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パソコンヒモ男  作者: ふじふじ
対決編
36/47

来訪

「来訪」


加藤は英子の名刺をたどって、事務所にたどり着いた。


川崎のはずれ、南武線沿線の名前に鹿が付く駅の近くである。適度に栄え、適度に田舎な感じの街の商店街をまっすぐ進むと川沿いに走る幹線道路がある。駅から徒歩15分ほどの場所である。


「こんなところ初めて来た」


それはそうである。川崎を地元にする人間しか近寄らないような場所プレースである。英子はこの街に住んで、10年。十分地元民である。


古いアパートの階段を上ると目当ての事務所はあった。


なんだか丸文字で「PHOリサーチ」と書いてある。あの飾り文字。懐かしい。iの点をハートマークにするような文字である。英子はバリキャリ風だったが変なところが子供っぽい変わった女性であった。


「相変わらずですね、英子さん」


会社の文書がワープロなので、めったに手書き文字なんてお目にかからなかったが、会社のクリスマスパーティのポスターは、いつも英子が立候補して担当しており、ファンシーな絵とフォントでいっぱいにしていたという。


呼び鈴を鳴らす。今時珍しい「ジジー」と音がする呼び鈴である。おそらく外国製のインターフォンから男の声が聞こえてきた。


「はい」

「すみません、私、連絡した加藤ですが」

「加藤さん、お待ちしておりました。今開けます」


ガチャ、バシュー。


ドアが開くと目の前に男が立っていた。


「どうぞ」

「こ、これは一体」

「かっこいいでしょう?アキハバラで見つけたんです。地球防衛軍風ドア音」

「はぁ」


男は事務所を案内した。


所狭しと置いてあるパソコン類。すべては完璧に結線され、壁にいくつも積み上げられている。ネットワークランプがチカチカと点灯し、スイッチングしている。モニターは軽く10面ぐらいあって、いずれも真っ黒な画面に文字がスクロールしている。


「こ、これはいったい」

「あははははぁ、やってしまいました。会社で経費を使っていいと言われたので、部屋一面の電脳コンピュータ

「こんなPCを並べて何に使うのですか?目が回りそうです」

「ええっ、何にって、パソコンするんですよ」

「パソコンする?」

「ええ、そうです。パソコンを、する」

「よくわかりませんが」

「なぁに、そんなに高い機材ではありません。ほとんどが業務用の中古、気になるのは空調代ぐらいです」

「あぁ、はぁ」


加藤はこの男と関わらないほうがいいと判断した。英子を待つまでの間、適当にやりとりして、時間を潰そう。


「ところで英子さんは」

「ふふふ、そうですね、英子さんは、ここ3日こちらに来ていません」

「ええっ」

「だって1日でもいられたら、こんなPCのウォール、作れませんから」

「いや、もうそれはいいです。今日はいらっしゃるんですか?」

「もうすぐくると思いますよ」

「この光景を見たら驚くでしょうね」

「さぁ、どうでしょう」


しばらくするとカンカンとアパートの階段を上がる音がした。合鍵で鍵を開けると英子が入ってきた。


以前会った時よりこざっぱりした格好をして、綺麗な女性という感じになっている。ほほう、会社がうまくいって素敵に…。


「なぁによう、あのクライアント、話にならないわ。調査費の話をした途端ビビっちゃって、’今立て込んでるのでまたの機会に’ですって、私がどんだけ苦労して計画作ってると思ってんのよぉ、たかだか数十万の予備調査費もないなんて、タダの仕事なんてあるわけないってのよ、バカなの?バカなんでしょう?せいぜい’お母様’からお小遣いもらってからいらっしゃいってのよォ、あら、あんた誰だっけ」


「な、なんだか随分、感じが変わりましたね、そこかしこ、英子さん」

「なんだ加藤か、客かと思ったわよ」

「い、いや、一応位客なのですが」

「そういや連絡もらってたわね、今日だったのねって、よく見たらこの部屋なんか随分変わったわね、サブローさん」

「ええ、レトロフューチャー風のインテリアにしてみました。ミッドセンチュリーというヤツです。最近、さよりんが凝ってるんですよね。イームズをご存知で?」

「ゴマかそうったってそうはいかないわよ。何がミッドセンチュリーなのよ。ここは滝の上じゃないのよ。川崎のはずれのアパートの二階。それにイームズの椅子が、こんなチカチカするわけないわよ」

「ほほう、それでは英子さん、これをなんだと?」

「パソコンでしょう?もうそれはいいわよ。サブローさんの事業で使うんだから。これ、高かったの?」

「さすが英子さん、話が分かりますね。さほどでもないです。これ、領収書です」


サブローはたくさんの領収書の束を英子に渡した。


「いい、サブローさん。こんど大量に買う場合は仲介業者を使って。こんな領収書、処理するだけで丸一日かかるわ」

「わかりました」

「ああ、それでごめんなさい、佐藤、さんだったわね」

「わざと言ってますよね、それ」

「そうなのよ、そうなの」

「ひどいじゃないですか」

「だって関わりたくないんだもの、爆発とかに」

「そんなのダメです。英子さんには私の無駄になった3年間の元凶になった事件の真相を調査してもらいたいんです」

「だってそれは警察が」

「警察なんてあてになりません。だってなんの罪もない僕を逮捕する連中なんですよ」

「でも、私とても今忙しいのよ」

「嘘ですよ、さっき仕事を蹴られたって言ってたじゃないですか」

「あんたもどうせ同類なんでしょ?」

「200万」

「えっ?」

「前金で200万。成功報酬で500万ではどうです?」

「ちょっ、ちょっと本気なの?どこからそんなお金が?」

「それはむろん…、ママからです」

「素敵なお母様!!」

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