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軍神と呼ばれる魔女は兵法を知らないし剰え魔法も知らん ─ Ready for the misunderstanding ─  作者: テンチョウ
第五章 ~風馬牛の祈り、社稷を檄する~

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第79話 配役

 残された(キョウ)軍は、七百の大隊の方にいた大佐の指示により、一つにまとまった。

 親衛隊は逃げ、汐径軍も戦闘の意思はなかった。

──いったい何が起きているのか?

 乍洪(サコウ)が現状を把握しきれず眉を寄せていると。

「准将。大佐が来ていただきたいと──」

 知った兵が乍洪を呼びに来た。

「今の私は中佐だ」

 間違いを訂正した乍洪だったが『准将でない』という意味か、降格を予感しての『まだ中佐』という意味か、自分でも判然としなかった。

「いえ、そう言うよう大佐が・・」

 兵は奇妙なことを言った。

 とまれ──。乍洪は大佐の元へと向かった。




「まず、董彬(トウヒン)公爵が死亡しました」

「──そうですか」

 大佐の言葉に乍洪は静かに返した。

 重大な話ではあったが、戦場に出たならば死ぬこともあるだろうとの感慨だった。同時に、親衛隊が逃げ去ったのにも納得を持った。

「そして、その前に公爵により董計(トウケイ)殿が斬られています」

「な!? どういうことです?」

「それが、三男の董捷(トウショウ)殿も殺されたらしく、董計殿はその死に関与してると公爵は考えたようなのです」

「は!?」

 さしもの乍洪も困惑を禁じ得ない。

「そもそもの話ですが──、今回の行動は、董計殿を捕らえる目的があったとか。汐径軍が彼に協力している可能性を考えて軍を動かしたとのこと」

「よもや──。いやしかし、それならば何ゆえ戦闘が起きたのです? 董計殿は汐径軍から戻り、公爵は彼を斬ったのでしょう」

「その事で准将を呼んだのです」

 その言い方から何かの誤りではなく、大佐は乍洪を、あえて准将とするつもりのようだ。それは即ち、重要な意思決定が控えている事を暗に告げていた。

「親衛隊の者が耳に聞いただけの話ですが、汐径軍には行方不明となっている董本(トウホン)様がおられるというのです」

──!?

 驚きと共に乍洪の胸裏に浮かぶのは、襲撃事件での臆測だ。

──やはり董彬が・・

 董本がいると知ってなお、戦う選択をした董彬に疑いを強くした。

「おそらくその関連だと思われますが、汐径側から代表数名での会談が打診されました」

 大佐の言葉に。

「私にも同行をという事ですか」

 乍洪が確認すると大佐は黙って頷き。

「わかりました」

 乍洪も神妙に返した。





「どうかな、杜察(トサツ)伍長?」

「はい。血抜きは終わったんで。今から解体に取り掛かるとこっす」

 杜察は隊長の問いに答えた。

「うん、イイね」

 言った隊長に。

「少佐。孫能(ソンノウ)中佐が会談に行くので、全軍の指揮権を預けたいとのことです」

 崔弱軍曹が来て言った。

「あー。それって本隊に行く必要あるのかな?」

「いえ、その必要はありません」

「うん。わかった──、ご苦労様」

「少佐。将校服がかなり汚れてらっしゃいますので、交換されては如何でしょうか」

 崔弱は提案した。確かに隊長は血と泥にまみれていた。

「あー。ってことは替えがあるの?」

「はい。用意しています」

「流石だね──、軍曹。じゃあ、ちょっと着替えようかな」

 隊長は言うと。

「あともよろしくね」

 杜察にも言葉を掛けて、崔弱と立ち去った。


「伍長、お願いします」

 下に付けられた兵に言われ、杜察は刃物を手に取った。そして見事な手際で、馬を肉塊へと(さば)いていく。

「おお~」

 兵たちが感嘆(かんたん)の音を発した。



 杜察は本営の兵で、此度(こたび)の作戦に()いて鮑謖隊に出向となった五十人の一人である。彼は以前、辛国報復戦にも参加し、そこでも鮑謖隊に配属された。

 出来る兵というわけでもなかった杜察だったが、戦後、伍長に昇任した。さして活躍した記憶はない。しいて挙げるなら、動けなくなった馬を潰したことぐらいであろうか。

 それでも出世は出世で、杜察の日常は一変した。

 周囲から『実戦ではやる男』と思われてしまったのだ。それは過分な評価の勘違いであったが、否定するのも何だか(はばか)られたため、以降、杜察は期待を壊さぬよう振る舞った。

 さりとて、所詮はメッキ──。

 そろそろ()がれ掛けてきたかというときの、今回の出向。杜察は、鮑謖隊から指名される形での参戦となった。

 同じような者は他にもいて、先刻見事な連携を披露した楊休(ヨウキュウ)などがそうだったが、杜察の場合は自分でも(いぶか)しむ話であった。


 しかしここに来て、隊長から。

「また馬を捌いてもらえるかな。杜察伍長の技術は確かだからね」

 と、言われ、杜察は何となく察した、

──このために呼ばれたっすか。

 そして。

──この人が俺を伍長にしたっすね。

 おそらく評価を付ける何かで高めにしたのであろう。馬の解体を楽しそうに見ていた隊長だ。想像するに、さもありなんであった。


 詰まるところ、杜察は、屠殺(とさつ)が上手いから出世した男であった。



 さはさりながら──。

「流石ですね伍長」

 メッキでも勘違いでも、向けられる敬意は本物だ。

「コツを掴めば誰でもできるっす」

 杜察は謙遜しつつ手本を示し、兵たちを指導していく。

──しばらくは出来る男でいくっす。

 体裁(ていさい)を取り繕うための杜察の振る舞いは、またぞろ彼を一目置く存在へと(いざな)った。

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