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パソコンヒモ男  作者: ふじふじ
冒険編
12/47

登場

騒がしかった春の珍事が落ち着き、英子に平穏な社会生活が戻ってきたものの、かっこばかりの部下との仕事はあまり調子が良くないし、心がざわつく問題も残っている。そんな時、声をかけてきたのは非の打ち所がない同僚の男だった。

主な登場人物


伊澤英子・・・・この話の主人公、外資系のソフトウエア会社のコンサルタント。バリキャリ、恋に耐性がない。


中野三郎・・・・パソコンにいろいろ詳しい男。無職。

一条さより・・・三郎の恋人、フリーライター。結婚願望が強い。

青柳絵美・・・・サブローの元同級生で元恋人、三郎に仕事をたまに依頼。クリエイター。


加藤wwwケイトーくさ真一・・・意識の高い若手社員。

榊原・サンダース・真司・・・・英子の会社の先輩。ハンサムでいろいろできて、なんだか腹たつ男。


1 自意識過剰


外資系ソフトウエア会社SAE、上階に行けば行くほど高度な仕事をする人が在籍するというわかりやすい職種カーストビルの上階で、英子は頭を抱えていた。

新しいプロジェクトの業者パートナー選定がうまくいかないのだ。だいたいIT企業なんて、どれも同じに見えてしまう。大手日本メーカーのNOC社、FJ社、H社。営業を通すと誰でもかれでも「できます」と言ってくるし、なにか裏で繋がってるんじゃないかと思うぐらい、内容が同じ物をプレゼンしてくる。


資料に書いてある社名ロゴが違うぐらいである。


「何処とやっても同じではないですかね。ソリューションも似たり寄ったりですし、データベースに何を使っているか、ぐらいの差じゃないですか?」


この男は、若手の加藤。加藤真一である。本社のドイツ人には"ケイトーwww (KATO LOL)"と呼ばれている。なんで"www(LOL)"なのかはわからない。なんでも古い映画にそういうのが出てくるらしい。そんな大昔に"www(LOL)"なんて言葉があるのだろうか。


加藤は見てくれだけの男である。プロジェクトなんてろくに経験していないくせに、いっぱしの知識だけは持っており、いろいろ外国人ぽい事を言ってくる。しかし、ただそれだけの男である。今回の仕事でも


「いやぁ、参っちゃうな〜、僕らガイシですから、プロジェクトが失敗しちゃったりしたら、雇用調整コレですわ」


などと首をはねる動作ジェスチャーと共に、業者に無意味な脅しをかけている。恥ずかしいからやめてほしい。なぜこのようなガキが入ってきてしまったのか。人事は何をやっているのか。いや、これも時代で、自分が古い人間ということなのだろうか。まぁ、こういう類の人間というのはいつの時代でもいるものなのだろうけども。


「必ず違いはあるはず。私たちが見抜けていないだけ。とにかく、もらった資料を元に、選定するための情報整理をお願い」


「了解です、チャチャッとやっちゃいます。何か希望はありますか?」


「できるだけわかりやすい形にしてちょうだい」


「わかりました、わかりやすく報告させて頂きます」


嫌な予感がする。嫌な予感がするが、とりあえず、この男がどういう風にまとめてくるかを見てからでもいいだろう。自分ではどうやるかあまり見当もつかないし。


「とりあえず、お昼にするか」


まだ時間は早いが、この時間なら階下のカフェは空いているだろう。


昼前のカフェ、日差しが強い。もう季節は初夏である。英子は店内奥の席に座った。オープンカフェであるがオープンマインドな気分になれなかったからである。


思い返すとなんだか今年の春は珍しくいろいろあった。親友がヒモと付き合い始め、それと共にいろいろ巻き込まれ。あ、そうそう。あの佐川とかいう上司は、会社の経費を使い込んでるのがバレて、解雇されてしまった。青柳家のPCは永遠にお蔵入りとなった。その後、問題ないだろうか。多分ないのだろう。業務用の機械というのは頑丈に出来ているものだ。絵美はさよりに攻撃を受けながらも懲りずにリサーチの仕事をサブローに送っている。おそらく本当に調べたいこともあるのだろう。クリエイターだというのも伊達ではないということか。


サブロー…そういえば彼には確認したいことがある。ワイヤレスの設定をしてもらった夜、はたして私たちはどこまで行ったのか。間違いないのは"便利な映画スティック"はWifiが途切れることがなくなっていて、前より便利に使えているということ。それであれば、サブローに設定をしてもらったことは確実だ。問題はその後、自分があの恥ずかしい言葉をサブローに言ったかどうかだ。


"あたしを取り返しのつかないところまで連れて行って"

"あたし、良かったかしら…"


「そんなの恥ずかしくて聞けるわけないじゃない!」


思わず声に出してカフェテーブルに突っ伏してしまった。顔面が爆発しそうである。英子はリアル恋愛に関しては全く耐性がないのであった。色恋沙汰を自分に置き換えることを想像しただけで、羞恥心で胸が張り裂けそうになる。


いつかは克服できるのだろうか。英子は毎回思う。


しかし英子は知らないのであった。恋愛に慣れなどないということを。実際に目の前で恥ずかしげもなくサブローにデレデレしてるさよりを前にしても、それに気づいておらず、あのデレデレはヒモの悪意のせいだと思っている。あれは恋のなせる技であり、恋とはあのようにめっぽう恥ずかしいものなのである。恥ずかしいこと、大いに結構なのである。しかし英子にはとても自分があのようになるとは思えないのであった。


「あの二人、どうするんだろ、結婚とかするのかしら」


そうなったら、もうあまり会う機会もなくなるのかもしれない。彼女がサブローを連れてきて会ったのだって3年ぶりだ。なんとなく身辺賑やかだった最近が珍しいのだ。そう思うと少し寂しい気がしてきた。


「めずらしいね、英子女史がひとりでぼうっとして、先ほどから見ているとテーブルに突っ伏したりして、なにかプライベートで悩みでもあるのかい?、HAHAHA」


振り返ると、背が高く、顔も整った、いかにもナイスガイのような男が立っていた。この、なんだか非の打ち所がない、イラつく雰囲気。榊原・サンダース・真司である。

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