17.「願い」
聞こえた声は1人だったが、扉の向こう側には多くの人間の気配がする。そもそも、竜を使い魔にした冒険者の元に単独で尋問にくるような馬鹿は、この国の騎士団にはいないだろう。
「……早く裏口から逃げろ!」
隠せない焦りが着々と四人を襲う中、ローサーがそう小声で叫んだ。
「俺1人だけ行きゃあいいんだ! 無実なことが証明されたらいつだって帰って来られる!」
「証拠も空にどうするっての!?」
答えの出ない口論。その間もこちらの理性を削るかのように扉が強くノックされる。早く扉を開けなければ、扉が破壊されるのではと思わせるほどに、すでにここの四人に余裕はない。
ローサーがエンベリラの肩を掴み、右手で屋敷の裏口を指差して急かす。
「いいから行け! 最悪お前が助けに来ればそれで済む話だ!」
出鱈目な思考も、今この時は酷く正論に聞こえてしまう。ベトルが割って入り、またローサーと口論を始める。
エンベリラは、裏口とローサーを交互に見て、視線を泳がせる。エンベリラには、人の世が分からない。今この状況で出せる最善の策など皆無に等しい。だからこそ、ローサーの言った言葉だけが救いに思えて仕方がない。
もう一度裏口の方向を見た時、不安そうな顔をしたドラパがこちらを覗いていた。その視線に、遅れて他の三人も気づいた。ベトル、ローサー、リスプが顔を見合せると、リスプがエンベリラの手首を掴み、裏口の方へ強引に引っ張る。
「逃げるぞ、暴虐竜」
「で、でもよ……」
「でもではない。人間に対する拘束と魔物である我らに対する拘束ではまるで違う。我らだけでも逃げねば、ローサーを助けにゆくこともできぬまま死を待つことしかできなくなるのだぞ」
リスプの言葉に、エンベリラの瞳が大きく揺れる。「それに」とそれでも動けぬエンベリラにベトルが続ける。
「ドラパを守れるのは、あなた達二人なのよ。ここに居れば、ローサーと一緒に連れていかれるかもしれない」
「ドラパを守ってやって」、そう言ってエンベリラとドラパに視線を送る。ベトルの視線を受け、ドラパがエンベリラの服の裾を引っ張る。
「……逃げ仰せろよ、俺の使い魔ども」
もう時間はない。ドンドンと壊されるのではと思わせるほどに強く扉が叩かれている。ローサーがエンベリラたちに背を向け、扉の方へ向かった。




