正体
9 「サブローとは1」
「というわけで、それと言うのも、サブローさんのおかげってわけ」
英子が嬉しそうにそれまでの経緯を締めくくると、絵美とさよりは顔を見合わせて笑った。
「何よ、何かおかしいの?」
さよりは言った
「だって英子、私たちと同じこと言ってるもの」
絵美が続けた
「この女も、ようやくサブローマジックを前にして堕ちたというわけね」
今日はさより、絵美とで自由が丘のカフェに集まっていた。英子はサブローにお礼を言いたかったのだが、彼は秋葉原に新しい機械を買いに行くとかで、後で合流となった。
「ところで絵美さん」
「はい」
「なぜ今日も呼ばれてもいない、あなたがいるのかしら」
「最初にあなたに言ったはずよ、英子さん」
「私はあなたたち二人の破滅を見守って、あの男に復讐するつもりだと」
「何よ破滅って、縁起でもない。それに復讐って何のことよ。そんなこと言ってたっけ?」
「確かにこの間はつい地が出てしまったので、そこまでは言ってなかったかもしれないわ、ふふふふ。それにしてもあなたたち不思議に思わない?」
「何が?」
「あの男がなぜ、私たちの心を掴むのか?よ。パソコンに詳しいから?優しいから?アドバイスが適切だから?それとも彼のいるようなポジションが世間に必要とされているからかしら?」
「うーん、確かにパソコンには詳しいけれども、今まで起こったこと、どれもこれも何か偶然という感じがするわね。たまたまパソコンのトラブルが重なっただけで。別段優しい人という訳でもないし、言うのはいつも技術語ばかりでアドバイスしているとは思えない。最後のはあなたが言っていただけで、そんなニッチなニーズ、ないと思うわ」
「そんな中で、英子さん、私と彼の3年間がどのようだったか想像できて?」
サブローとの3年間と聞いて、さよりが顔を近づけてた。
「何よこの女!、彼との3年間て、この女とサブロー君はどんな関係だという訳?」
「何でも公私のパートナーとして3年間、一緒に暮らしていたらしいわよ」
「何ですって!」
「その通り、私とサブローさんは公私のパートナーとしてあらゆることをしたわ」
「何よこの女!、何よこの女!」
「やめなさい、さより、見苦しい」
「その公私のパートナーとしてありとあらゆることをする中で…」
「何よこの女!、何よこの女!」
「あんたもやめなさい、絵美さん。さよりが壊れてしまうわ」
「ひとつ大変な事実を発見したのよ」
「それは何?」
「彼といる限り、パソコンのトラブルが絶えないってことよ」
「へぇ…?」
英子はあからさまに怪しむように相槌を打った。絵美は続けた。
「そう、自分には起こらなくても、周りを巻き込んで、必ず何度もパソコンのトラブルが起こる。私とパートナー関係にあった3年間で起こったパソコンのトラブルは実に300件を超えるわ。3日に一回はパソコン関連のトラブル、またはそれに関係する事件が起こる」
「信じられないわ」
「信じないというなら、これを見てちょうだい。これが当時の記録よ」
確かにカレンダーにはびっしりと、3年間のサブローの作業記録が書かれている。問い合わせから実際に機械のメンテナンスやサービスのトラブルなど、様々。まるでPCショップのような忙しさである。普通に暮らしていて、こんなにトラブルが起こるとは到底考えられない。
「考えられる要因は二つ」
「二つ?」
「ええ、私のこれまでの研究で二つに絞ったわ」
「ひとつは因果の中心説」
「い、因果?何のことかしら」
「これを見て。ここ1ヶ月で彼に依頼を出したトレンドワードよの関連図よ」
絵美はもうひとつの紙を出した。かなり大きい、曼荼羅図のような関連図だ。
英子とさよりには今ひとつ何の図なのか理解できない。
「見てちょうだい、この中心辺りの"三十路女"」
「なによ、ヤル気?」
「やめなさい、さより、たしかにその言葉が中心辺りにあるけど、それが何か?」
「ここをきっかけにして、芋ずる式に技術ワードや恋愛ワードが繋がっている」
「ちょっと待ってちょうだい、これはあなたがサブローさんにお願いしたネットの情報でしょう?こんなに都合よくつながるものなの?」
「英子さん、言ったはずよ。ネットの情報をうまく見つけるのは"検索能力"によるって。たしかにこの図は私が作ったシナリオを図にしたものに過ぎないわ。だからと言って、これらのワードが偶然関連しているということにはならないと考えているの。これはサブローさんの能力を使って作り出されたものでもあるのよ、彼の脳の思考そのものでもあるということ」
絵美の言っていることは今ひとつ分からないが、さよりは自分と思われる"三十路女"のところから線をなぞってみた。
「つねにパソコン関連、IT関連のワードが、女性をきっかけにして繋がっている」
「その通り」
「パソコンヒモ男…」
「え?」
「パソコンヒモ男、以前私がサブローさんを表す言葉として使ったの」
「ふむ、何のひねりもセンスも感じられないけど、つまりはそういうことね。彼は女性と付き合うことによってパソコン関連のトラブルを引き出し、それを解決することで生活する。そういう存在だということ」
英子は半笑いになって呆れて言った
「はっそんなバカな話」




