爆弾
11 爆破
「ば、爆弾!?」
途方もない話に英子はめまいがした。海外では連日テロの話題が世間を騒がせているが、ついにこの日本にまで、その手が。たしかにドイツに本社を置く、英子の企業は狙われやすいかもしれない。でも、もともと小さな会計事務所からスタートした歴史を持つ自分の会社が日本の第一ターゲットなんて、何かおかしい気もした。
「まってサブローさん、その情報はどこから仕入れたの?」
「わたしのLIMEのタイムラインに流れてきました、英子さんもグループに入っているかもしれませんよ」
「えっ?」
英子はカバンからスマホを出すとLIMEを立ち上げた。サブローからの着信と、サブローと英子をグループにしたメッセージが何件か入っている。中を開いてみた。
ガイアの夜明け:「ふふふふ、これから爆弾を仕掛けるでし」
ガイアの夜明け:「爆弾はお前の机の下にしかけるでし」
ガイアの夜明け:「おっと、おもちゃだとおもうなよ、2日徹夜して作った俺の傑作でし」
ガイアの夜明け:「ふふふふ、これでおまえはおわりでし」
この語尾、け、加藤、怖っ、でもなんでサブローさんのことがあいつにわかったのだろう。しかしあいつはいったい何日徹夜してるのだろう。寝ろ、加藤。
「あっ」
電話帳か。この間も電話帳を登録したら勝手に入ってしまった。加藤はどこからかサブローの名前を社内で聞きつけ、今回の脅迫を行うに至ったのだろう。英子はタイムラインに書き込んだ。
A子「加藤、あんたなんでしょう?、変なことすると警察に通報するわよ」
するとすぐさまタイムラインに返事が
ガイアの夜明け:「ふふふふ、爆破して欲しくなければ、今すぐサブローとやらを連れてオフィスに止めに来るんだな」
英子はさらにすかさず、返事を出した
A子:「いやよ、危ないじゃない。今すぐ警察に連絡して取り外してもらうわ」
ガイアの夜明け:「ふふふふ、それはできない」
A子:「なんでよ」
ガイアの夜明け:「…定期連絡は以上だ」
A子:「誤魔化したってダメよ」
一通りのメッセージを見たのか、サブローが電話口で話しかけてきた。
「英子さん、オフィスはどこですか?」
「銀座よ、パシフィコセントラルビル」
「とにかく行ってみましょう」
「ダメよ、危険だわ。まず警察に通報を」
「おそらくですが」
「なに?」
「これはパソコンのトラブルの匂いがします」
「そんな馬鹿な」
「とにかく1時間後にビルの下のロビーで、社員証、ありますか?」
「もってるわ。でも警察にはわたしから連絡を、でないと休日はビルの中には入れないわ」
「わかりました」
ポカンとする女子二人を前にして英子は言った。
「さっそく…、パソコンのトラブルみたい」
「英子、気をつけて」
「サブローさんを死なせないでね」
警察とともにセントラルビルの下にたどり着いたのは、約1時間後だった。サブローはちょっと前に来たとのことだったが、いつになく興奮しているようだった。
「いや、英子さん、このビルは完璧ですね。映画の"ナカトモビル"みたいです」
「なによそれ」
「外国のギャングが、ビルを占拠して一人の刑事が立ち向かう映画、見てません?」
「ああ、昔の映画ね、まだ続編を作ってるとか。わたしアクション映画はあまり観ないのよね」
「わたし、あの映画の大ファンで。いやはや、まさか同じようなシチュエーションが自分に来るとは思ってもみませんでした」
「そうね、わたしもそう」
「ごほん、ごほん。お二人とも、これはいったいどうゆうことなんですかね?」
割って入ったのは小太りの警察官ではなかった。日本の警察は勤務中においそれと飲食しないのである。
「いや、わたしの同僚が、わたしのデスクに爆弾を仕掛けたから、止めに来いとLIMEで言っているのです」
「タチの悪い冗談では?」
「わかりません、ただ、爆弾は2日徹夜して作り上げた傑作だとか」
「2日?たった2日?、もうそれこそ嘘みたいな話ですね」
「そんなこと、私は分からないわ」
「とにかくですね。処理班を送りますので、同行願ってデスクの場所を教えていただけますか?」
「えっ?!、わたしも行くの?」
「図面、お持ちではないんですよね?」
「ええ、ないわ」
「では、どのように?」
「私が案内図を描いて…」
「伊澤さん、事態は一刻を争います」
「わかってるわ」
「ご協力お願いします」
「いやよ、爆死なんていや」
「あなたは、処理班なら爆死しても良いと?」
「そんなこと言ってないわ、私が死ぬのが嫌なの」
「英子さん」
会話を遮るようにサブローが割って入った。
「私も行きますので、一緒にオフィスに行きましょう」
「サブローさん…」
「早くしないと手遅れに。大丈夫です、皆がついています」
「いや、絶対に嫌。爆死なんて嫌なの」
「英子さん、私も察するに、2日では機械や爆薬の調達も考えると、到底大規模なものは準備できません。オフィスの入り口まででいいですから」
「わ、わかったわよう、入り口までね?、入り口までだからね?」
英子は芸人の仕込みみたいな台詞を言うと、しぶしぶオフィスまで同行することにした。




