焼肉
7 解決のめど
サブローの一覧表のコピーを取ると、英子はその場に3万円を置いて猛ダッシュで自宅マンションに走って行った。
サブローとさよりはしばらく顔を見合わせて呆然としていたが、とりあえずさよりはそっとそのお金を摘み上げて言った。
「飲みに行きましょうよ、サブロー君。きっと英子のおごりってことなのよ」
「そうだね」
「川崎だから焼肉がいいかなぁ」
「テレビでやってたようなところ?」
「サブロー君と一緒ならどこでもいい」
「英子さんに焼肉屋聞いておくんだった」
「仕事の鬼だから、聞いたってどうせ知らないわよ」
英子は急いで部屋に戻ると、会社のカバンから各社の資料を取り出した。
PCを開いて、サブローの一覧表をみながら表計算ソフトに自分たちが業者にお願いしたいことが横軸に来るように書いた。仕事の種類、機能、価格、期間などなど。
そして各社の資料を読み込んで、埋められるところを縦に埋めていく。
資料は1時間半もあれば出来上がった。5社あるうち、全く埋まらない1社は論外、比較的埋まっていく会社が3社あった。そのうちつけた点数で妥当性が高そうな会社は2社。
この2社にコンペをして貰えばいいのだ。
派遣業のA社、IT企業のN社。N社は先日、トンチンカンな新規開発の提案をしてきたあの会社である。機能欄を見ると、幾つか重要な機能を開発するとなっている。ははぁ、これを開発する気なのか。派遣業のA社は人海戦術でそこを補い、できるだけ標準を使う提案である。これをやる前まではA社なんてまったく眼中になかった。こうしてみると違いは歴然である。いきなりこれを出すんじゃなく、ここ迄来れば皆と相談してもいい。あの加藤ともできる気がする。彼には週明けそうそうに話さなければ。無駄な作業をしている気がしてならない。
英子は突然頬に熱いものが流れるのを感じた。
「うっ、うっ」
自分の部屋で思わずこみ上げてしまった。今までの悩みが解決しそうなこと、長年会社に勤めてるのに、やり方を今まで全く思いつかなかったこと、それがまたしてもあの無職の男からもたらされてしまったこと。あの男が親友の恋人なこと。いろんな気持ちがごちゃごちゃになって整理ができなかった。
「またあんな男に泣かされてしまった」
「…焼肉でも食べたい」
・・・・・
焼肉店を出たさよりとサブローは、ちょっと良さげなバーに入った。二人でロングカクテルをカランコロン飲んでいると、さよりが思い立ったように言った。
「ねぇ、サブロー君」
「ん?焼肉くさい?」
「ちがうわ、今、はぐらかそうとしたでしょう?ダメだからね」
「めっそうもない、さよりさん」
「あの紙、パソコンの一覧表」
「あれが何か?」
「わざと英子のカバンに入れたでしょう?」
「えっ?」
「あの一覧表で解決するって知ってたんでしょう?」
「ま、まさか。英子さんの悩みが、パソコンの知識なんかで解決するなんて思わないよ」
「うそだ〜、昨日あの時何か言いたげで、私たちに阻まれたの、ちゃんと見てたんだからね」
「そうか〜、バレちゃったか。でも解決できるかどうかは本当にわからなかったよ。事実、英子さんは僕に返すまで気づいていなかったからね」
「何もなかったら返す時に解説するつもりだったんでしょう?しかもわざと私に分からないような言葉を使って」
「わからなかった?」
「いつも通り、わからなかったわよ」
「英子さん、おかしかったなぁ〜w、あんな大声で叫んで」
「ぷー、二人だけの世界作りやがって〜」
「焼かない焼かない、焼肉焼肉」
「うまいこと言ってごまかそうったってダメよ。今度英子を助ける時は私も混ぜて」
「わかったわかった」
「ところで、あんな難しい技術、どこで習ったの」
「どこだったっけなぁ、学生の頃かなぁ」
「えっくしっ」
絵美は突然寒気に襲われると、くしゃみをした。
「まだまだよ、まだまだあの男には活躍してもらわないと。私たちのゲームはこれからよ。あっはっはっは」
絵美の手にはどこかで見たような一覧表が握られていた。




