惣菜
7 復活
英子の元に後日メールで送られてきた調査項目はITを中心に予想外に多岐にわたるものであった。
サブローに得意の分類わけしてもらい、なんとか調査計画を作ることができた。サンプルで何か手付け作業が発生するかとも思ったが、そんなことも言ってられなかった。即調査実行して、一時評価してもらったほうが良いと判断した。
英子は契約書のやりとりを交わして、仕事を受注した時には、信じられない気持ちだった。
前後期あわせて2,000万円の大口受注。さらに調査経費は別途なので、出張も含む取材も可能である。
とにかく、これでなんとか給料も出せるし、活動資金もできた。事実上、会社のスタートである。事務所でささやかな受託祝いを行った。
「よかった、よかったわぁ」
「ほんとね」
3年ぶりにギバンシーのスーツを新調し、小綺麗になった英子の姿を見てみんなそう思った。
「いやぁ英子さん、素敵です」
「サブローさん、ありがとう」
「前はなんていうか、悲壮感があったわよね」
「それに被害者妄想っていうか、そういうのも」
「英子ってこんなワガママでめんどくさい女なんだって思ったわ。正直友達やめようかと何度も思ったし」
「会社とか言われた時も、何それ勘弁してって思ったわよね」
「そうそう、全然仕事ないし、このまま借金の肩代わりとか言われたらどうしようかと」
「あんたたちは、酷いわ…」
しかし今の依頼主が継続的な得意先となれば、来年度の契約も期待できるし、調査内容を評価されれば、得意先も増えるかもしれない。そんな期待すらある。
「いよいよ、私たちの再出発よ!」
それから数ヶ月は、調査取材や調書の作成などであっという間に過ぎた。榊原の会社、アディオスから受注した主な調査と、サブローが立ち上げたレトロPCの問い合わせで事業はようやく黒字であったが、順調に推移していた。調書もとても良くできていると評価を受けた。
〜
英子が仕事帰りにスーパーによると、安売りコーナーに目が行った。そこにはかつて自分がよく買ったものが並んでいた。
「半額惣菜…」
なぜ、人は貧乏になると食費を削るのか。部屋だって携帯だってタバコだって削れるものはたくさんあるのだから、食費ぐらいなんとか保持していればいいのに。
英子は半額の白和えを手に取ると、横に並んでいる18時以降製造の定価のものと比べた。
「味は同じよね、正直。同じものが半額なんだもの、半額のものを買うのが普通よね」
しかし、本当にそうなのか。
「でも別に…白和えが食べたいわけでもないのよね。結局それって無駄遣いだわ」
その通りである。貧乏な人間からそれなりにお金をせしめるために、惣菜半額セールはあるのだ。本来なら廃棄するものを半額にしてあたかもお得であるかのように貧乏人からお金を剥ぎ取っている。そして買った者は半額惣菜依存症になり、どんどん怠惰になる。
本当は自ら行動したり人付き合いの中で助け合いをしたりするほうがコスト安につながるのだ。
しかし安すぎる惣菜はそれをやらせなくする。
孤独でもなんとか一人でやれそうな気を起こさせるのだ。
でも、世の中に半額惣菜以上に安いものなんてそうそうない。
結局のところ社会で生きる以上、他人と同じことをしなければいけないことはたくさんあり、それを協力して行えないものは結局高いコストをかけなければならなくなる。
そしてまた、また自然と半額惣菜に手を出してしまう。
この繰り返しである。
バッドスパイラル。
半額惣菜を止めるだけでそれを断ち切れるとは言えないが、そもそも月に数千円の違いがなんだというのだ。という事に気づく事が大事である。
「結局一人で貯めてしまったから3年間もうだうだしてしまった。ちゃんとみんなと協力すれば良かったのね」
英子はようやくプライドを捨て、大事なことに気づいたようである。
〜
時を同じくして、加藤が無罪放免で出所した。
加藤は真っ先に映子の事務所を訪れようと思っていた。まだわからぬ真犯人を突き止めるため、この3年間の無念を晴らすため、何かきっかけを掴まなければならない。それには当時、の当事者で調査会社をやっている英子が最適に思えた。
全くその通りである。
ここ最近の忙しさから、英子の中に例の爆破事件のことはすっかり頭からなくなっていたのだが、やはり運命はそうさせてはくれないのであった。
そう、そもそもの原因であるあの事件はいずれにぜよ、解決しなければならないものなのだ。




