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EP03. そのスクロールはどうやって手に入れるのですか? - #6 滑らせないように気をつけろ、GM

#6 滑らせないように気をつけろ、GM


だが、指先はスクロールに届かなかった。


確かに目の前にあった。

手を伸ばせば掴める距離だった。


なのにスクロールは指先に触れる直前、光のように滑って逃げた。


ジヒョは虚空を掴んだまま固まった。


「なんで掴めない?」


女神がスクロールを指先に乗せたまま言った。


「言ったでしょ。私が作ったものだから」


「今作ったじゃないか」


「作ることはできる。見せることもできる」


女神はスクロールを軽く持ち上げてみせた。


「でも、君が直接触ったり使ったりすることはできない」


「なんで?」


「規則だよ」


「また規則」


「さっき言ったでしょ。人間が使えるようにするには、宝箱やダンジョン報酬みたいな形で配置されなきゃいけないの」


ジヒョはスクロールを睨みつけた。


「つまり、君が作ったものを俺がその場で奪うのは駄目で」


「うん」


「どこかの宝箱に入ったあとで、ようやく掴める?」


「うん」


「その宝箱はどこにあるんだ?」


女神は答えなかった。


ジヒョは歯を食いしばった。


「目をそらさないで」


「それは私にもわからない」


「わからない?」


「正確にどこへ配置されるかは、私が決めることじゃないの」


「じゃあ、今のこれは?」


完成したスクロールが光に変わり始めた。

女神は手を離した。


「これから宝箱に入るよ」


「どこに」


「どこかに」


「そのどこかが一番問題なんだよ」


光が消えた。


スクロールも消えた。


ジヒョはしばらく空っぽの虚空を見つめた。


ついさっき、目の前に答えがあった。

手を伸ばせば掴めると思った。


なのに掴めなかった。


女神は言った。


「それでも方向はわかったでしょ」


ジヒョは答えなかった。


方向。


そうだ。

方向はわかった。


だが、その方向へ進むには必要なものが多すぎた。


ジヒョは自分の手を見下ろした。


手は相変わらず普通だった。

けれど今、その手にはスクロールを作れる技術が入っていた。


問題は、その技術だけがあるということだった。


ジヒョは小さくつぶやいた。


「扉は見つけたけど」


女神が彼を見た。


ジヒョは虚空を見たまま言葉を続けた。


「鍵が多すぎるな」


女神は消えようとした。


ジヒョはすぐに手を上げた。


「待て」


女神が止まった。


「何?」


「まだ聞きたいことが山ほどある」


「さっきかなり聞いたでしょ」


「全然足りない」


「それは君の状況が複雑だからだよ」


「誰がそうしたんだ?」


女神は口を閉じた。


ジヒョはその隙を逃さなかった。


「《マジック》スキルはどうやって上げて、マナはどうやって増やして、スペルブックはどこで手に入れて、8サークル・ブランク・スクロールはどこで売ってるんだ?」


「一度にそんなに聞かないで」


「俺の人生が一度に壊れすぎたんだよ」


女神は視線をそらした。


ジヒョは目を細めた。


「また逃げたな?」


「今回は逃げたで合ってる」


「認めるのは早いな」


「答えにくいから」


「なんで」


「それは君が自分で知っていかなきゃいけない部分だから」


ジヒョは呆れた。


「説明書もなしに放り出して、自分で知っていけ?」


「基本説明はしたでしょ」


「扉はあるけど鍵が多いって言ったら、鍵の場所は自分で探せってことか?」


「うん」


「本当に誠意がないな」


「でも、扉はできたよ」


ジヒョは答えられなかった。


その言葉は正しかった。


ついさっきまでは道すらなかった。

今は少なくとも方向があった。


《インスクリプション》スキル100.0。

グランドマスター・スクライブ(Grandmaster Scribe)。


それだけは本物だった。


女神はジヒョを見て言った。


「それと、気をつけて」


「何を」


「鑑定所」


ジヒョは表情を固めた。


「触ったらすぐバレるから?」


「違う。それは君にしか見えない」


「他の人は?」


「見えない」


「じゃあ何に気をつけろっていうんだ」


女神は少しの間、ジヒョの口元を見た。


「君の口」


「……」


「君が言えばバレる」


ジヒョは一拍遅れてうなずいた。


「あ。気をつけないとな」


「うん。君の熟練度は普通の数値じゃない」


「じゃあ隠さないといけないな」


「これからはね」


「隠すものがどんどん増えていく」


「でも、見ること自体は大丈夫」


「俺が自分で見るのは?」


「うん。君にしか見えないから」


「ステータスウィンドウみたいなものか?」


「似てる」


ジヒョは少し考えた。


他人には見えない。

自分の目には見える。

言わなければバレない。


その一つは、確かに使えそうだった。


「じゃあ、それ一つは使えそうだな」


「一つは?」


「今まで君がくれたものの中では」


女神は少し不満そうな顔をした。


「言い方がひどい」


「状況のほうがひどい」


女神は反論できなかった。


しばらく沈黙が流れた。


ジヒョはその沈黙の中で自分の手を見下ろした。


ついさっきまでは普通の手だった。

今も見た目は普通だった。


だが、その中にスクロールを作る技術が入っていた。


問題は、その技術を使うための材料がないことだった。


スペルブックもない。

魔法の実力もない。

マナも足りない。

触媒もない。

ブランク・スクロールもない。


あるのは技術だけ。

そして返さなければならない借金。


ジヒョは小さく息を吐いた。


「よし」


女神が首を傾げた。


「何がいいの?」


「道はできた」


「そうでしょ?」


「でも長すぎる」


「それは君が歩かなきゃ」


「俺が? じゃあ君は?」


「私はここまで」


「本当に最後まで無責任なんじゃないか?」


「無責任じゃないよ」


「じゃあ何なんだ」


女神は少し考えた。


「間接支援?」


「直接事故を起こしておいて間接支援って」


「事故は……」


女神が言葉を濁した。


ジヒョがすぐに言った。


「起こしただろ」


「少し」


「かなり」


「少し……かなり」


「そこを合わせるな」


女神は口を閉じた。


ジヒョはもっと問い詰めたかった。


だが、今すぐ引き出せるものはなさそうだった。


ハート型のおもちゃもすでに壊れた。

また呼べるのかもわからなかった。


ジヒョは女神を見た。


「また呼べるのか?」


「簡単には無理。私、思ったよりかなり忙しい女神だから」


「そうだと思った」


「本当に必要なら、呼ぶ方法ができるかもしれない」


「その言葉が一番信じられないんだけど」


「それでも覚えておいて」


女神の体が光でぼやけ始めた。


ジヒョは急いで尋ねた。


「おい」


「何?」


「俺は本当にこれで生き残れるのか?」


女神はすぐには答えなかった。


今回は視線をそらしもしなかった。

彼女はジヒョをまっすぐ見た。


「生き残らなきゃ」


「答えはそれだけか?」


「うん」


「誠意がないな」


「でも、正しい言葉だよ」


女神の姿がだんだん薄くなった。


「君が選んだスキルなんだから」


「君が選択肢をこうしたんだろ」


「それでも選んだのは君だよ」


ジヒョは答えられなかった。


女神はかすかに笑った。


「それじゃあ、頑張って。グランドマスター・スクライブ」


その言葉を最後に、女神は消えた。


光も消えた。


部屋の中にはジヒョだけが残った。


ジヒョはしばらくその場所を見つめた。


ついさっきまで目の前にいた女神はいなかった。

完成したスクロールもなかった。

手に残ったものもなかった。


だが、頭の中には残っていた。


ジヒョは手を握って開いた。


「グランドマスター・スクライブか」


言葉は仰々しかった。

聞くだけなら、とんでもない人間になったようだった。


だが現実は二階の部屋だった。


そして、もうすぐ自分を連れていくロレンツォ。


ちょうどその時、扉の外から声が聞こえた。


「終わったか?」


ジヒョは顔を向けた。


扉が開いた。


ロレンツォが顔だけを覗かせた。


「体の確認は終わったか?」


ジヒョはしばらく彼を見た。


「はい」


「無事か?」


「無事ではありませんが、動くことはできます」


ロレンツォはジヒョを上から下まで眺めた。


「一人でぶつぶつ言っていたから、頭もやったのかと思ったぞ」


「頭は無事です」


「それは本人が判断することじゃない」


「そういう言い方が一番不安なんですが」


「不安なら下りてこい」


「今すぐですか? 明日からって言っていたじゃないですか」


「今日は少し忙しい。お前にも手伝ってもらう」


ジヒョは口を閉じた。


ついさっきまで、彼は8サークルスクロールの制作条件を聞いていた。

《インスクリプション》スキル100.0を得た。

グランドマスター・スクライブ(Grandmaster Scribe)になった。

理論上は、高位スクロール制作の道に入った。


なのに今は、皿に呼び出されていた。


ジヒョはゆっくり立ち上がった。


体はまだ重かった。

だが、少し前とは違った。


無理やり引きずられるだけの感覚ではなかった。


胸の奥に、ごく小さな火種のようなものができていた。


まだ火と呼ぶには弱かった。

だが消えてはいなかった。


ジヒョはロレンツォについて部屋を出た。


廊下を抜けて階段を下りると、食堂の裏手が見えた。


そこには大きな木桶が置かれていた。

中には水が入っていた。


そしてその横には、洗うべき皿が山のように積まれていた。


ジヒョは足を止めた。


「あれは何ですか?」


ロレンツォが答えた。


「お前の最初の仕事」


「まさか」


「『まさか』で皿は洗えない」


ジヒョは皿の山を見た。


多かった。

多すぎた。


「僕、さっきすごいスキルを手に入れたんですけど」


ロレンツォがジヒョを見た。


「そうか」


「はい」


「そのスキルで皿は洗えるのか?」


ジヒョは口を閉じた。


「……いいえ」


「じゃあ手で洗え」


「グランドマスターなんですけど」


ロレンツォが一瞬止まった。


それからジヒョをじっと見た。


「グランドマスター?」


ジヒョはそこでようやく、自分が何を言ったのか気づいた。


「いや、それは」


「頭は無事だと言っていたのに」


「本当に無事です」


「さっきのは少し違う気がしたが」


「言葉がそう出ただけです」


「そうか。頭をやったやつらも、たいていそう言う」


ジヒョは唇を閉じた。


説明できなかった。

説明すればもっとまずい。


ロレンツォは皿の山を顎で示した。


「皿の立場からすれば、何の意味もない」


「皿の立場まで考えないといけないんですか?」


「割れたらお前の借金に追加するから考えろ」


ジヒョは静かに皿を見下ろした。


皿が急に高そうに見えた。


ロレンツォは袖をまくるような仕草をした。


「水に浸けて、油を拭いて、すすいで、あっちに積め」


「僕が生き返ってからまだあまり経っていない体だということは覚えていますか?」


「覚えている。頭のほうも少し心配だということもな」


「言っておきますが、僕の頭は極めて正常です」


「正常な人間は自分をグランドマスターとは言わない」


「その部分、忘れていただけませんか?」


「いい冗談は取っておかないとな」


「冗談ではありませんでした」


「なら、なおさら取っておかないとな」


ジヒョは答えられなかった。


ロレンツォは水桶の横に小さな木椅子を引いてきた。


「座れ」


ジヒョは椅子に座った。


水桶の前だった。

皿の山の前だった。


人生の大きな方向が、とても低いところへ折れ曲がる瞬間だった。


ジヒョは一枚目の皿を手に取った。


ぬるりとしていた。

油が残っていた。


彼はゆっくり布を持った。

そして皿を拭き始めた。


一回。

二回。


油はなかなか落ちなかった。


ジヒョは皿を睨みつけた。


「これにもスキルが必要なんですか?」


ロレンツォが答えた。


「慣れれば上がる」


「まさか皿洗いスキルまであるわけじゃないですよね?」


「あるかもしれないな」


「できればないほうがいいです」


「あるならお前にはいいことだろ」


「僕の人生が妙な方向に成長しそうなんですが」


「成長はいいことだ」


「皿洗いで?」


「生きているからな」


その言葉に、ジヒョは少し止まった。


生きているから。


ロレンツォは妙に何度もその言葉を言った。

そしてその言葉は、毎回反論しづらかった。


死んでいたら皿も洗えない。

生きているから洗う。


それが慰めなのか、脅しなのか、現実なのかはわからなかった。


ジヒョはまた皿を拭いた。


頭の中には今もスクロールの文様が漂っていた。

指先には油がついていた。


その落差があまりにも大きくて、笑いが出そうになった。


グランドマスター・スクライブ。

皿洗い担当。


二つの言葉が同じ人間にくっついていた。


ジヒョは小さくつぶやいた。


「よし」


ロレンツォが顔を向けた。


「何がいい?」


ジヒョは皿を水に浸けた。


「これで確実に道はわかりました」


「そうか」


「でも」


彼は目の前の洗い桶を見た。


泡が浮いていた。

皿はまだたくさん残っていた。


ジヒョはごく小さく言った。


「道の入口が洗い桶ですね」


ロレンツォは少しの間ジヒョを見た。


それから短く言った。


「滑らせないように気をつけろ、GM」


ジヒョの手が止まった。


「GMって何ですか?」


「お前、グランドマスターなんだろ」


「それをどうして略すんですか?」


「グランドマスター。長いだろ」


「僕の名前はジヒョです」


「GMのほうが短い」


「人の名前を肩書きで代用しないでください」


「肩書きはあるのか?」


「ありません」


「決まりだな。うちのグランドマスター様」


ジヒョは口を閉じた。


ついさっき自分がそう言った。

正確には、悔しくて言った。


グランドマスターなのに皿洗いをさせるのか、という意味だった。


だがロレンツォは、それを非常に気に入った顔をしていた。


「俺も生きている間に、本物のGMなんて一度も見たことがないんだが」


ロレンツォが言った。


「ここで見られるとはな」


「僕を信じているんですか?」


「いや」


「では、どうしてそう呼ぶんですか?」


「からかいやすいだろ」


ジヒョは皿をもう一度見下ろした。


「本当に一貫してひどい理由ですね」


「褒め言葉、ありがとな」


「褒めていません」


「知ってる」


ロレンツォは皿の山を顎で示した。


「頑張れ、GM」


「僕はジヒョです。ジヒョ」


「そうか、GM」


「聞きたいことだけ聞くんですね」


「商売には必要な能力だ」


ジヒョは歯を食いしばって皿を拭いた。


グランドマスターだということは隠さなければならなかった。

なのに自分は洗い桶の前で、その言葉を先に口にしてしまった。


幸いロレンツォは信じなかった。

問題は、信じなかったせいで余計に面倒になったという点だった。


生きている間に本物のGMを一度も見たことがないと言った。


その言葉はつまり、本当にバレたら問題は小さくないという意味だった。


ジヒョは皿を水に浸けた。

泡が手の甲についた。


スクロールの文様は頭の中に漂い、指先には油がついていた。


グランドマスター・スクライブ。

皿洗い担当。

そして、たった今できたあだ名。


GM。


ジヒョは静かに考えた。


これからは本当に気をつけなければならない。


その瞬間、ロレンツォの声が後ろからまた聞こえた。


「もう少し速度を上げろ、GM」


「ジヒョです」


「そうか、GM」


ジヒョは答えなかった。


彼は二枚目の皿を手に取った。


そしてまた拭き始めた。


こうしてジヒョに、異世界での最初の職場ができた。


大企業ではなかったけれど。



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