EP03. そのスクロールはどうやって手に入れるのですか? - #4 インスクリプション
#4 インスクリプション
「投資ですか?」
「ああ」
「人を生き返らせておいて、投資って表現するんですか?」
「投資ってのは、もともと危険を引き受けてやるものだ」
「僕は商品じゃないんですけど」
「だから損が大きいんだ」
「今のは慰めですか、侮辱ですか?」
「両方だ」
「その言葉、本当に使い道が多いですね」
「覚えておくと楽だ」
ジヒョは椅子の背もたれに体を預けようとしたが、脇腹が引きつって、また姿勢を直した。
痛かった。
それでも最初よりは少し慣れてきた。
全部ではないが、少なくとも一つはわかった気がした。
ロレンツォはジヒョを騙そうとはしない。
よく見せようと取り繕うこともしない。
ただ帳簿を開いて、ありのままに言う。
それが余計に腹立たしくもあった。
「では、僕はこれからどうなるんですか?」
ロレンツォは帳簿を閉じた。
「働くんだ」
ジヒョは目を閉じた。
結局そこだった。
「僕に何ができるって言うんですか?」
「知らないなら覚えればいい」
「体もまだまともに動きません」
「今日いきなり倒れるまでこき使うつもりはない」
ジヒョは目を開けた。
「それはまだ幸いですね」
「明日から本格的にやる」
「全然幸いじゃないじゃないですか」
「簡単なことからやらせる」
ジヒョは嫌な予感がした。
「簡単なことですか?」
ロレンツォが厨房のほうを顎で示した。
「皿だ」
「はい?」
「皿洗いなら腕だけ動かせばいい」
「腕にもあまり力が入らないんですけど」
「じゃあ、ゆっくり洗え」
「それが簡単な仕事なんですか?」
「刺されて死ぬよりは簡単だ」
ジヒョは言い返せなかった。
比較対象が強すぎた。
厨房のほうから油の匂いと、煮立つスープの匂いが押し寄せてきた。
食器がぶつかる音が、だんだんはっきり聞こえてきた。
そして、とてもはっきりした労働の匂い。
ジヒョは椅子の上でゆっくり姿勢を直した。
脇腹が重く引きつった。
それでも明日からは起き上がらなければならなかった。
死んでいたら何もできない。
生きていれば、少なくとも皿は洗える。
それがいいことなのかはわからないが。
ロレンツォが帳簿を脇に挟んだ。
「おい」
「僕の名前はハン・ジヒョです」
「ああ。知ってる。おい」
「まだ僕の名前を発音できないんですか?」
「大事なのはそこじゃないだろ。金はないな?」
「ありません」
「行くところもないな?」
「ありません」
「なら答えは一つだ」
ジヒョはもう答えを知っていた。
それでも聞かずにはいられなかった。
「何ですか?」
ロレンツォが言った。
「働け」
ロレンツォは帳簿を脇に挟んだまま、厨房のほうを顎で示した。
「立たないのか?」
ジヒョはまだ椅子に座っていた。
テーブルの上に帳簿はなかった。
だが、ジヒョの目にはまだその帳簿が見えている気がした。
〈リザレクション〉スクロール使用料。
そしてその下に書かれていた、馬鹿げた数字。
ジヒョはゆっくり顔を上げた。
「ちょっと待ってください」
ロレンツォが足を止めた。
「また何だ」
「〈リザレクション〉スクロールがそんなに高いとおっしゃったじゃないですか」
「言ったな」
「8サークルだともおっしゃいましたよね」
「ああ」
「では、それはどうやって手に入れるんですか?」
ロレンツォが眉を少し動かした。
「なぜそれを聞く?」
「気になるので」
「気になっている顔じゃないな」
「借金した人間の顔です」
「なら、もっと働くべき顔だな」
「働きます。でも、知ってから働くべきでしょう」
ジヒョはロレンツォの脇に挟まれた帳簿を指差した。
「僕がスクロールを知らないからって、安い物をとんでもない値段で背負わされたのかどうか、どうやってわかるんですか?」
ロレンツォは少しの間ジヒョを見た。
その顔には、苛立ちよりも興味のほうが少し多かった。
「疑うのが早いな」
「生き残るには、早いくらいがちょうどいい気がしまして」
「昨日は遅くて死んだじゃないか」
「わざわざ確認していただかなくても大丈夫です」
「確認しないと長生きできない」
ロレンツォは厨房へ行こうとしていたのをやめて、またテーブルのほうへ戻ってきた。
彼は帳簿を下ろさず、脇に挟んだまま言った。
「〈リザレクション〉スクロールは、その辺に転がっている物じゃない」
「それはわかります」
「8サークル魔法のスクロールだからな」
「8サークルというのは、どの程度なんですか?」
「頂点だ」
「その上は?」
「あるにはあるが、ない」
「それはどういう意味ですか?」
「何がだ」
「まったく理解できないんですけど。あるのにないんですか?」
「9サークル魔法はある」
「存在はするという意味ですか?」
「存在はする。書類上は」
「書類上ですか?」
「俺も見たことがない」
「それほどすごいものなんですか?」
「俺もよく知らん」
「よく知らないんですか?」
「見たことがあって初めて、すごいとも言えるだろ。見たことがないと言っているんだ」
「はい」
「ただ、8サークルが頂点だと思っておけばいい」
この世界の魔法体系で、8サークルは実質的な終わりという意味だった。
「では、〈リザレクション〉魔法もその頂点の魔法の一つということですか?」
「そうだ」
「人を生き返らせるのが頂点というのは、理解できます」
「理解が早いな」
「値段が理解できないだけです」
ロレンツォは帳簿を少し持ち上げて見せた。
「理解しろと書いておいた数字だ」
「あれは脅迫に近いです」
「効果はあるだろ」
ジヒョは言い返せなかった。
効果はあった。
とても確実にあった。
「8サークル魔法は全部そんなに高いんですか?」
「安くはないな」
「だいたいどのくらいですか?」
「まともな8サークルスクロールなら、お前の帳簿に書かれた金額がスタートラインだと思えばいい」
ジヒョは静かに口を閉じた。
高く吹っかけられた値段ではなかった。
スタートライン。
その言葉のほうが、さらに気分を悪くした。
ロレンツォは淡々と付け加えた。
「取引がきちんと成立すれば、何倍にもなって売れるだろうな」
「さっきは、なかなか売れないと言っていたじゃないですか」
「売れることと、安全に売れることは違う」
ジヒョはその言葉を噛みしめた。
〈リザレクション〉スクロールは高かった。
貴重で、危険だった。
そのうえ売るのも難しかった。
だが、誰かはそんな物を手に入れている。
ジヒョは体を少し前に傾けた。
「そういうものは、どこで手に入れるんですか?」
「方法はある」
ロレンツォは指を一本折った。
「宝の地図を手に入れて、宝箱を漁るか」
「宝箱ですか?」
「運がよければ、そこから出ることもある」
ジヒョは少し想像した。
宝の地図。
隠された箱。
その中に入っている8サークル魔法スクロール。
聞くだけなら冒険の話だった。
問題は、自分がついさっき路地の強盗に殺された人間だという点だった。
宝箱を探しに出る前に、町の不良にまた殺される可能性のほうが高かった。
ジヒョは静かに首を横に振った。
「それは今の僕の選択肢ではなさそうです」
「その姿で宝の地図を持って出たら、箱を探す前に棺桶を探すことになるだろうな」
「もう少し言い方をよくしてもらえませんか?」
「よく言えば生き残れるのか?」
「今日は現実を強めに突きつけてきますね」
「二回も死んだんだろ。三回目に死んだら、それは馬鹿だということだ。はっきり教えてやらないとな」
また言い返せなかった。
ジヒョは歯を食いしばって尋ねた。
「他の方法は?」
ロレンツォがもう一本指を折った。
「スクライブから手に入れるか」
ジヒョは初めて聞く単語に目を瞬いた。
「スクライブですか?」
「ああ」
「それは何ですか?」
「スクロールを作るやつだ」
ジヒョはその言葉を聞いた瞬間、帳簿から目を離した。
「スクロールを作るんですか?」
「そうだ」
「職業ですか?」
「職業にしているやつらもいる」
「では、正確には?」
ロレンツォは短く言った。
「《インスクリプション》スキルというものがある」
ジヒョはその単語をなぞるようにつぶやいた。
「インスクリプション」
口にはなじまなかった。
だが、不思議と耳にははっきり残った。
ロレンツォは大したことではないように付け加えた。
「スクロールを描くスキルだ」
説明はそれで終わりだった。
だが、ジヒョにとっては終わりではなかった。
スクロールを描くスキル。
ついさっき自分を助けたのもスクロールだった。
帳簿に刻まれた借金もスクロールのせいだった。
ロレンツォが保険と呼んだものもスクロールだった。
そしてそのスクロールは、誰かが作る。
ジヒョはゆっくり尋ねた。
「そのスキルに優れていれば、〈リザレクション〉スクロールも作れるんですか?」
ロレンツォは深く考えなかった。
「グランドマスターなら作れるだろうな」
答えがあまりにも簡単に出てきた。
まるで、剣が上手い人間がいい剣さばきをして、料理が上手い人間がおいしい料理を作るのと同じように言っている感じだった。
ジヒョはむしろ慎重になった。
「それは確かなんですか?」
「正確には知らん」
「はい?」
「俺はスクライブじゃないからな」
「では、さっき作れるだろうとおっしゃったじゃないですか」
「すごいスクロールは、すごいスクライブが作るだろ」
「それが説明ですか? では、8サークルスクロールを作れる人はいるんですか?」
「知らん。俺が知っているのはそこまでだ」
ロレンツォは手を適当に振った。
「誰が作れるのか、どんな呪文が必要なのか、スペル・ブックが必要なのか、触媒がどれだけ要るのか、マナがどれだけ必要なのか、そういうことは俺も知らん」
ジヒョはその言葉を聞きながら、むしろ目つきが変わった。
ロレンツォは詳しい条件を知らない。
それはわかった。
だが、重要な言葉はもう出ていた。
スクロールはスクライブが作る。
すごいスクロールはすごいスクライブが作る。
グランドマスターなら、もしかすると〈リザレクション〉スクロールも作れる。
それだけで十分だった。
ジヒョの頭の中で計算が始まった。
自分は帳簿の金額を返さなければならない。
〈リザレクション〉スクロールはそれだけ、いや、それ以上に高い物だ。
それを作ることができれば。
借金を返せる。
いや、借金を返すだけではない。
金を稼ぐこともできる。
ジヒョはロレンツォが持っている帳簿をまた見た。
ついさっきまでは牢獄のように見えていた。
だが、今は少し違って見えた。
ごくかすかに。
本当にごくかすかに。
脱出口の形に見えた。
ロレンツォはジヒョの表情を見て、目を細めた。
「何を考えている?」
「お金のことです」
「やっぱり好きなんだな」
「好きなんじゃなくて、生き残るには考えなきゃいけないことなんです」
「たいていのやつはそう言う」
ジヒョはロレンツォの言葉を聞き流した。
今は別の考えのほうが大事だった。
女神。
あの女神が言ったこと。
スキルを一つ、グランドマスターにしてやると言っていた。
その時は何を選べばいいかわからなかった。
剣術を選ぶべきか。
魔法を選ぶべきか。
商売を選ぶべきか。
何もわからなかった。
だから保留にした。
あの時は保留が最善だった。
だが、今は一つ見えた。
《インスクリプション》スキル。
スクロールを描くスキル。
ロレンツォが言った。
「目つきが変わったな」
ジヒョは顔を上げた。
「店主さん」
「何だ」
「スクロールを描くスキル」
「ああ」
「その名前は、正確に《インスクリプション》スキルで合っていますか?」
「正確に合っている」
「グランドマスターなら、とても高いんですよね」
ロレンツォはジヒョを不思議そうに見た。
「高いどころか、終わりだ」
終わり。
ジヒョはその言葉を聞いて、口元がほんの少し上がった。
体はまだ痛んだ。
脇腹の内側も重かった。
帳簿の借金は消えていなかった。
だが、少し前とは違った。
道ができた。
まだ扉が開いたわけではなかった。
もしかすると、扉の前に鍵がいくつもかかっているかもしれなかった。
それでも扉はあった。
ジヒョは小さくつぶやいた。
「インスクリプション」
ロレンツォが言った。
「何だ?」
ジヒョは首を横に振った。
「いえ。ひとまず確認することができました」
「何を」
ジヒョは懐の内側を思い浮かべた。
ハート型のおもちゃ。
女神を呼べると言っていた物。
死んだ時は手が体をすり抜けて、触ることもできなかった。
だが、今は違う。
手を入れれば取り出せた。
ジヒョは懐に入れようとした手を止めた。
「本当に大事な確認を一つだけします」
ロレンツォはジヒョの手を見た。
「何をするつもりだ」
「確認することがあります」
「何だ? そう言われると余計に気になるんだが」
「一人でやらないといけないことなので」
「ふむ……答えがどんどん怪しくなっているな」
「怪しいことではありません」
ジヒョはそう言ったあと、心の中でほんの少しだけ引っかかった。
怪しいことではあった。
かなり怪しかった。
だが、口に出すわけにはいかなかった。
ロレンツォの目が細くなった。
「傷でも開いたか?」
ジヒョは一瞬止まった。
嘘をつこうとしたわけではなかった。
だが、体が痛いのは事実だった。
脇腹も引きつっていたし、深く息を吸うと内側が重かった。
「体の状態も確認しないといけないので」
「なら、そう言えばいいだろ」
「言おうとしていました」
「そういう顔じゃないな」
「最近、僕の顔を信じすぎじゃありませんか」
「顔を見て投資したと言っただろ」
「その言葉、まだ気分が悪いです」
ロレンツォは短く笑った。
彼は少しの間ジヒョを見てから、上の階を顎で示した。
「嘘なのは見え見えだが、騙されてやる。二階の部屋を使え」
「はい?」
「お前が目を覚ました部屋だ。そこに入って、休むなり、傷を見るなり、一人で何かを確認するなりしろ」
「いいんですか?」
「時間がかかったら引きずり下ろす」
「ありがとうございます」
「感謝するなら皿を洗え」
「その感謝は今消えました」
ロレンツォは帳簿を脇に挟んだまま、厨房のほうへ向き直った。
「明日から働くんだから、体を壊すな」
ジヒョは返事の代わりに頷いた。
彼はゆっくり席から立ち上がった。
脇腹が引きつった。
だが、今回は歯を食いしばって動いた。
階段を上る道は、下りてくる時よりも長く感じた。
一段。
また一段。
ジヒョは手すりをつかんで二階へ上がった。
廊下はさっきより静かだった。
似たような扉が両側に並んでいて、そのうち一つがジヒョの目を覚ました部屋だった。
ジヒョは扉を開けて中に入った。
さっき目を開けた、あの部屋だった。
ジヒョは扉を閉めた。
ぎい。
扉が閉まると、下の階の音が少し遠くなった。
完全に消えたわけではなかった。
すべて扉の下からかすかに漏れ入ってきた。
ジヒョはそこでようやく懐に手を入れた。
小さく硬い物が触れた。
ジヒョはそれを取り出し、手のひらの上に乗せた。
改めて見ても滑稽だった。
神を呼ぶ物というより、祭りの屋台で売っているおもちゃのようだった。
問い詰めたいことは山ほどあった。
なぜあの世から人を連れていったのか。
なぜ待機室に放り込んでおいたのか。
なぜ勇者の体を逃したのか。
なぜ何の説明もまともにせず、ここへ送ったのか。
なぜゴールド一枚だけ持たせて終わらせたのか。
なぜ来た途端に死ぬような状況になったのか。
だが、今は怒る時ではなかった。
怒るのはあとでもいい。
先に、受け取るべきものを受け取らなければならなかった。
ジヒョはハート型のおもちゃを強く握った。
そして砕いた。
ぱきっ。
軽い音とともに、ハート型の物が割れた。
その中から光が広がった。
最初は手のひらの上で小さくきらめいただけだった。
やがて、それが部屋の中へ流れ出した。
ベッドの上へ。
机の上へ。
木のハンガーの下へ。
白い光が薄い霧のように広がった。
しばらくして、その光の中心に女神が現れた。
何事もなかったような顔だった。
まるで、少し散歩のついでに立ち寄った人のように。
「呼んだ?」




