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パソコンヒモ男  作者: ふじふじ
冒険編
18/47

明暗

6 企みの末路


小さな会議室で加藤が資料を元に榊原に説明すると、榊原は言った。


「ほう、すると君は英子くんが社の方針とは別に、新しくシステムを開発しようとしている。と言うのかね」

「いえ、システムを新しく開発しようというのは私の…」

「しかし、”英子くんのこと”と言われて説明された内容が新しいシステムの開発だということでは、私は彼女がそう考えていると捉えるのが普通だが?」

「え、ええ」

「ん?、どっちなんだね」


榊原に攻め込まれた加藤は、断腸の思いで自分の方針を曲げざるをえなかった。要するに伊澤英子が失脚すればいいのだ。自分が考えたプランに固執する必要はない。


「い…伊澤主任が独断で、新しいシステムの開発を業者に発注しようとしています」


「ほう」


榊原は一瞬目を輝かせ、さらに続けた。


「なんと…、それは由々しき事態だな。得意先へのシステム低コスト同時導入計画というのはすでに決定事項だ。覆すことはできないし、そのための予算を取ってあるのだ」

「はぁ…」

「その決定を現場の一存で覆そうと計画しているとなると、これは問題だ」

「ええ…」

「加藤くん、この話を他にしているかね」

「せっ、先日、私が不用意にも部署の仲間何人かに話してしまいました」

「ああ、先日のあれか。わかった。この件、私に任せてくれまいか、なぁに穏便に済むように努力するさ」


まずい、このままではこの件を榊原は伊澤に取り入って、この件がもともとなかったかのようにもみ消してしまうだろう。いや、この件はもともとないことなのだ。そうなれば自分の立場も危うくなる。


「榊原部長、私も協力します。伊澤主任の説得には私も同席させてください」

「説得?なんのことかね?」

「へ?」

「私は現場の開発意欲を削ぐような人物に成り下がるほど愚かになったつもりはないよ」

「はぁ?」

「まぁいい、君も今すぐ一緒にどうやったら今回のプロジェクトで我が社がソフトウエア開発を行えるかを考えようじゃないか。よし、久々にやる気になってきたな、今日は徹夜になるぞう!」

「えっ?」



7 集計


夕方、英子はさよりとサブローと待ち合わせた。珍しく二人が川崎に出てくると言うので、映画館シネコン近くのオープンカフェで話をすることにした。


初夏の風が気持ちよく、また少し明るい街はいつもと少し違うように見えた。英子は川崎という土地に特にこだわりがあるわけではなく、得意先クライアントとオフィスに行くのにちょうど真ん中あたりで利便性が良いことと、何をするにもほぼ一箇所で済むことで住まいを選んだ。夜の街に繰り出すことはまずない。休日も自宅マンションのデスクで仕事ばかりしている。息抜きといえば、恋愛もののドラマや映画を見ることぐらいだ。最近はロードショーではコテコテの恋愛ものはほとんどやらないので、以前は足を運んでいた映画館レイトショーも行かなくなってしまった。


「あれはあれで恋したような気分になって良かったのよね」


「あ、英子」


恋するさよりがサブローの腕にしがみついて手を振っている。


「さより、サブローさん、昨日はごめんなさい」

「いいっていいって、注文は?」

「ええっと、コ、コロナにしようかな」

「結局今日も飲むのね」

「もういいでしょう?週末の夕方なんだから」

「英子、最近ちょっと変わったわよね」

「あんたに言われたくないわ、相変わらずその…」

「ベタベタしてるでしょ?」

「そう」

「これがいいのよね、これが」

「ところで、サブローさん、昨日私のカバンにこんなものが」


英子はよれたA4の紙をサブローに渡した。


「ああ、助かりました。制作途中で書き込みがしてあったものですから」

「サブロー君たら最近その紙ばかり見ていて、私のことそっちのけだったんだから」

「あんたはいつもサブローさんにズッポリ入れ込んでるんだから、それぐらいがちょうどいいのよ」

「なによ、いいじゃない」

「ところで、それは何なの?サブローさん」

「ああ、これですか」

「見た所パソコンの比較表みたいだけれども」

「ええ、これは私がパソコンを選定するときによく行う作業なのですが、一見非常に小さい違いしかないように思えるものでも、こちらの要求事項を横軸に並べた上で、メーカーの性能スペックを縦軸にクロスさせて集計して比べてみると違いが出るものなんです。パソコンのように、どれもこれも似通ったものは、こうして集計結果を並べることでどの機種を選定するかを…少なくとも基準が統一されて迷いがなくなるのと、根拠がはっきりするため、後悔が…」


「そ、それ…って」


英子は思わず息を飲んだ。ワナワナと震えている。


「英子、今のサブロー君の言ってることわかったの?」

「ええ、何となく…要するに、と、統計解析をしてるのね」

「いやはや、英子さん流石です。わたしはそういう言葉、パッとは出てきませんが、アンケートの集計と同じようなやり方です。ヒアリング項目を統一して…」

「うわぁぁぁぁぁぁ、わかったぁぁぁ」

「え、英子?!」


サブローとさよりが目を丸くして英子を見ている。英子は鼻息荒くサブローに言いよった。

顔が近い。


「サブローさん、それ、その紙もう一度お借りしても良いかしら?コピーをいただいても?」

「構いませんよ」


英子はサブローから表を受け取ると、急いで近くのコンビニに走った。


できる、これならきっとできる。良い結果が得られそうだわ。英子は久しぶりに自分の仕事への期待で胸がはちきれそうになった。

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