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EP02. 1億ゴールドの命 - #5 うちの食堂の新しい従業員

#5 うちの食堂の新しい従業員


食堂の主人はその時ようやくうなずいた。


「いいだろう」


「本当に助けてくれるんですよね?」


「スクロールがきちんと効けばな」


「その言い方、ちょっと不安なんですが」


「復活はもともと不安なものだ」


食堂の主人は保管筒の蜜蝋の封印を爪で押した。

封印が、ぱきりと割れた。

その音が妙に大きく聞こえた。


ジヒョは思わず保管筒のほうへ近づいた。


食堂の主人は蓋を開けた。

中から古いスクロールが姿を現した。


黄ばんだ羊皮紙。

赤い糸で巻かれた縁。

かすかに光る文字。


ジヒョはそれを見て、初めて思った。


助かる。


そのすぐ次の瞬間、二つ目の考えが続いた。


そして詰んだ。


食堂の主人がスクロールを取り出しながら言った。


「じゃあ借金として付けておく」


ジヒョは答えられなかった。

答えなくても、もう遅かった。


彼はたった今、1億ゴールドの首輪に自分から首を入れた。


食堂の主人はスクロールを両手で支えるように持った。

商人が商品を持つ手ではなかった。

祭壇の上に載せる物を扱う手に近かった。


ジヒョはなんとなく声を低くした。


「それ、破れたらどうなるんですか?」


「お前は消滅し、俺は1億ゴールドを失う」


「両方損じゃないですか」


「だから黙ってろ」


食堂の主人はスクロールの赤い糸を解いた。

糸がゆっくりほどけると、黄ばんだ羊皮紙が少しずつ姿を見せた。


古い紙の匂いがしそうだったが、ジヒョは匂いを嗅げなかった。

魂だからなのか、息もなければ鼻もなかった。


それなのに、不思議と感じられた。


古びているが、生きている物。

長く眠っていて、目覚める直前の物。


食堂の主人はスクロールを広げる前に、ジヒョの死体のほうへ顔を向けた。


「傷が深い」


「じゃあ、だめなんですか?」


「スクロールが魂を体に貼りつけても、体がすぐに耐えられなければまた死ぬことがある」


「また死ぬんですか?」


「そうだ」


ジヒョは自分の死体を見下ろした。


脇腹の血。

青白くなった顔。

動かない手。


あの体にもう一度入らなければならないと思うと、ぞっとした。


魂に鳥肌が立つのかは分からなかったが、たしかにそんな気分だった。


「復活したら痛いですか?」


食堂の主人はジヒョを見もせずに答えた。


「痛いだろうな」


「どれくらいですか?」


「死んで生き返るくらいだ」


「説明が雑すぎませんか」


「正確な説明だ」


食堂の主人は鞄から小さな瓶を一つ取り出した。

赤みを帯びた液体が入った瓶だった。


「それは何ですか?」


「《グレーター・ヒーリング》ポーション」


「それもお金取るんですか?」


「当然だ」


「ちょっと待ってください」


「冗談だ。これはサービスにしておいてやる」


「本当ですか?」


「復活した途端にまた死なれたら、俺も損だからな」


「あ、そういう理由なんですね」


食堂の主人は《グレーター・ヒーリング》ポーションを死体の横に置き、再びスクロールを広げた。

羊皮紙が完全に開いた瞬間、その上に書かれた文字がかすかに光った。


ジヒョはその文字を読めなかった。

明らかに初めて見る文字だった。

それなのに、目で読んだわけでもないのに意味が頭に入ってきた。


魂。体。命。


三つの言葉が、胸ではなく魂の内側を叩いた。


ジヒョは思わず後ろへ下がった。


「これ、ちょっと変です」


「変で正常だ」


「普通の復活はないんですか?」


「死ななければいい」


「正しいですけど、今は助けになりません」


食堂の主人はスクロールの一行目に指を置いた。


「おい」


「はい」


「復活が始まったら耐えろ」


「僕は何をすればいいんですか?」


「逃げるな」


「魂なのに、どこへ逃げるんですか?」


「体に引きずり込まれる瞬間、魂が本能的に押し返すことがある。死んだ体は冷たく、傷は痛み、息は詰まる。それでも耐えろ」


ジヒョは自分の体を見た。

少し前まで、あの中にいた。

それなのに今は見慣れなかった。


血まみれになった空き家のようだった。


「耐えられなかったら?」


「スクロールは消え、お前も消えるだろう」


「最悪の説明だけ選んで言う才能がありますね」


「怖がって準備しろという意味だ」


ジヒョは答えようとして止まった。

目の前にメッセージが浮かび上がった。


[残り時間:8分]


時間は減り続けていた。

迷っている余裕はなかった。


「準備できました」


食堂の主人はうなずいた。


「では始める」


彼は低い声で呪文を読み始めた。


「アニマ」


最初の言葉が響いた瞬間、ジヒョの周囲の空気が揺れた。


正確には、空気ではなかった。

魂が揺れた。


ジヒョは両手で自分の胸をつかもうとした。

手はあったが、つかめるものはなかった。


それでも、何かが内側から引っ張られる感覚があった。


食堂の主人の声が続いた。


「コルプス」


地面に横たわっていたジヒョの体が、かすかに光った。

傷口の周りで血が黒く固まりかけていた部分から、赤い光が漏れ出した。

脇腹の裂けた肉が、無理やり噛み合おうとするように震えた。


ジヒョは歯を食いしばった。


「待って、これ……」


声が震えた。


体が自分を呼んでいた。

いや、引っ張っていた。

魂と死体の間に、見えない糸がかかったようだった。


食堂の主人は最後の言葉を読んだ。


「ヴィタ」


その瞬間、スクロール全体が光に燃え上がった。


炎ではなかった。

紙が燃える匂いもしなかった。


文字が一つずつほどけ、光の糸のように虚空へ浮かび上がった。


魂。体。命。


三つの言葉がジヒョへ向かって飛んできた。


「あ、ちょっと」


ジヒョは本能的に後ろへ下がった。

だが遅かった。


光の糸が彼の魂を包んだ。


「いや、準備してから行くって言ったじゃないですか!」


食堂の主人が短く言った。


「耐えろ」


次の瞬間、ジヒョは下へ引きずり込まれた。


落ちる感覚だった。

初めて異世界へ落ちた時に似ていたが、ずっと荒かった。


白い光の中へ落ちるのではなく、冷たく血に濡れた体の中へ、無理やり押し込まれる感覚だった。


ジヒョは悲鳴を上げた。

声が出たのかどうかは分からなかった。


魂が体に触れた。


そして痛みが爆ぜた。


脇腹が、火で熱した鉄串に貫かれたようだった。

心臓が遅れて動こうともがいた。

肺が空気を思い出せず痙攣した。


冷たかった。

痛かった。

重かった。


体というものが、こんなに重いものだと初めて知った。


「かはっ!」


ジヒョの口から音が弾けた。

息が入ってきた。


空気が喉を裂くように押し込まれてきた。

彼は地面から体を跳ね上げるように起こし、また崩れ落ちた。


「う、ああああっ!」


悲鳴が路地の壁にぶつかった。

今度は虚空に散らなかった。


ジヒョは何も見えなかった。

目の前がぼやけていた。

耳には自分の心臓の音だけが聞こえた。


どくん。

どくん。

どくん。


あまりに遅く、あまりに荒く、あまりに生きている音だった。


食堂の主人がすぐに近づいた。


「動くな」


「あ、痛い……」


「当然だ。死んでいたんだからな」


「もう少し……もう少し親切に……」


「口が動くなら成功だな」


食堂の主人は《グレーター・ヒーリング》ポーションの瓶を開けた。

ジヒョの口元に瓶を当て、無理やり液体を流し込んだ。


「飲み込め」


「息が……」


「飲み込まなきゃ生きられない」


ジヒョはほとんど反射的に飲み込んだ。

苦い味が口の中に広がった。


今度は匂いも味も感じた。


生きていた。


ポーションが喉を通って下りると、脇腹の痛みが少し引いた。

傷が完全に消える感じではなかった。

裂けた場所を無理やり縫い合わせたあと、火で焼きつける感覚に近かった。


それでも死にはしなかった。


食堂の主人はジヒョの胸の上に手を置いた。


「呼吸」


ジヒョはぜえぜえと息をした。


「して……ます」


「脈」


食堂の主人は手首に触れた。


「弱いが戻った」


「生きてます?」


「今のところはな」


「今のところ?」


「また刺されれば、また死ぬだろう」


ジヒョは目を閉じた。


「そういう当たり前の言葉が一番怖いです」


食堂の主人はスクロールがあった場所を見た。

羊皮紙はもうなかった。

光に燃えた文字も消えていた。

残っているのは空の保管筒だけだった。


ジヒョもそれを見た。

そして思い出した。


1億ゴールド。


「あれ……もう一回使えないんですか?」


食堂の主人はジヒョを見下ろした。


「使えるなら、俺が1億ゴールドを取ると思うか?」


「ですよね」


「使い捨てだ」


「命も使い捨てなのに、スクロールも使い捨てなんですね」


「お前の命はさっき分割払いに変わった」


ジヒョは笑おうとして、脇腹が痛んで顔をしかめた。


「その表現、本当に嫌です」


「慣れろ」


食堂の主人は空の保管筒を閉じ、鞄に入れた。

そしてジヒョの服の裾の近くに落ちていたハート型の物を拾った。


「これは何だ?」


ジヒョは反射的に手を伸ばした。


「それは僕の物です」


食堂の主人はハート型の物をのぞき込んだ。


「玩具みたいだな」


「はい。玩具みたいなものです」


「死んだ奴が魂の状態でも、あんなに探していた物が?」


ジヒョは口を閉じた。


食堂の主人はそれ以上問い詰めず、それをジヒョの手の上に載せた。


今度はつかめた。

小さく硬い感触が手のひらに触れた。

ジヒョはその感触だけで、不思議と安心した。


遅かったが。

本当に、あまりにも遅かったが。

今なら壊せた。


食堂の主人が言った。


「立てるか?」


「立てない気がします」


「よし。なら行くぞ」


「いや、立てないって言ってるんですけど。それに、どこへ?」


「俺の食堂だ」


「どうしてそこへ?」


「帳簿を書きに行くんだ。ここに寝かせたまま帳簿を書くのか?」


ジヒョには答える力がなかった。


その時、路地の外から足音が聞こえた。

軽くて速い足音だった。


まもなく小さな影が路地の中へ駆け込んできた。


タウロだった。


犬のように尖った耳が上へぴんと立っていて、両手には買ってきた荷物がいっぱいに抱えられていた。

背中にも包みがぶら下がっていた。


小さな体に比べて荷物が多すぎるように見えたが、タウロは不思議なくらいうまくバランスを取っていた。


「ボス! 何があったんですか?」


食堂の主人は顔だけを向けた。


「ん。何もない」


「何もないわけないじゃないですか。中から悲鳴が聞こえたんですよ。僕はボスに何かあったのかと思ってびっくりしたんですから」


「おい。何かあったと思ったなら、さっさと走って来いよ。なんで今来るんだ」


タウロは抱えていた荷物を少し持ち上げて見せた。


「荷物はどうするんですか。誰かが持っていったらどうするんです」


「今それを心配するのか?」


「どうせ荷物をなくしたら、僕の週給から引くじゃないですか」


食堂の主人は少し口を閉じた。


「それはまあ、そうだな」


「絶対に自分が責任を取るとは言わないんですね」


タウロはその時ようやく、地面に座り込んでいるジヒョを見た。


いい服より、血が先に目に入った。

顔からは血の気が抜けていて、息は今にも途切れそうなほど細く続いていた。


タウロの耳がぴくりと動いた。


「ところで、その死にかけのお坊ちゃんは誰ですか?」


食堂の主人はジヒョを見下ろした。


「ん? ああ。このお坊ちゃんか?」


彼は当然のように言った。


「うちの食堂の新しい従業員」


ジヒョは何かを言おうとしたが、唇が少し動いただけだった。


食堂の主人は空の保管筒と鞄を片づけた。

タウロも抱えていた荷物を持ち直した。


食堂の主人はジヒョに向かって言った。


「さっさと立ってついてこい」


「立て……ないんですが」


「なら這ってでも来い」


「ひどいですね」


「助けただろ」


ジヒョは反論できなかった。


食堂の主人はジヒョの口元に残っていた1ゴールド硬貨を拾い上げた。

血のついた金色の硬貨は小さく、みすぼらしかった。


だが食堂の主人はそれをジヒョの手に握らせた。


「それと、これだ」


ジヒョはかろうじて指を丸めた。


「1ゴールドですか?」


「そうだ。その硬貨がお前を助けたんだ」


ジヒョはぼやけた目で硬貨を見つめた。


「これが?」


「俺にお前を見つけさせたからな」


食堂の主人は短く言った。


「大事に持っておけ」


ジヒョは答えられなかった。

手のひらの中の1ゴールドだけを、どうにか握っていた。


食堂の主人はタウロのほうを見た。


「さて、俺たちもそろそろ行くか」


「はい、ボス」


ジヒョは食堂の主人にほとんど引きずられるようにして路地を出た。

大通りを通り、食堂の裏手の路地に入る頃には、ジヒョの足は完全に力を失っていた。


食堂の裏口の前で、彼はそのまま崩れ落ちた。


「あ」


タウロが荷物を持ったまま止まった。


「倒れましたけど?」


食堂の主人はジヒョを見下ろした。


「今日一日、ずいぶん苦労して力が尽きたんだろ」


食堂の主人は裏口を押し開けた。


「タウロ、お前は買ってきた物を全部片づけろ」


「はい」


食堂の主人は厨房の奥へ向かって声を張った。


「ブルン!」


少しして、奥から重い足音が聞こえた。

料理長が出てきた。


最初に見えたのは広い肩だった。

太い腕の下には分厚いエプロンがかかっていて、髭の先には小麦粉が少しついていた。


彼は食堂の主人と、地面に倒れているジヒョを交互に見た。


「今度はまた何だ?」


食堂の主人がジヒョを指差した。


「こいつを持って、空き部屋に寝かせておけ」


料理長が眉をひそめた。


「誰だ?」


「うちの食堂の新しい従業員」


料理長はジヒョを見下ろした。


「どこでこんなのをまた拾ってきたんだ?」


「路地だ」


「路地で従業員を拾ってくるのか?」


料理長はぶつぶつ言いながらも、ジヒョをひょいと持ち上げた。

ジヒョの体が力なくだらりと垂れた。


料理長はジヒョを抱え、奥の部屋へ歩いていった。



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