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EP02. 1億ゴールドの命 - #1 どちらへ行かれるんで?

#1 どちらへ行かれるんで?


目の前が真っ白に閃いた。

ジヒョは体が下へ落ちる感覚を感じた。

エレベーターのロープが切れたみたいに、胃が揺れた。


「う、ちょっと……」


言葉を言い終える前に、足の裏が地面に触れた。


トン。


ジヒョはよろめきながら、なんとか体勢を立て直した。


「……着いたのか?」


彼は息を吸い込んだ。

空気が喉を通って肺に入ってきた。

胸が膨らんで、また沈んだ。

心臓が動いていた。


ジヒョは目を大きく開いた。


「息ができる?」


彼は自分の胸に触れた。

どくん、どくん。

心臓の鼓動が手のひらに伝わった。


「体がある」


死んだ時は違った。

冥府の門の前でも、女神に引っ張られていく途中でも、待機室に立っていた時でも、体という感覚はどこかぼんやりしていた。


けれど今は違った。


ジヒョはゆっくりと手を持ち上げた。

指があった。

彼は指を一本ずつ折ったり開いたりした。

つま先で地面を軽く突いた。


「地面も踏めるし」


ジヒョはしばらく呆然と自分の体を見下ろした。


死んで、冥府へ行って、女神に引っ張られていった。

待機室で忘れられ、補償交渉の末にここへ落とされた。

そのすべてが、頭の中を順番に通り過ぎた。


ジヒョは静かにつぶやいた。


「本当にまた生き返ったんだな」


少しして、彼は自分の顔を確認しようと周囲を見回した。

ちょうど道端に水が溜まった低い桶があった。

ジヒョはそちらへ近づき、水に映った顔をのぞき込んだ。


「……わあ」


見慣れない顔だった。

だが悪くなかった。

いや、正直よかった。


背も高かった。

顔も整っていた。

目元もはっきりしていて、顎の線もきれいだった。

三十歳会社員の疲れがべったりこびりついた顔ではなかった。


ジヒョは水に映った自分の顔をしばらく見てから言った。


「女神様」


彼は少し言葉を止めた。


「外見だけはちゃんとしてくれましたね」


その部分は認めるしかなかった。


「二十歳の体か……」


言葉にすると、少し実感が湧いた。

死ぬ前の体よりずっと若かった。

肩はほどよく広く、体は細めだが、ひょろひょろに見えるわけではなかった。

姿勢さえまっすぐにすれば、どこかのいい家の子だと言われても信じられそうだった。


そして、まさにそこが問題だった。


ジヒョは自分の服を見下ろした。


「……服も良すぎないか?」


布が柔らかかった。

袖と襟にはきれいな装飾が入っていた。

ボタンは淡く輝いていて、ベルトも普通の物には見えなかった。


ジヒョは襟を軽く引っ張った。


「これ、初心者の基本装備で合ってるのか?」


どう見ても違った。

初めて異世界に落ちた人間が着る服というより、どこかの金持ちのお坊ちゃんが散歩に出る時に着る服みたいだった。


ジヒョは少し満足そうな表情を浮かべた。

だが、すぐに眉をひそめた。


「で、金は?」


彼は慌てて懐を探った。


最初に手に触れたのは小さな物だった。

ハート型。

ピンク色。

きらきらした玩具みたいな物。


ジヒョはそれを手のひらに乗せて、しばらく見つめた。


「女神呼び出し券」


壊せば女神が来ると言っていた。

もちろん、その女神が時間通りに来るかどうかは別の問題だった。


ジヒョはハート型の物を、また慎重に懐へ入れた。


「これは本当に切羽詰まった時だけ使おう」


次に彼は金を探した。

指先に小さな硬貨が一つ引っかかった。

ジヒョはそれを取り出し、手のひらの上に乗せた。


金色の硬貨だった。


「1ゴールド」


女神がくれた、初めて持った金だ。

とても大事なお金だと言っていた。

そして相場を尋ねると、何でも買えると言っていた。


ジヒョは硬貨をじっと見つめた。


「何でも買える、か……」


彼はしばらく沈黙した。


「大事ではあるな。全財産だから」


ジヒョは1ゴールドをまた懐の奥深くへ入れた。


ジヒョはゆっくりと顔を上げた。

周囲には見知らぬ街が広がっていた。


壮麗な王都ではなかった。

天を突くような城壁も、金色の屋根が並ぶ大都市でもなかった。


低い建物。

石と土が混ざった道。

荷車の車輪跡。

壁にかかった古びた看板。

窓辺に干された布と、路地脇に積まれた木箱。


だが、静かではなかった。


人が多かった。


荷車を引く人。

籠を持った人。

肩に荷物を担いだ人。

店の前で値段を呼ぶ商人。

どこかへ急いで歩いていく、冒険者のように見える人たち。


遠く、市場らしき場所からは、商人たちが客を呼び込む声がかすかに聞こえた。

話し声と笑い声、車輪が擦れる音と足音が一つに混ざっていた。


ジヒョは周囲を見回しながら言った。


「ひとまず、人が住む場所ではあるな」


彼は後ろの路地を見た。


「ここがエルヴェリアで合ってるのか?」


答えはなかった。


女神はエルヴェリア王国の首都エルヴェリアへ送ると言っていた。

名前、きれいでしょとも言っていた。

自分が作ったとも言っていた。


だが、正確にどこへ行けばいいのか、誰を訪ねればいいのか、何をすればいいのかは言ってくれなかった。


ジヒョは深く息を吸った。


「よし。まず確認すること」


彼は指を一本ずつ折った。


「一つ目、ここが正確にどこなのか」


二本目の指が折れた。


「二つ目、1ゴールドで何ができるのか」


三本目の指が折れた。


「三つ目、今日寝る場所」


四本目の指を折ろうとして、止まった。


「四つ目……生き残ること」


その言葉が口から出た瞬間、妙に不吉だった。


ジヒョは自分の服装をもう一度見下ろした。


見知らぬ街。

一人でいるよそ者。

やけにきちんとした服。


彼はゆっくりと周囲を見回した。


「……これ、変に目立ってないか?」


遠くから市場の音が聞こえた。

人がいるほうへ行けば情報を得られるはずだった。

だが同時に、人の目にもつくはずだった。


ジヒョは少し悩んだ。

それでも、ここに立ち続けるわけにはいかなかった。


「ひとまず人が多いほうへ行こう」


彼は慎重に足を踏み出した。


その瞬間、路地のどこかから誰かがジヒョを見ていた。

ジヒョはまだその視線に気づいていなかった。


彼はただ、見知らぬ街を眺めながらつぶやいた。


「まずはここがどこかから調べないとな」


ジヒョは市場の音がするほうへ歩き出した。

荷車の車輪が石畳を擦る音、商人たちが値を呼ぶ声、人々が笑ってしゃべる声が一つに混ざっていた。


見知らぬ街で最初に向かうべき場所は、静かな路地ではなく人の多い場所だった。


「とりあえず、あっちへ行けば何か分かるだろう」


ジヒョは自分の服装をもう一度見下ろした。


やけにきちんとしていた。

最初はいいと思った。

だが、いざ見知らぬ街角に一人で立ってみると、この服装がまるで灯りのように感じられた。


暗い場所で一人だけ光る灯り。


彼はなんとなく襟元を手で押さえた。


「早く人が多いところへ行こう」


彼が道端を抜けようとした、その時だった。


路地の陰から声が聞こえた。


「お坊ちゃん」


ジヒョは足を止めた。


最初は自分に向けられた言葉だとは思わなかった。

彼は横を見て、後ろを見て、また前を見た。


だが、道端には自分しかいなかった。


路地の入口に男が三人いた。

一人は壁にもたれていて、一人は木箱の上に座っていた。

残りの一人は腕を組んだままジヒョを見ていた。


腕を組んだ男が笑った。


「そう。お坊ちゃんのことだよ」


ジヒョは自分の胸を指で示した。


「僕のことですか?」


「じゃあ、ここにお坊ちゃんが他にもいるのか?」


木箱の上に座っていた男が低く笑った。


「どう見てもお坊ちゃんだってのに、本人だけ分かってねえな」


ジヒョはぎこちなく笑った。


「僕はお坊ちゃんではありません」


「違うのか?」


腕を組んだ男は、ジヒョの顔より先に服を見た。

袖、ボタン、ベルト、靴までゆっくりと眺めた。

その目つきは露骨だった。


「じゃあ貴族様か?」


「それも違います」


「商会の息子?」


「違います」


「じゃあ何だ?」


ジヒョはすぐには答えられなかった。


会社員でした、と言うわけにもいかなかった。

死んで女神に連れてこられて、たった今異世界に落ちました、と言うわけにもいかなかった。


彼は短く言った。


「事情があります」


壁にもたれていた男が、ふっと笑った。


「事情のあるお坊ちゃんだとよ」


木箱の上の男が、座ったまま足をぶらつかせた。


「迷子で決まりだな」


腕を組んだ男がまた尋ねた。


「どこへ行くんだ?」


ジヒョは市場のほうを指差した。


「市場のほうへ行こうとしていました」


「市場?」


「はい」


「初めて来た街だろ?」


「はい」


「一人で?」


「はい」


「護衛は?」


「いません」


「使用人は?」


「いません」


「荷物持ちもなし?」


「いません」


男たちの表情がほんの少し変わった。


笑ってはいた。

だがジヒョは、その笑みがさっきよりも気楽なものになったことに気づいた。


親切になったのではなく、気が楽になった顔だった。


ジヒョはゆっくりと言った。


「どうしてそんなことを聞くんですか?」


腕を組んだ男は肩をすくめた。


「助けてやろうと思ってな」


「助けてくださるんですか?」


「迷ってるんだろ?」


「迷っているわけではありません。ただ市場へ行こうとしているだけです」


「だから助けてやるって言ってるだろ」


男は路地の奥を顎で示した。


「市場へ行くなら、こっちが早い」


ジヒョは路地の中を見た。


道は狭かった。

日差しは壁の上のほうにだけかかっていて、下は半分ほど陰になっていた。

古い木箱がいくつか壁際に積まれていて、地面には乾いた土埃と荷車の車輪跡が残っていた。


市場の音は聞こえた。

だが、その路地の中に人の姿は見えなかった。


ジヒョは首を横に振った。


「大丈夫です。大通りから行きます」


腕を組んだ男の笑みが少し固まった。


「大通り?」


「はい。初めて来た場所なので。大通りのほうがよさそうです」


「大通りは遠回りだ」


「遠回りでも大丈夫です」


「遠いって言ってるんだよ」


「時間はあります」


木箱の上に座っていた男が、ゆっくりと下りてきた。


「お坊ちゃん、思ったより臆病だな」


ジヒョはその男をちらりと見た。


「慎重なだけです」


「同じことだろ」


壁にもたれていた男も体を起こした。

ジヒョはその小さな動きを見逃さなかった。


一人が下りてきて、一人が体を起こし、正面の男は路地の入口からどかなかった。


ジヒョは一歩後ろへ下がった。


「では、僕はこれで失礼します」


その時、後ろで足音が止まった。


ジヒョはゆっくりと振り返った。

さっきまではいなかった男が一人、道の後ろに立っていた。


通りすがりに見せかけるには、位置が正確すぎた。

彼はジヒョの退路を塞ぐように立っていた。


手には何も持っていなかったが、体の向きはジヒョへ向いていた。


後ろの男が笑いながら言った。


「どちらへ行かれるんで?」



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