失敗
誰からともなく、一歩前へ出た。続いてもう一人。さらにもう一人。
気が付けば騎士も術師も兵士も、少女へ向かうように半円を描いて並んでいた。
少女の額を冷や汗が流れる。
「あ、あの」
全員の視線が集まる。
「赤い薬、青い薬、どっちにします?」
「……どちらでしょうか」
「え?」
「どちらを選べば」
「えっと」
少女は焦った。
「大きくなります」
「何がですか」
「あなたが」
「は?」
「せ、世界が」
「どっちですか」
「あ、あの」
少女は後ずさった。一歩。さらに一歩。
群衆のなかでは跪くものや、祈るもの、ひれ伏すものが現れた。
「天使様だ……」 「いや、女神様に違いない」「おぉお…」
少女の顔色はどんどん悪くなった。
「ああっ……マズイ」
その時だった。
遠くから土煙が上がった。地平線の向こうから馬車の列が現れる。
何十台。いや何百台。やっと援軍にきた最凶の軍団だった。
大量の荷車が連なっていた。先頭の男が大声を上げる。
「おーい!」
呑気だった。信じられないほど呑気だった。
「腹減ったろー!」
誰も返事をしない。
「どうした?」
さらに近付いてくる。
「なんか静かだな」
群衆の間にざわめきが広がった。
一人の騎士が呟く。
「待て……」
「どうした」
「爆裂団だ」
「何?」
「あれは爆裂団のはずだ」
周囲がどよめく。
あり得なかった。
爆裂団。
最前線の精鋭中の精鋭。
あまりにも呑気だった。
手まで振っている。
「おーい!」
兵士たちは顔を見合わせた。
「なぜ生きている?」
「いや、それより……」
術師の一人が周囲を見回した。
眉をひそめる。
「何かおかしくないか」
「何がだ」
「ここだ」
荒野だった。誰もが知る激戦地。城壁があった。砦があった。
死体があった。だが今は。見渡す限りの荒野だった。
何もない。戦場だった痕跡すらない。
群衆の視線がゆっくりと少女へ向く。
少女は硬直した。冷や汗が一筋流れる。
少女は空を見上げた。
「ああっマズイ!」




