集結
4 「よりあい」
「あたしは、5時に自由が丘のカフェを指定したはずなのだけれど?」
金曜の夜8時、一行はなぜか新橋の焼き鳥屋に集結していた。英子とさより夫妻が3年前、初めて顔を会わせたあの店である。金曜日の夜ということもあり、狭いテーブルしか空いておらず、ぎゅうぎゅうに座る中、タレ焼き鳥がたくさんテーブルに並んでいた。ちなみに90分ラストオーダー、2時間で入れ替え制だそうである。
「なんで、こんな狭いテーブルで盛り合わせ二つも頼むのよ、しかも全部タレ」
さよりはブーブー文句を言っていた。
「いや、争点はそこじゃないの。なんでカフェでの密会の予定が、こんな騒がしい焼き鳥屋になってしまったのかってことよ!」
英子は大声で言った
「英子さん、ちょっとうるさいわよ、そんな大声じゃなくても’私は’聞こえるわ」
絵美はそういうと、焼き鳥を串から外して、マッキンブックの脇から一個一個箸で掴んで食べ始めた。
「あんた、そのパソコンしまいなさいよ、ただでさえ狭いのに酒が溢れるじゃない」
「パソコンじゃないわ、マッキンよ。あなたこそ、子供がお腹にいるんじゃないのかしら。さっきからレモンサワーをたくさん注文しているみたいだけれど?」
「子供に栄養を与えてるのよ。あと、クエン酸は体にいいのよ?」
何もかもが間違っている。なぜこのような事態になってしまったのか。
英子は三人に5時に自由が丘のカフェに来るように指示を出した。ところが約束の5時直前になって、絵美が仕事で抜け出せないといい始め、サブローからも連絡があり、さよりの支度が遅れてチケットを取りに行くのが夕方過ぎになりそうだということになった。そんなことでどんどん時間が遅れてしまい、せっかく四人集まるのだからということで、食事をしようということになった。秋葉原に勤める絵美の職場から比較的近いところということで、場所は新橋になった。かつて銀座に勤めていて新橋に土地勘があるさよりがこの焼き鳥屋を指定してきたということである。
「まったく、こんな所じゃろくに話もできやしないじゃない。せっかくのあたしの計画が…」
英子がそういうとさよりはすかさず返した
「だって、英子、昨日の感じからすると素面で面と向かって怖い説教とかしそうだったんだもの」
絵美も続いて
「そうね、なにか追い詰められていたって感じだったわね。脅迫めいたことも言っていたし、あれは見ていてちょっと痛々しかったわ」
英子は言った
「その両方をする予定だったのよ!サブローさんをネタにしてね!ってサブローさんは?」
「ああ、秋葉原で機械を選定しているわ、2台更新するんだって。すごいわよね、5時からずっと秋葉原にいるんだから。あんなところわたし5分もいられないのに」
「あんなところとは何よ、今や秋葉原は世界有数の観光街でもあり、ビジネス街よ。こんな小汚い焼き鳥屋じゃなくて、素敵な店もたくさんあるんだから。アキバヨドに」
「アキバヨドね、あそこなら辛うじて行けるわね。でも広すぎて疲れるのよ」
「ああ、もうやめてやめて。新橋と秋葉原の街disり合戦をしにきたんじゃないの。これからの私たちの関係について、わたしから計画発表があるのよ」
さよりと絵美はさして興味もなさそうに返事をした。
「ふーん、説教しない?」
「そう、脅迫もなしよ」
「なんでよ、せっかく準備してきたのに」
「うわ、このために準備だって、執念深っ」
「これね、このせいで落ちたわね、この女は」
「昨日徹夜して作ったのに?」
「説明しながら泣かれても困るし。英子、すぐ泣くんだもの」
「そうそう、脅迫とかキャラじゃないっていうか」
英子はおもわず分厚い計画書を鞄にしまいそうになった。
なにせ計画の中心になるサブローがこの場にいないのだ。
「サブローさん!助けて!」
そう思っていると、程なくサブローが店に現れた。手にはなにも持っておらずパソコンは買わなかったようである。なにをしに秋葉原に行ったのだ。サブローは店主に声をかけた。
「待ち合わせなんですが?」
「あ、ダンナ、そっち狭いんで、しばらくカウンターでいいですかい?」
「……」
「…いやいやいや、ダメよ、サブローさん、立って飲んで。いや、あなた座って。私が立つわ」
英子は席を自分の席をゆずると、すっくと立って自信満々に鞄から分厚い仕様書を取り出して話し始めた。
「これから、私たちのこれからの活動計画を発表します」
「お客さん、そろそろ食べ物ラストオーダーなんですが…」
「事情により最初の80ページは割愛します!」




