週明
8「資料」
「よく、このバラバラな状態からからこれだけの資料にまとめましたね」
英子の同僚は感心した。
「とある人のアドバスがあって、やってみたらうまくいったのよ、加藤さんもほら、見てもらえる?」
「え、ええ…」
3日連続徹夜の加藤は無精髭の顔で力なく頷いた。あの後榊原に昼夜となく攻め込まれ、全く望んでいないシステム開発の資料を作らされ、一睡もしていない。
「何かあなた体調悪そうね」
「ええ、4日も家に帰ってないのでし」
「どうしてそんなことに」
「あなたのせいでし」
「え?」
「あなたのせいでし!あなたがわけわからない資料送ってきたせいでこんな目に…」
「私が送った参考資料がそんなに面白かったの?」
「そんなわけないでし!」
「とにかく、あなた、語尾が変よ」
「うるさーい!、とにかくあなたは今日で終わりでし!」
「何いうのよ、いきなり」
「ふふふふふ、ばた」
「ちょっと、加藤!、加藤!」
人を呼んで加藤を医務室に連れて行くと、英子は少し罪の意識に苛まれた。
「あんなに憔悴してしまって。しかしあの資料の内容を読み込んで、わかったというのかしら。だとしたら大したものだわ。私でさえ、未だにわからないところがたくさん…」
「やぁ、英子君」
背の高い白い歯の男がやってきた。榊原である。歯は光っている。いつもより2倍ぐらい輝いているように見える。
「おや、加藤君はどうしたね?ここ数日お世話になっていたのだが」
「今、医務室で休んでいます。まさか加藤を引きずり回していたのは部長ですか?」
「いや、私は彼の情熱にほだされてしまってね、それで英子君に見せたいものだあるのだ、ちょっと来てくれないかね」
「はぁ、私に?」
先ほど加藤が入っていた言葉が気になる。
"あなたは今日で終わりでし"
なにかしら、"でし"って。私が榊原の弟子になるといことこうかしら。
英子は戦々恐々となった。ダメなのだ。あの手の爽やか男は。体育会系だってちょっと苦手なのだ。おそるおそる、榊原について行くと、小さな会議室で一つの資料を渡された。作成は榊原と加藤になっている。
題名は
「低コスト導入計画における我が社のシステム開発について」
「へぇ」
英子は少し興味を持った。英子のまとめた資料でも一社は開発の提案を出しているのである。中身をペラペラめくると、やはり重要な機能の部分について、我々日本支部が開発を行い、バージョンアップを得意先に提供する。という内容である。
「つまりは、アフターケアの計画を立てようということさ。ローコストの導入計画を進めながら、重要な不足機能を補う開発を我が社で行う。それで必要なバージョンアップ版を提供する。そうすることによって、徐々に我々の価値をあげようという考えさ」
「なるほど、となると、我が社にも開発体制が必要ですね」
「そのとおり、これは加藤君、彼のアイディアだよ」
「あの加藤が…。確かに各社の資料を見て開発計画を私に報告していたわ」
「英子君、宝というのはどこに埋まっているかわからない。突飛な意見が出てきたと思ったら、否定せずまずは頭の片隅に置いておくといい」
「たしかに、あ、わたしのほうでも導入計画の業者選定でこのように…。見ていただけますか」
英子は一覧表を渡した。誤ってサブローのパソコン一覧表を。紙には思わず英子が赤ペンで"サブローさん、ありがとう"と書いてしまっていた。
「ほう、これが…サブローさん?」
「す、すみません!そちらではないです!こちらです」
英子は、榊原から急いで書類を奪い、自分の持っている一覧と交換した。
「ああ、こちらか。ほう、素晴らしくよくまとまってるじゃないか」
「はい、ありがとうございます」
「あれっぽっちの情報から、よくぞここまでまとめて評価できたものだ。各社の不足部分も念のために再度確認してみてはどうかね」
「わ、わかりました、そうします」
英子が顔を真っ赤にしているとさらに榊原から提案された。
「どうだね、この二つを踏まえた計画で経営に説明しては?」
「えっ?」
「せっかくの予算だよ英子君、よりよいシステムを顧客に提案するプランを問うて見るのがいいじゃないか」
「すばらしい、そうですね。結局はランニングコストの話もありますし、コスト試算してみましょう」
英子は榊原の提案に喜び、これからのプランを考えることにした。サブローからヒントをもらってからここ、ずっとウキウキしている。こんなに仕事が楽しいと思えたのは久しぶりである。
「それでは榊原さん。あれ、もういないわ」
榊原はもう会議室にはいなかった。
「サブローか…」
榊原はそう言うと、英子の一覧表を握りしめ、廊下を去っていった。




