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パソコンヒモ男  作者: ふじふじ
パソコン編
11/47

斡旋

12 「マッドクリエイター」


絵美とサブローの会談は、一度英子が絵美と会った自由が丘のカフェで行うこととした。


「いやぁ、久しぶりですね。風の噂では結婚なさったかのようなことでしたが」

「ええ、したわ」

「え?今は」

「ええ、してないわ」

「ということは過去に」

「ええ、してたわ」


このやりとりは必要なのかしら。英子はそう思うと、話を切り出した。


「絵美さんには、今、サブローさんにお願いしたいことがあるのではないかしら?」

「え、ええそうよ。ダイお願いしたいことがあるわ」

「ほう、どのような事でしょうか?」

「パソコンよ」

「ああ、パソコン…パソコンなのね」


英子はややうんざりした様子で言うと、さらに突っ込んだ。


「パ、パソコンよね!サブローさんにお願いしたい事ですものね。は、ははは。で、一体パソコンの何が大事なわけ?」

「具体的には、検索能力の発揮なの」

「検索能力?」

「私たちクリエイターは、マーケットリサーチや、技術的な課題とその解決方法、取引先の動向調査などをネット検索を中心に行っているの」


それを聞くと、英子は怪訝そうな顔をして言った。


「私も会社で調べ物をする時はたまにネットを使うけど、あれって何を信用していいのかわからないし、そもそもあまりいい記事にたどり着けないわ、どれもこれも同じだし」

「そう、そこなのよ、でもね、それって実はネットのせいではないの」

「そうなの?私の周りも大半はネットの意見なんて使い物にならないって思っているけれども」

「有象無象というように、世の中の大半はそういったものの集まりなの。でも必ず大切な記事や解決策はあるものなのよ。難しい課題や、正解のない事の次の展開を判断をする場合は、意見の多様性ダイバーシティが必要なのよ。それにはネットリサーチは不可欠なの。私たちはその有象無象から大事な言葉を探し出せていないだけなの」

「大勢の意見を聞くって事?でもそんな事をしていたら、何も決められないんじゃないのかしら」

「英子さん、あなたはおそらく整然とした組織で働いてらっしゃるのね。それはそれで素晴らしい事だけれど…。私たちクリエイターは、時に組織の考えや常識と逸脱した、突き抜けたものを実物として作る必要があるの。ビジネス設計デザインとゲーム製作デザインではこの比重が大きく違うのよ。チャートや組織のミッションなど、それを正解として動くシステムはなく、人の感情に訴える、出来上がりに多くののりしろがあるコンテンツなのよ」

「のりしろが多い成果物なんて、あまり想像できないわ」

「そうね、例えるなら映画がパート1パート2と続くのに似ているわ。現時点ではきっちり数式アリゴリズム化されていないもの、とでも言っておきましょうか。非常に有力な相反する代替案オルタナティヴが常にゴロゴロあるという感じかしら。そこから…あれあれ?サブローさん?」

「はっ、え?彼は一体どこに」


英子と絵美は辺りを見回した。サブローは入り口付近で電話をしていた。なんとなく「ハンバーグ」と言っているように見える。


サブローが戻ってくると言った。


「いや、さよりんから電話がかかってきてしまって。夕飯の相談を…」

「ハンバーグなのね?」

「なんでわかったんですか?英子さん。エスパーですか?」


絵美はため息をついた。


「はぁ〜、サブローさん、私たちの話をどこまで聞いてた?」

「かつて結婚していた、辺りですかね」

「ふざけないで」

「ぱ、"パソコン"の辺りですかね」

「"検索能力"でしょう?!」

「はい、そうでした。そこまででした」

「まぁいいわ、確かにその先の話は何か英子さんとの論争だったもの」

「サブローさんの検索能力を私は使いたいと思っているわけ」

「バイトですか?」

「まぁそう考えていただいて結構だわ、わたしからリサーチしていただきたい言葉を送るので、それの調査結果をメールで送って欲しいの。簡単でしょ?」


英子は少し疑問に思った。何か今ひとつ成果物として曖昧な気がした。そんなものにお金を払うというのだろうか?


「絵美さん、サブローさんが何も見つけられなかったり、ちょっとしか調査結果が出なかった場合は?」

「要求はこちらからするわ、バイト代は時間給の月賦。それならいいでしょう?私たちの会社のポータルからログインして調査を開始して。それで調査時間がカウントされるわ」

「でもそれって、以前あなたがサブローさんにやろうとして失敗した仕事の斡旋では?」

「でも、パソコンに関する事だわ」

「どうなのサブローさん?」


サブローは言った。


「まぁ、似たようなものですね。技術文書やマニュアルから必要な事項を見つけてくるのと同じです。わたしには、なぜみんなが、解決策を見つけられないのか不思議に思う事があります。具体的にはこれという方法はなかなか言いづらいですが、検索法というのは、昔からある技術です」

「で、サブローさん、やるの?」

「ふむ、まぁ英子さんが引き合わせてくれた、絵美さんのお願いですから」


結局絵美の願いも強そうなので、引き受ける事となったのだが…


数週間後、さよりから英子に電話があった。真夜中である。


「英子、何よあの女」

「うーん、えー、さより、何時だと思ってるのよ、それになんの事よ」

「なんの事とはこっちのセリフよ。あの絵美とかいう女、調査依頼とか言って変な言葉をサブローさんに送っきてるのよ」

「マーケティングリサーチだから、ちょっと変わった言葉もはいってるんじゃないの?、いちいち反応する事ないわよ」

「ふん、知ったような事を言ってもダメよ。"恋人と別れる"とか"元サヤ"とか”三十路女抹殺”なんてトレンドワード、あるはずないじゃない」


英子は今までの絵美とのやりとりを思い出した。


「そうだ、あのえみ。ちょっと変なんだった」


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