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パソコンヒモ男  作者: ふじふじ
復活篇
34/47

依頼

榊原の在籍する会社、アディオス・コンサルティングは東京にあった。アディオスなんてなんだか二度と会いたくないみたいな会社名だ。何度も見直したが、そういう名前だった。


翌朝、英子はサブローと待ち合わせると本社のある市ヶ谷に向かった。小さい会社で、支社などはないようであった。あのスケールの大きい仕事をしたがった榊原にしては意外な気がした。


事前連絡して、榊原に会いたい旨伝えたところ、快く承諾してくれていたため、少し気楽に電車に乗っていた。


「英子さん、なんかいいことあったんですか?」


サブローは久しぶりに深刻ぶっていない英子を見て、そんな風に声をかけた。


「いえ、なんだか少し動けるようになって、気が紛れているというか、そんな感じなの」

「榊原さんから仕事もらえるといいですね」

「そうね。何も考えていないのに仕事の依頼がくるわけがないけれど、何かきっかけでもつかめればって思うわ」


市ヶ谷から歩いて5分ほどのところにオフィスはあった。いいところ50人ぐらいの所帯の会社のようである。受付も簡素に電話のみに省略されていて、一見さんは来れないような会社である。


「P&Hリサーチの伊澤です。本日榊原さんとお打ち合わせの予定です」

「どうぞ」


「英子さん、社名ちゃんとつけていたんですね」

「昔テキトーに考えただけ。うっかり忘れそうになっていたわ。そのうちいい名前に変える」


ドアが開くと、やけに若い社員が会議室に案内をしてくれた。こんな小さな会社に新卒で入ったのだろうか。いったいどういう採用なんだろう。スカウトなのか?


会議室に入ると、懐かしい榊原が待っていた。


「やぁ!英子くん!久しぶりだなぁ!HAHAHAHA。君が退職してから音信不通になっていたので、随分心配していたんだよ」

「お久しぶりです。榊原さん」

「今は何をしているんだい?」

「小さな調査会社をやっています。こちらはパートナーの中野です」

「中野です。宜しくお願いします」


サブローが名刺を渡すと榊原は何かに気づいたようだった。


「中野三郎…サブロー、ああ君が!」

「お会いしたことありましたっけ?」

「何時ぞやか、英子くんがお世話になったと言っていた人だろう?あの件はよく覚えているよ。パートナーということは…、彼と夫婦にでもなったのかい?」


「え?ま、まさか、いえいえいえいえいえいえいえ」


英子は真っ赤になって否定した。


「英子さんとは私の妻の元ご同僚というツテで、一緒にやらせていただいております」

「そうなのか、となると英子くんは相変わらず…」

「ええ、私は独身です。それはいいんです」

「よくないだろう!君みたいな美人で才能のある人間がいまだに一人というのは、日本という国もどうなのかと心配になるな」

「いえいえ、そこまでおおげさな。私は周りが見えていない仕事バカでした。退職してからはいろいろ…苦労しました」

「そのようだね、たしかに…人間に…深みがあるような雰囲気があるよ、HAHAHAHAHA、ま、座って」


促されててソファーに腰掛けると榊原は聞いてきた。


「で、今日はどのような用事だったのかな?」


「ええ、3年前のSAE社の事件を覚えていますか?」

「ああ、あのオフィスにBombボムが仕掛けられた事件かな」

「それです。あの時に犯人として捕まった当時の私の部下、加藤が釈放になります」

「ほーう?」

「結局あの事件のせいで私も退職に…いえ、それはいまは良くて。私、加藤にあってきたのですが、それによると、彼には、犯人に心当たりはないと言っているのです」

「心当たりがないのであればなぜこの話を私に?」

「当初、かれは何者かに嵌められたと考えていました。そこで疑っていいたのは、私と、榊原さんなのです」

「私も、あの事件で、事情聴衆を受けたよ。彼が名指しで私を指名していたみたいでね」

「彼としては単に消去法で、私か、榊原さんだろうと思っていただけで、無作為だとは思っていなかったというだけのようなのです」

「そうだね、犯行の手口から行って、身内の者と考えるのが自然だからね」

「ただ、3年前といえば、もうSNSは一般的でしたし、そのハッキングも横行していた時代ですから、全くの第3者が我々のログを操作していた可能性もあるのです。なにせ、加藤にも、私にも、榊原さんにも誰にも動機がありません」

「うーむ。そうなると、誰が真犯人か、たどるのは難しそうだね」

「サブローくんも同意見なのかな」

「たまたま私もあの時、爆弾処理の支援をしました。あのPC自体はどこにでもあるもので、特段、SAE社のものだったわけではなさそうです。よくある形で、起爆装置も単純でした。パソコンの知識があればある程度組めますね」

「ただ、どうやって社内に侵入したのか?まぁこれも業者の顔をしていればわからなかったかもしれません」

「防犯カメラは?どうだね」

「残念ながら、加藤がほぼ現行犯逮捕されてしまったので、詳しい解析は行われていません」


「なるほど…。ますます難しそうだ。今後が気になる話だな。ところで、英子くん。私に用というのは、その事件の内容を共有が全てというわけではないのだろう?」

「え、ええ、実は…私どもが何か調査系のお仕事のお手伝いができないかと…」

「リサーチ会社をやっていると言っていたね」

「ええ、半年前に立ち上げたばかりですが、スタッフはいいメンバーが揃っています。初回は無料でも構いませんので、秘密保持契約を提携して、何かを依頼をいただけないかと」

「ほう、どのような調査を得意と?」

「IT、クリエイティヴ系、各種市場調査を得意としています、記事も承りますし、出版の管理も…」

「そうかわかった。ほかならぬ英子くんの頼みだ、私がいくつか見繕おう。いくつか案件があるし、過去未解決で放置されているようなものも多数ありそうだ。こちらとしても人手があるぶんにはおおいに歓迎だよ」

「ほんとですか!ありがとうございます!」

「おやおや、英子くん。なんだか今日ここにきて一番いい顔をしているね。先にこっちの話をしたほうがよかったかもしれないね、HAHAHAHAHA」

「ほんと…。うっ、うっ」

「英子さん…英子さん…」

「ご、ごめんなさい。それではこちらから契約書の下書きをお送りしますので、宜しくご確認お願いします」

「承知した。必ず連絡するよ。先ずはこちらからの調査依頼事項を一覧で送るので…」

「はい、リサーチプランをご提示します」

「英子くん、あいかわらず仕事ができるね」


英子とサブローはアディオスのオフィスを出た。英子はエレベータでハンカチを顔に当てていたが、オフィスを出ると、とうとう泣き出してしまった。


「英子さん…」

「うっうっ、もういいわ、私一人で帰る、うっうっ。落ち着いたら連絡する、うっうっ」


英子は市ヶ谷から川崎へ帰る間じゅう、ずっと電車で泣いていた。声に出なくても勝手に涙が流れてくるのだ。事務所に着くと、誰もいないのを確認してから大声で泣いた。

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