染相手の特別講座を受けられるとしたら?
さらにそれが、中継先に映っていた、同じ女子から見てもその美しさに思わず見とれてしまうほどの人が講師だったとしたら?
これはもう、結論の見えた交渉だ。
『………った』
『え?』
『わかったって言ってんの!』
『ホント!?もうキャンセルは聞かないよ?』
『その代わり、ちゃんとあんたも約束は守ってよね。応用編まで必ず受けるから』
『大丈夫、ちゃんとクレスに言っておくよ』
『別にあんたのお願いを聞くんじゃないからね。交換条件が良かったってだけだから』
『なにそれツンデレ?』
『おばさん相手にデレる必要なんてないでしょ?』
と、一方的にフレンド通話を切られてしまった。
しかし。
「メアリから、出場の確約とれたよ。クレス、ありがとね!」
「って、何話せばいいの?」
「まぁおいおい考えておいて?」
メアリにはあぁ言ったけど、女子力講座の中身なんてまったく考えてなかった。
まぁ、クレスにお願いすれば、ミジンコレベルの女子力しかないメアリにはなんでもプラスになるだろう。
結局のところ、その先上手く行くかどうかは本人たち次第だしね。
「プラムさん、悪い顔になってるよ?」
「そうですか?」
おっと、最近やられっぱなしだったから、ちょっとやり返せると思って、思わず顔が緩んでしまった。
大丈夫大丈夫。ちょっと私情は挟んじゃったけど、戦力としてはこれ以上ない人選だ。
さて、後の一人は?
「きつ禰がいたらお願い出来たんだけどね、まだアカウント停止期間中だから」
「そうですね。一応PKギルドのマスターでしたし、対人戦のメンバーとしては良かったんでしょうけど」
「一応、知り合いに強い人達いるから、声を掛けてみることも出来るけど、どうする?」
クレスに伺いを立てる先輩。
「まぁ別にいいんじゃない?あたしは誰でもいいし」
「あの協力してくれた三人は呼ばなくていいの?」
「そうだ!そういえば今どこに?」
「他の協力してくれた人達のところに説明しに行ってもらってる。
あたしも行きたいけど、今日はちょっと無理かな」
「そっか、結構もう時間も遅いしね」
「っていうか、体調が、ね」
「クレス、体調悪いの?風邪とか」
見ればクレスは目を閉じ、椅子に寄りかかるように座っている。
アバターでそうした所で、現実世界の身体が楽になるわけではないと思うが、多分気持ちの問題だろう。
「あー、ダメだ。後の一人は二人に任せるから、決めておいて。じゃ、また明日」
ぐったりとしていたクレスは、そう言うや早いやそのままログアウトしてしまった。
残された私たちは呆然として、先輩と目を合わして困惑する。
「えっと、どうしましょうか?」
「どうしようか、ね?」
途方に暮れる私たちを余所に、夜は更けていく。




