供給
10 サブローとは2
「ふふふん、それだけじゃないわ」
絵美は続けた
「今は英子さん、あなたや、そこにいる小動物のようなサンプルしかないけれども」
「だれが小動物よ」
さよりが食ってかかったが、絵美は構わず続けた。
「この人たちのパソコン問題はいつか枯渇する」
「そりゃそうよ、だって私たちだってそんなにパソコン持ってないもの」
「そうよね、でもあなた達のようなIT関連の仕事をやっているような人たちは彼にとっては’コロニー’と言っていいわね」
「コロニー?」
「そう、パソコンの問題や課題がつねに吹き出す活性層よ」
「なんだかさっきからバイキンみたいな呼ばれ方で納得できないわ」
「でも、その活性層で起こっていたこともいずれなくなっていく…、その時が」
「その時が?」
「彼が去っていくときなのよ」
「えっ?」
さよりは驚いた。
「私がかつて彼に仕事を斡旋したことは話したわよね、英子さん。私はパソコン以外の仕事で働いて欲しくて仕事をあてがおうとしていた訳ではないの」
「どういうこと?」
「それ以上に彼を失いたくなかったのよ。でもそれは叶わなかった。何故なら、彼はパソコンの問題を解決することしかできない人だったのだから。パソコンの問題がなくなれば、彼は近々、私たちの元を去って行くわ」
「ダメダメ、そんなの絶対ダメなんだから、あたし達結婚するんだもの」
「小動…さよりさんだったかしら?私だって彼と結婚しようとしたのよ?…あぁでももうそれはいいの、今は彼の…才能だけを…利用してやるんだからぁぁぁぁ、はっ、ごめんなさい」
「落ち着いて、絵美さん」
「私としては、彼の能力を安定して使えるようにするのが望み。そこで例の過去、たくさん問題を解決した要因の二つ目よ」
「二つ目?」
「そう、彼は常にパソコンの問題を抱えている女性を求めている。彼をつなぎとめるにはそういう女を探すしかないわ。かつての私の会社の女性達のように、ふっ」
「あなた、かつての同僚の女性の問題をサブローさんに当てがっていたというわけ?」
「ええ、そうよ。わたしは彼と離れないためならあらゆることをやったの。そして英子さん、この役割は今の場合あなたみたいな女性が一番都合がいいわ」
「えっ?」
「私は彼を利用したいという、かつての公私のパートナー。そしてここのさよりさんは、今現在彼と結婚したいと考えている恋人という立場。私たちではなかなか安定的に自然なパソコンの問題を供給することは難しいわ」
「私にそれをやれっていうの?」
「そう、英子さん、少なからずあなたはサブローさんに好意を感じているんでしょう?しかもあなたは、わたしのように彼を利用しようと考えていたり、さよりさんのように彼に恋愛感情を抱いている訳ではない。あったとしても、それは恋愛ごっこ。'スイーツw'だから」
「なによ、それ。何か腹たつわね」
「あなたには、彼にパソコン問題を抱えた女をあてがうでも、パソコン問題をあてがうでも構わない、要するに常に彼のパソコン問題が枯渇しないようにして欲しいのよ、そうすれば」
「そうすれば?」
「わたしたちはWIN WIN WINの関係になれるわ」
「……バカバカしい」
「なんですって?」
「あなたのそのゲーム脳妄想には少し感心するけれども、しょせんはお遊びの仕組みを作る人ね」
「私の作戦のどこに不満があるというの?」
「肝心のアルゴリズムがないわ」
「えっ」
「最初にあなた言っていたじゃない。’なぜ、私たちがサブローさんに魅了されてしまうか?’よ。あなたの話していることは全て資源供給の話だわ」
「たしかにそうね。私は肝心なことを解明できていない」
「でも」
「でも?」
「それを一番知りたいのはあなたじゃなくて?英子さん」
「わたし?」
「そう、私やさよりさんは、彼の何らかに恋してしまった人間よ。そんなこと冷静に分析できるわけないし、する必要もない。そうじゃない?」
「わかった。わかったわ。私だって、彼にいなくなられたら寂しいし、親友のさよりが苦しむのもみていられない」
「英子…」
「しばらくは私の身の回りで起こるパソコンの問題やらなんやらを探せばいいんでしょう?
ただし、この三人のうち、誰かが満足のいく結果が得られたら、その時点で終わりよ」
「ええ、私たちもできるだけ協力するわ」
「わたしたち?」
「なにを言ってるのさよりさん、あなた、結婚したいんでしょう?全力よ、全力」
「わかったわよう」
三人の合意形成を待っていたかのように、さよりの電話に着信がきた。サブローからだ。なんだろうか、少し遅れるとかそういうことだろうか。だが、さよりは電話に出ると、すぐ、英子に電話を渡した。
「サブロー君が、英子に緊急の用事があるって」
「え?何かしら」
電話の先には息を切らしたサブローの声が聞こえた。
「え、英子さん、た、大変だ」
「どうしたのサブローさん」
「英子さんの会社、SAE社のビルに爆弾が仕掛けられたみたいだ」




