処理
19階。真っ暗なオフィスの明かりをつけると、英子は自分のデスクを指差した。
「あそこ、あそこらへんよ」
「いや、伊澤さん、全くわかりません」
「ほら、あのぬいぐるみがあるデスクがあるでしょう?」
「あのぬいぐるみが英子さんのですか?」
「いえ、私のデスクにはなにもないわ、いやなの、あの手のものを机に置くのは」
「今、それが仇になりましたね伊澤さん、全くわかりません。もうちょっと近くによっていただけますか?」
「こわいよう、いやよう」
英子は泣きながら柱にしがみついていた。
「では私が行ってきます、デスクの近くに行ったら声かけてください」
サブローがそう言うと、英子が止めた。
「ダメよサブローさん。あなたに何かあったらさよりに殺される」
「ではどうするんですか」
「わかったわよう、近くまで行く、近くまで行くから」
英子は半泣きになりながら、サブロー、爆弾処理班と共に英子のデスクまで向かった。デスクはフロアの中程で、先ほどのぬいぐるみとは全然違うところにあった。
一行が英子のデスクのそばまで行くと、なにやら四角い鉄の塊のようなものが床に置いてある。処理班が声を上げる。
「あっ、アレは」
サブローが言う。
「あれってあれですか?」
処理班が言う
「そう、あれが爆弾では」
サブローが言う
「いや、あれは…パソコンですね。HPC社のデスクトップ。英子さん、英子さんの会社ではフロアにデスクトップパソコンを?」
「置かないわ、あんなものなかった」
「英子さん、犯人に聞いてみてくれませんか?」
「何を?」
「どんな爆弾かです」
「そういえば、犯人にはあれから何も言ってなかったわね」
「何か入ってるかも」
英子はスマホを取り出すと、LIMEを立ち上げた。何十通もメッセージが入っており。全てが犯人からのものだった。
ガイアの夜明け:「そろそろビルについたか?」
ガイアの夜明け:「まだか?」
ガイアの夜明け:「連絡を待つ」
ガイアの夜明け:「おーい」
ガイアの夜明け:「どうしたんだ?」
ガイアの夜明け:「爆発するぞ?」
ガイアの夜明け:「今するぞ」
ガイアの夜明け:「早く、早く」
ガイアの夜明け:「いい加減返事しろ」
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英子は絶句した。
「…ずっと無視してたみたい。とにかく連絡してみるわ」
A子「今、それらしきものの近くにいるけど」
A子「みんな言ってるわ」
A子「あれはパソコンでは?って」
しばらくするとメッセージが上がった
ガイアの夜明け:「そのとおり、パソコンの筐体を使った爆弾だ」
A子:「爆弾なのね?」
ガイアの夜明け:「そうだ」
A子:「パソコンではなく」
ガイアの夜明け:「爆弾だ、ふふふふ」
A子:「そのあなたの、"ふふふふ"ってのは」
A子:「わざわざ打ってるのよね、LIMEに」
ガイアの夜明け:「ふふふふ、そのとおり、爆弾だ」
英子は不毛な受け答えを無視すると続けた。
A子:「で、どうやって解除するの?」
ガイアの夜明け:「まずパソコンの筐体を開ける」
A子:「パソコンじゃないの?、やっぱり」
英子は叫んだ
「パソコンの筐体を開けるのだそうです!」
サブローが受け答え、処理班に指示する。
「なるほど、HPCの筐体は…あ、そこの横。そうそう、両側にポッチがありますので、そこを押してください。そうすると、あ、開きました」
A子:「開いたわよ」
ガイアの夜明け:「冷却フィンの付いているCPUクーラーを外すのだ、ふふふふ」
英子が叫んだ
「CPUクーラーを、外すのだそうです!」
サブローが少し嫌な顔をして処理班に言った。
「いやらしいですね」
「いやらしい?」
「いや、きっとネジが」
処理班が言う
「特殊ネジだ」
サブローが言う。
「あ、やっぱり」
ガイアの夜明け:「ふふふふ、CPUクーラーは、特殊な形状のネジで…」
サブローはすかさず、内ポケットからトルクスレンチを差し出した。
「トルクスネジですね。これ、使ってください」
「あ、ありがとうございます」
サブローがレンチを渡すと、ネジはすぐに外れた。サブローが英子に向かって叫ぶ。
「英子さん、外れました」
ガイアの夜明け:「ふふふふ、そのネジを外すには特殊な工具が必要なのだ」
英子:「外れたわよ」
ガイアの夜明け:「なに?!、ちゃんとCPUは見えたのか?」
「CPUが見えたか聞いてるわよ?」
「見えてますね、これは安い方のCPUです」
A子:「安物のCPUが見えてるわよ、で、どうすればいいの?」
ガイアの夜明け:「元に戻す」
A子:「え?」
ガイアの夜明け:「元に戻すのだ」
A子:「関係ないんでしょう?そうなんでしょう」
ガイアの夜明け:「…」
しびれを切らしたサブローは筐体を覗き込むと、処理班とやりとりを始めた。
「シリアルATAの電源から、HDDに繋げているところが、見た感じ変ですね、あ、HDDが爆弾になってるのか。だとすると、この線ですね。この線を抜けば平気みたいですね」
「えっ?、どれですか?」
「これです、あ、抜いちゃった。これで止まったんじゃないですかね?」
「タイマーはまだみたいです」
「ま、でも実質、爆弾に行く電線、抜いちゃいましたからね。タイマーは…ああ常時電源か。やるんならまず…これで止まるんじゃないですかね?」
サブローは電源ケーブルを抜いた。処理班とのやりとりを続ける。
「あ、消えた」
「ちょっと帯電してるかもしれないので、30秒ほど待って」
「あ、このソケットですか」
「そうですね、それです」
「タイマー、もう止まってますけど、念のためって感じですかね」
「そうですね。そろそろ抜いて平気かと」
「あ、はい、抜きました。あ、通電、なくなりました。完全に大丈夫ですね」
「さすが処理班の方、処置が早いですね」
「いえいえ、恐れ入ります」
英子はまだひたすらLIMEをやっていた。
A子:「緑なの?緑なのね?」
ガイアの夜明け:「くくくく、そう見せかけて赤、赤を切断するのだ」
A子:「どっちなの?どっちなの?」
「ああもう、爆発しちゃう、怖い!怖い!怖い!」
「英子さん、終わりました」
「へっ?!」
サブローと処理班は爆弾の残骸を残して作業を終えていた。
「あとは撤去の専用班がやってくれます」
「英子さん、さっきからスマホで誰と話してるんですか?」
「犯人よ。緑を切れって。サブローさん、どっち切ったの?」
「あ、ソケットごと抜きました」
「え?」
「ソケットになってましたので、切らずに抜きました。切るとショートする可能性もありますのでね」
「じゃあ、今の私のこのやりとりは?」
「あ、もう結構です。ありがとうございます。終わりましたので」
「そ、そうなの…」
英子はその場にへたり込んだ。サブローがすかさず支えてくれた。
「英子さん、素晴らしい勇敢さでした。おかげでこの場は解決しましたよ。あとは犯人逮捕を警察に任せましょう」




