暗転
5 加藤の苦難
徹夜明けの"加藤www真一"は悩んでいた。
上司伊澤英子から送られてきた過去の業者選択の経緯の参考文書は、正直何が書いてあるかさっぱりわからなかった。システムの専門用語と、ビジネスの専門用語が多数登場し、外国語、いや、宇宙人の言葉のようであった。
こんなもの入社1年目の新人の自分がどう作るというのだろう。
試されているのか?伊澤はこの自分がどこまでできるかを試している。そして値踏みをした後、望まれている部署にこの自分を高い値段で売る。
それともこれはいじめだ。いじめなのだ。
ベンダーからわけのわからない資料を渡され、ようやく作ったと思えば5分も経たないうちに発表を打ち切られ、挙句の果てに参考にと渡された資料は宇宙語。
そうだ、上司は自分の能力に嫉妬してわざとこのような仕打ちをしているに違いない。
「このままでは陥とされる」
加藤はそう考え始めると止まらなくなった。
通達された3日。3日でこの状況を逆転し、あのクソ上司、伊澤をギャフンと言わさなければならない。それも2度と立ち上がれないように。それにはどうすればよいか。
加藤はぼさぼさの頭をかきむしり、目を血走らせ作業をしていた会議室を出ると、デスクを訪れた。
幸いにも今日は伊澤は体調不良で急に休みだという。あの真面目だけが取り柄で、全く休みらしい休みを取らない伊澤がこの日に限って休みを…。
「ふふふっ、これは天の思し召しに違いないな…」
唇の端を上げると、今までの資料の題名を見直した。
自分の作った渾身のプレゼン資料「"アルファプラスNEO"の新規開発プロジェクト立ち上げ計画」伊澤が手にしたN社の「新規システム、アルファプラスアルファ開発プロジェクト提案」そして有象無象の他社の提案資料。
これらを合わせて、伊澤を陥れることはできないものか。このプロジェクトを立ち上げ、伊澤が企画している低コストの導入プロジェクトの実現を頓挫させ、そしてこの自分が新規ソフトウエア開発と、上得意先への導入のプロジェクトリーダーになる。
「これだ、このシナリオならいける」
これを実現するには、味方、味方が必要だ。それも強力な後押しをする味方が。しかし、新人の自分にはまだ人脈がない。
今の自分の所属部署やドイツ本社の外人どもはダメだ。自分を物笑いの種にしている。どこか他で数々のプロジェクトを成功に導いている…。
「あれ?今日は英子くんは休みかね」
白い歯、浅黒い肌、そして周囲数メートルまでに取り巻く"できる男"オーラ。
榊原"サンダース"良一である。加藤は叫んだ。
「キタァー!!」
このタイミングは神の御業である。加藤はそう考えると、早速榊原に取り入った。
「榊原部長、是非お耳に入れたいことが…」
「ほう…君は」
「加藤、加藤真一です」
「おお、君がケイ…」
「榊原部長、そこまでです。その二つ名は今日で返上いたします、まずは見ていただきたい資料があるのです」
「導入プロジェクトなら、英子くんに任せてあるはずだが?」
「その伊澤主任のことなのです」
「ほう、英子くんが何か?」




